陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「独立少年合唱団」

2009-09-17 | 映画──社会派・青春・恋愛
以前、伊藤淳史主演の「鉄塔武蔵野線」のレヴューで、推薦いただきましたので、観賞してみました。
2000年の映画「独立少年合唱団」
第50回ベルリン国際映画祭アルフレート・バウアー賞受賞、キネマ旬報2000年度ベストテン第8位、助演男優賞受賞作品。

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1970年代の日本。父を亡くしたばかりの中学生、道夫は全寮制の男子中学校に転校する。
吃音症のためクラスのガキ大将たちにからかわれるが、うるわしい声の持ち主康夫とは親しくなる。誘われて入部した合唱部で居所を得て、充実した学生生活を送り出す。合唱部の顧問で音楽教師の清野は、父親のように優しく接してくれる。

コンプレックスを抱えた思春期の青少年が、部活動やもしくは尋常ならざる活動に身を捧げることで成長していく、というよくあるパターンなのですが、そこに異色性を与えているのが、時代性。
東大の安田講堂が占拠されたのがたしか68年だったか。その時代を反映するように学生運動の余波が、平和な学び舎にも忍び寄る。清野の後輩である女テロリスト里美が落ち延びてきたことから、物騒な事件が生じます。

その陰惨な結果に衝撃をうけた康夫は、革命思想に取り憑かれ、家出。しばらくのち、ふらりと帰ってきた康夫は、道夫に「声が出なくなった」と告げる。
東京に行くために合唱コンクールでの優勝を狙う康夫は、道夫を口代わりにして、団員に猛練習を強いるのですが…。

個人的には、合唱コンクールのあとのシーンは、蛇足のようにも思います。
康夫の声が出なくなったのは、声変わりというだけでなく、精神的な疾患だったのでしょうか? それとも血を好む不純な思想にまみれたからなのか?

全寮制の男子中学(しかもミッション系のスクール)という設定から、まさに「マリみて」の男版といえそうですけど。
森鴎外とか、谷崎潤一郎が描いていそうな世界ですね。
途中の蓮池のシーンは、けっこう幻想的でした。

私が生まれる前のことなのでよくわかりませんが、70年代はウィーン少年合唱団がやたら流行っていて、変声期前の少年の声に女の子は酔いしれたらしいです。

主役の道夫役の伊藤淳史は、いまとあまり外見が変わっていないですよね。むしろ今のほうが年より若く見えるんじゃないかな。妖しい魅力を放つ美少年康夫に、藤間宇宙(とうまそら)。とても美しいボーイソプラノを聞かせてくれます。
音楽教師清野を演じた香川照之の演技力はやはりたしか。とくに情感たっぷりの指揮のしぐさは。

(〇九年八月二日)

独立少年合唱団(2000) - goo 映画

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2 Comments

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Unknown (ヒロ)
2009-09-18 10:37:35
以前 立ち寄らせて頂いた者です この作品を 取り上げて頂き とても嬉しいです  内情をよく描かれている作品ですよね  特に主役の2人の他   音楽教師役の香川さんの存在感が大きく   メリハリの効いた表情作りと声質が 作品を光らせていると感じます~  現在 個人的には ホームページは運営していませんが 機会があれば また 寄らせていただきます   
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ご推薦に感謝。 (万葉樹)
2009-09-18 20:32:44
以前とHNが違うけれど、推薦者の方ですね。その節はありがとうございます。

基本的に邦画は侮ってあまり観ないことが多いのですが、これはなかなか面白かったですね。
美しい高音が出なくなった少年は、皮肉なことに女性テロリストに感化されて、世界を変えること=大人になることだと信じて疑わない。
声楽を極めるためのコンクールが、向こう見ずな挑戦心の手段となって、音楽が政治に呑み込まれてしまう。
不器用な少年の一本道な成長譚のみならず、物騒な時代性を取り入れているのは、こういうことを考えさせためなのか、と思いました。

香川照之演じる音楽教師は、野性的な感じがしてよかったです。
伊藤君は、最近江口洋介主演の医療ドラマにも出てるようですが、性格俳優として大成していってほしいですね。
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