陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「アメリカン・ヒストリーX」

2012-07-04 | 映画──社会派・青春・恋愛
1998年のアメリカ映画「アメリカン・ヒストリーX」は、アメリカに根強く残る人種差別に翻弄された兄弟を描いた衝撃作。


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カリフォルニア州ヴェニス・ビーチ。
車の強盗犯を射殺して投獄された兄デレクは服役中。
弟のダニーは兄の影響を受けて、ヒトラーを崇拝し反抗的な思想をもつために、高校では問題視されています。黒人の温厚なスィーニー校長はダニーを更生させるためにレポートを課すのですが。
デレクたち傷心の若者たちを煽動して白人至上主義を叩き込み、徒党を組んで犯罪に走らせる首謀者キャメロンを慕い、ダニーも暴力へと足をつっこんでいます。

ところが、三年の刑期を終えて出所した兄は、どこかダニーにはよそよししい。
ツッパリを止めて、模範的な生徒になれと諭します。およそらしくない兄貴の態度に、ダニーは困惑しきり。デレクは自分を崇拝する暴力グループからも脱退し、弟をも連れ出します。
兄を改心させたのは、刑期中の三年間。防波堤となるために身を寄せていた白人たちからは裏切られ、そして陽気な黒人青年との交流で、みずからの過ちを学びなおすのです。

デレクが暴走した背景には、彼の家族に起こった痛ましい過去が反映していました。しかし、そこには彼の非行を助長する別の側面も隠されていたのです。

若気の至りと、義侠心の強さが若者たちを暴力と狂熱に駆り立てていく。
いつの世の倣いでもあります。最後は悲劇の連鎖を食い止めるかに見えて、けっきょく、そうならない。怒りに任せて人間の絆を断ち切ってしまうことの愚かさを伝えたものでありますが、だとしたら、もうすこしひねったラストにしてほしかった気がします。これだと、ただのヴァイオレンスムービーにしか過ぎないようにも感じます。

しかし、映画などでおためごかしに黒人差別撤廃を訴えても、簡単にはくつがえることのない根の深さを感じます。合衆国初の黒人大統領が誕生しても、移民差別問題はなくならないのですから。

この問題、外国人留学生に職を奪われつつある日本人の若者にとっても無関心ではいられないはずです。行き過ぎたナショナリズムは、いつだって力に溢れ暴れれば何でも手に入ると考えている若者たちを焚き付けるものなのです。

監督はトニー・ケイ。
出演は「25時」のエドワード・ノートンと、「ターミネーター2」のエドワード・ファーロング。主演ふたりの男の色気では、目立っていた映画でした。ただ、日本の仁侠映画をアメリカの社会問題に当てはめたようなつくりだったようにも感じますよね。

「怒りに任せるには人生は短すぎる」──まさに言いえて妙の言葉です。


(2011年1月30日)

アメリカン・ヒストリーX - goo 映画

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