陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ヒトラーの贋札」

2014-11-29 | 映画──SF・アクション・戦争
2006年のドイツ・オーストリア映画「ヒトラーの贋札」( 原題:Die Fälscher, 英題:The Counterfeiters )は、強制収容所で紙幣贋造を余儀なくされたユダヤ人技術者たちの苦悩を描いたドラマです。

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贋作画家のユダヤ人サロモン・ソロヴィッチ、通称サリーは、偽札づくりに手を出してしまい、ベルリンの犯罪捜査局に逮捕されてしまう。アウシュヴィッツ強制収容所では絵の才能を生かし労役を免れて絵描きの仕事を与えられるも、ザクセンハウゼンの収容所送りに。
技能者の男だけが集められたそこは、はるかに待遇がよく、労働も軽い。収容所所長のヘルツォーク少佐はソロヴィッチには友好的だった。だがある日、ソロヴィッチは暴君的な小隊長から、収容所内の工場でひそかにポンド札、ドル紙幣の偽造を持ちかけられる。

のちに、ベルンハルト作戦と呼ばれる国家による紙幣贋造事件。
ナチスの目的は、英国経済の撹乱。精巧さを極めたソロヴィッチたちの職人仕事により生まれた偽札は、英国でも見破られないほど。
命惜しさ、懲罰恐さに贋造に励むソロヴィッチたちと、ナチスの不正の先鋒担ぎをして良心の呵責に苦しむアドルフ・ブルガーらの反対派。収容所内の空気はふたつに分かれてしまいます。

仕事のできばえに手応えを感じていたソロヴィッチも、贋造を除けばドイツ人将校には人間扱いされていません。贋造を阻止するアドルフたちの妨害工作で、進捗が遅れると容赦なくドイツ人の鉄槌がくだる。自分の指揮した偽札が仲間の命を保障したと自負していた彼にとって、それは耐えがたいこと。

「印刷業とは真実を刷る仕事」と目を血走らせて訴え、頑強にサボタージュに走るアドルフと、いっけん臆病で媚びているようにみえるけれど病弱の青年を救うために裏取引に応じざるを得ないソロヴィッチ。どちらに肩入れすべきか迷ってしまいますね。無論、真っ先に憎むべきはドイツ兵の悪逆非道ぶりですけれど。

人間の尊厳を棄ててまで、生き延びるべきか。それとも殉教者きどりの正義漢でむざむざ自分を死なすべきか。戦争ドラマで民族差別という点を抜きにすれば、そんな普遍的な問いを投げかけている気がいたします。
たとえば、現代でも談合やインサイダー取引などの不正はよくよくあること。自分がこの場にいたら、どう動いているのだろうか。

歴史的な結果をみれば、のちに彼らが解放されることはわかりきってはいますが、その後の虚無感にとらわれたソロヴィッチの姿がなんとも哀れですね。お金を湯水のごとく使い果たしても、彼の無念はけっして晴らされえないのでしょう。

原作は、本作にも登場する印刷工アドルフ・ブルガーの著書『ヒトラーの贋札─悪魔の工房』
主演は、ソロヴィッチ役にカール・マルコヴィクス、アドルフを演じたのがアウグスト・ディール。
監督はステファン・ルツォヴィッキー。
第80回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞しています。

(2010年7月5日)

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