陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「晩秋」

2009-09-21 | 映画──社会派・青春・恋愛
1989年の映画「晩秋」(原題:Dad)は、高度高齢化社会を迎えているわれわれ日本人は、ぜひとも観ておきたい作品です。
この映画で描かれていることは、日本のドラマでも採り上げられているようなもので、別段珍しくないことです。でも、日本は終末医療や介護問題を扱うドラマをつくると、異常な悲愴感を漂わせて痛々しいことこのうえない。
しかし、この映画は、そのあたりをやんわりと和らげています。息子が最期を迎える父に伝えた言葉によって。

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仕事人間のジョンは、ある日、母ペットの危篤の報をうけ、実家に帰省。驚いたのは、往時の影すらないほど老いさらばえた父ジェイクのすがた。母が入院中、身の回りの世話もできない父とともにすばらく暮らす決意をする。
やがて母も無事、退院。父との田舎暮らしに、家出していた息子のビリー、そして妹のアニーとその婿も加わって、ジョンの日々は幸せそのものだった。
だが、ジェイクに悪性の末期ガンが見つかってしまい…。

単純に痴呆症の老人を扱うのに苦労する介護問題のドラマではないところが、おもしろい。ジョンはむしろ、これまで家族を犠牲にしてきたお詫びにと、献身的な介護を行います。けっして、仕事のことなど持ち出さない。
父との絆を深めるいっぽうで、離婚してほったらかしにした息子との信頼関係も回復していくジョン。ビリーも父と同様に、祖父の看護に付き添っています。
そして、リアルだなと思ったのは、異常な行動をとりはじめた夫ジェイクに対して怒りを爆発させてしまう妻のペット。それをちゃんと説得するジョン。死に瀕した父に後悔のない人生を過ごさせたいという思いがひしひしと伝わってきます。

老人介護問題、病人の看護、離婚、父と子、夫婦間の絆。けっして他人事とは思えない複雑な家族の問題が、この物語には含まれています。
監督が日本びいきなのか、アンドレイ・タルコフスキーの遺作「サクリファイス」もそうでしたが、登場人物たちが日本の習慣になじもうとするシーンも。長寿の日本社会は、こうした問題をクリアできるお手本になれるといいですね。

今度、家族を看取ることがあれば、けっして後悔しないように、ジョンのように愛情を持って介護したい。最期までの時間をたいせつにしたい。そう決意させてくれる、こころあたたまる映画でした。
二〇、三〇年経ってまだ生きていたら、もういちど観たい映画のひとつです。

主演は、父ジェイクにジャック・レモン。このとき実年齢65歳の俳優は、78歳の老人をみごとに演じ切っています。
息子のジョンは、「白いドレスの女」で主人公の弁護士の親友役だった、テッド・ダンソン。
妹婿を演じたのが、「シッピング・ニュース」など冴えない男を演じさせたらピカいちのケヴィン・スペイシー。気難しい姑をうまくやりすごす忍耐力は、見習いたいですね。

監督・脚本はゲイリー・デイヴィッド・ゴールドバーグ。

晩秋(1989) - goo 映画

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