陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

アニメ映画「紅の豚」

2010-07-11 | 映画──ファンタジー・コメディ
1992年のスタジオジプリ作「紅の豚」は、宮崎駿の異色作といってもよいでしょう。戦う美少女を描いた「風の谷のナウシカ」とも違い、ぶさカワイイ(?)生き物と幼女との交流を描いた「となりのトトロ」とも違い、主人公はでっぷりと太った醜い豚の顔をした男。空に身を置くためだけに戦う孤高のパイロット、中高年の悲哀を掻き立てるキャラクターですが、発表当時はどうにも、この主人公に馴染めなくて毛嫌いしていたものです。ごめんなさい。

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1920年代のイタリア。
みずからの顔に魔法をかけて豚に変身した風変わりなパイロット、ポルコ・ロッソ。水陸両用の飛行艇に乗り込み、アドリア海を荒らす空賊を捕らえて暮らしている。名うての賞金稼ぎである彼の名は,広く知れ渡っていた。空賊同盟は、ポルコに一矢報いるべく、アメリカ人パイロットのドナルド・カーチスを雇う。カーチスと撃墜されたポルコは再起を誓うべく、なじみの修理工場へ…。

ストーリーとしては、訳あり事情を抱えた腕利きの戦士が、強敵に一度は破れ、リベンジを果たすというありきたりな流れ。
宮崎監督はアニメながらも、エンターテインメントではなく、往年の名作洋画をしのばせるような渋い熟年のロマンスを描き出したかった模様。はたして、その目論みは、深みのある声優陣の演技や、挿入された音楽や主題歌、粋な台詞のやりとりで果たされています。
ただ、終盤のポルコとカーチスの決闘が、空撃戦もそこそこに離脱して、ただの殴り合いに終わってしまうのはあっけないですね。

展開としてはひねりはないのですが、時間を追うごとになぜか格好良さを醸し出していくポルコの魅力が増していってしまうのがふしぎ。ホテルの女主人で歌姫のマダム・ジーナの凛とした美しさ、はねっかえり娘の整備士フィオとの淡いロマンスがなんともいい味出していますね。そして、登場時は紳士然としていたけれど、滑稽な色男に堕ちてしまうカーチスや、荒くれ者の集団だけど女の子にゃめっぽう弱い空賊の立ち回り方もおもしろい。このあたりは、「天空の城ラピュタ」を思い起こさせますよね。

ポルコがフィオに語る幻想的な回想シーンは、サン=テグジュペリの『夜間飛行』の飛行士の昇天を思わせます。詩想豊かに表現された、一編の悲劇。まさにそのように描写しえなかったポルコの胸につのる生き苦しさ、その捌け口をもとめて空を渡るしかない切なさがわかります。ひょっとしたら、彼は賞金稼ぎというよりは友人のような目に遭わせたくなくて、あえて空賊を安全に捕縛しているのはないかとさえ思うほど。

声の出演は、森山周一郎、加藤登紀子。

(2010年7月2日)

紅の豚(1992) - goo 映画

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