陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「デビルフェイス・エンジェルハート」

2012-12-14 | 映画──SF・アクション・戦争
2002年の香港映画「デビルフェイス・エンジェルハート」(原題:変臉迷情)は、兄を殺された殺し屋の復讐劇。畸形の主人公ですが、基本登場人物の九割はありえなくらい美形揃いです(笑)

生まれながらに顔の右側に醜い瘤があったロンにとって、こころを開ける存在は殺し屋である兄のクワンだけ。兄のボスである香港マフィアの首領ドラゴンの情婦ウェンディだけは優しく接してくれるが、他の連中からはつねに化け物扱いでさげずまれている身。ドラゴンから虐されているとウェンディに泣きつかれたロンは、ひそかにドラゴンを殺害しようと決意するが…。

香港版フィルムノワールのオペラ座の怪人というか、闇社会のエレファント・マンというべきか。タイトルが日本の某漫画っぽいだけにそのパクリかと思ってさほど期待していなかったのですが、80年代くらいの日本の極道映画のノリでしょうかね。人殺しとはいえ、余計な殺生は行わない主人公兄弟のおかれた状況に淋しさと悲しさを感じさせます。

ボスは兄弟によってあっさり銃弾に倒れるのですが、純情なロンもさすがにその後連絡がないと知るや、ウェンディに騙されたのではないかと疑いが芽生えはじめます。波止場にいた兄弟は奇襲され、兄は絶命、ロンは瀕死の重傷を負ってしまいます。果たしてその犯人は、あの女狐ウェンディでした。

闇社会で子飼いにされながら組織に楯突いた男という設定が「ダニー・ザ・ドッグ」を思わせますが、復讐の対象がのっけから移ってしまったことで緊迫感が増します。
さらにロンだけではなく、ロン兄弟に相棒を殺された若手刑事が捜査で切り込んでくる。三つ巴の対決、いやウェンディの派閥割れもあって四つどもえとと言うべきかと思えばそうもならない。

クライムムービーだけあってホラー映画なみのグロい流血シーンと、エロスの香りがたっぷりとまぶされています。ヒロインは悪女なんですけれど、顔が清純そうなのでふしぎと憎めないといいますか。肌をあまりあらわにしないの表情だけで艶っぽさが表現できるあたりがなんともそそられます。

いっぽう、かろうじて命をとりとめたロン。
そこには意外な女性が絡んできます。この女性、ロンにあれやこれやと親切を施してくれるくだりがまあなんとも…。さながら「マイ・フェア・レディ」の逆バージョンってところでしょうか。災い転じて福となす、新しい顔をもつ人間として生まれ変わったロンですが、兄の死に対する恨みは忘れてはいまい。

悪い連中にはそれなりに絆のもつれで引導が下るので爽快感は得られますね。
女性が官能の道具として扱われすぎるというきらいがあるけれど、不快に感じない。
自分と幼い相棒の弟を救ってくれたことで職務をこえてひそかに親近感をいだく若手刑事。彼との絆が闇社会から抜けだすきっかけとなればいいと願いつつ、ラストは哀愁を残したしめくくり。兄以外に人間を信じられなかった主人公がなぜ刑事に近づいたのかが明らかになるのですが、なんとも切ないですね。

監督はビリー・チョン。
出演はダニエル・ウー、スティーブン・フォン。
アジアンテイストのBGMがいい味出しております。邦題をもうすこし工夫すればよかったのにと惜しまれますね。

(2011年7月12日)

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