陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の勇者・大神ソウマの秘め力(三)

2017-12-10 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
さて、これからが今回の本題。
大神ソウマと姫宮千歌音との関係についてです。これは来栖川姫子を介した関わり方として、作中では巧みに比較されて描かれています。

物語がスタートした時点で、ソウマも千歌音も、姫子にとっては友人のひとりにしか過ぎませんでした。しかも、どちらも学園の人気者。ひそかに交友があることも口に出せない状態です。姫子にむしろ近かったのは親友の早乙女真琴のみでした。

第一話、姫宮のお誕生日会が開かれるその日。
つまりは姫子と千歌音が十六歳を迎える直前。千歌音が姫子に逢うためのドレスを念入りに用意していたように、ソウマも告白を控えていました。しかし、彼の淡い期待は突然のロボットの襲撃によって、打ち砕かれます。あろうことか、ソウマは最初、純粋なオロチの本分である破壊衝動として覚醒してしまい、仇敵たる巫女の姫子に襲いかかってしまうのです。このとき、千歌音が颯爽と馬で駆けつけ、姫子の名を聞き及んだことから、彼は自我を取り戻します。その後の活躍は言うまでもないですね。二の首を完膚無きまでに撃退させたあとは、並みいるオロチの襲来にも連勝。ツバサ戦で敗北を喫するも、再戦で勝利。しかし、彼にはそののち、ありえない人物がラスボスとして立ちはだかります。

ここで彼の基本スペックを確認しておきましょう。
容貌良し、成績優秀、スポーツ万能、由緒正しい大神家の息子。乙橘学園の貴公子と呼ばれる存在。姫宮千歌音と互角に渡り合えます。いまでいうなら、さしずめ、スクールカーストの頂点にいるポジションです。現世においては、ソウマと姫子の馴れ初めのほうが古い。家族を失いながらも孤独をすり寄せて親密になっていた幼い少年少女時代の想い出は、高校生で再会したふたりを結びつけるには十分すぎるほどの動機でした。

怪我をして気まずくなった真琴に変わって、姫子の傷ついたこころに寄り添うソウマと千歌音。いじめっ子たちを退けるのも彼らの役目。しかし、姫子にとってはどちらといたほうが心地よかったのでしょうか。学園理事長の孫でもあり、財閥の総領娘でもあり、社交界の花形でもある千歌音には多くのシンパがあり、うかつな人物が近づこうものなら追い払われてしまいます。だからこそ、「来栖川さん」「宮様」と呼ばなくてすむ空間が、あの薔薇の園の他にはなかったのです。いっぽう、学園内での行動を見ると、どちらかとえいえば、姫子がソウマとふたりきりであったとしても、あまり騒がれてはいないではないか、と思える節があります。

大神ソウマに比べると、姫宮千歌音はあまりに大きな、重いものを持ち過ぎていました。ソウマや姫子のような境遇からすれば、食うに困らない財力や間違ったことをしても誰も刃向かえないほどの地縁など、まったく羨ましいものです。しかし、千歌音にとってはそうでありませんでした。おのが身の類まれなる美貌や才能ですら、平凡な姫子を萎縮させ、遠ざけてしまう。千歌音が衆人の面前で声ひとつ掛けただけで、嫉妬の対象にされてしまう。それがわかっているからこそ、お互いに衆目あれば他人のふりをする、極秘の親友関係でした。そして、千歌音から姫子を遠ざけていたものはさらにひとつ。それは禁断の愛ゆえにほんとうの気持ちを打ち明けられないことでした。

物語の序盤、正義のヒーローとして姫子のために闘うと決意したソウマ。オロチとして襲ったことを打ち消すかのように快進撃を続ける彼に、自分を護る術のない姫子はますます気持ちを寄せてしまいます。いっぽう、巨大なオロチ機に対峙する力もなく、ましてや女の身で逃げるとしても限られる千歌音からすれば、ソウマとの格差は開くばかりと言えるでしょう。自分の想いが報われることはない。自分の感情を裏切って、姫子の恋を応援する親友を演じつづける千歌音。自分が姫子を護ろうとすればするほど自分が傷つき、そして無力感にうちのめされてしまう。こころで悲鳴をあげながら、彼氏とのデートに華やぐ姫子を見送ってしまう。やがて、第七話。彼女は「自分の手では絶対に姫子を救うことができない」、あるおぞましい真実を知るに至ります。

兄弟の相克を乗り越え、一段階男らしくなってプロポーズもしたソウマに比べ、千歌音の知った決定的な事実は、彼女の愛情も優しさも歪めてしまうにはあまりに過酷なものでした。巫女を襲いたい、殺したいというオロチの本性に逆らいつづけたソウマに比べると、千歌音はあまりに自分の本能に委ねてしまった、という見方もできます。千歌音の犯したことは通常許されるべきものではないのですが(女だからといって暴行罪が免罪になるわけではない)、ひょっとしたら、姫子の逃げ場としてのソウマを信頼していたからこそ行ったのかもしれませんね。

神無月の勇者・大神ソウマの秘め力(目次)
神無月の巫女考察シリーズ第三弾。絶対にやってはいけない(?)大神ソウマの視点から、アニメを解釈してみよう!

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