陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「七人の侍」

2011-07-07 | 映画──SF・アクション・戦争
2010年の6月に、英エンパイア誌が「史上最高のワールドシネマ100本(100 Best Films of World Cinema)」を発表した。ワールドシネマとは、英語以外の言語圏の外国語映画という意味あいである。その栄えある一位に選ばれたのが、黒澤明の代表作、1954年作の「七人の侍」だった。

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今回その名画を初視聴したが、その噂を裏切らぬ大作であった。
オープニングの字面からすでに圧倒された。小津安二郎の映画もそうだが、いい邦画はまずなんといっても出だしがすばらしい。この期待感を最後まで保つことができる作品もそうざらにはあるまい。三時間を超す時間がまったくといっていいほど苦痛にならず、二度三度と視聴してみたいと思わせてくれる。
都会的な小津安二郎に比べると、黒澤明は海外受けのいい侍ものに照準を合わせすぎてあまり好きではなかったのだが、今回、その魅力をあらためて知らされた。

この映画はありていに言うならば、終盤は侍たちのチャンバラ劇である。
しかし、ここに出てくる七人の侍は、およそ時代劇で見慣れた戦のためならば命を捨て、名誉のためならば腹切ることも厭わず、功名恩賞のために働く、儀礼的な武士たちなどではない。

時代は戦国時代。
秩序はあってないようなもの、無法者と化した野武士たちが集落を襲う。なけなしの貯えさえ年貢で奪われ、さらには野武士に強奪されていく百姓たちの窮状がなんとも憐憫の情を掻き立てる。

野武士から村を守るため、百姓の利吉たちに懇願されて護衛に寝食の提供だけで雇われたのは、島田勘兵衛率いる七人の侍たち。彼らはいずれも仕えるべき主君もおらず、百姓に忠誠を尽くす義理もない。敵は四十騎、こちらは馬も銃も持たない七人。命を投げ出すには高くつく仕事でしかない。

しかし、七人の頭領となる勘兵衛の律儀な人柄を慕って、参謀格の五郎兵衛や旧知の戦友の七郎次や、勘兵衛に羨望を抱く若者・勝四郎、剣豪の久蔵、ムードメーカーの平八らが行動を共にする。とりわけ異彩を放つのは野性味あふれる菊千代の存在。菊千代を介して、侍の協力を仰ぐことに及び腰だった一部の村民たちと、統率をとろうとする勘兵衛たちとの距離がふしぎと埋まっていく。なんどもその絆がほつれそうにはなるが、そのたびにまとめあげていくエピソードがふんだんに盛り込まれていく。血なまぐさい後半の戦いの前の胸があたたくなる場面だ。

終盤は野武士との決戦となり、勘兵衛の知略を持ってして防備につとめるが、味方に少なからず犠牲を強いることになる。
よくある合戦もののように、流血ざんまいの戦闘シーンを見せ場にはしていない。七人それぞれのキャラクター造形はしっかりしているが、それに負けず劣らず際だっているのが百姓たち。じっさい、侍たちは敵方の足払いをしただけであって、最後に仕留めて勝利したのは一致団結しえた村民たちであったといえるだろう。民衆は手ぐすね引いて見守っていて、選ばれた英雄たちが世界を救うというありふれた筋書きではないからこそ、身近に迫ったものとしてすなおに感動できる。

出演は三船敏郎、志村喬、稲葉義男、宮口精二、千秋実、加東大介、木村功など。
1954年度 ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞している。本作を西部劇の舞台に置き換えたのが、「荒野の七人」であることは有名。

(2011年3月22日)

七人の侍 - goo 映画

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