陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「Vフォー・ヴェンデッタ」

2011-10-16 | 映画──SF・アクション・戦争
2005年のアメリカ・イギリス・ドイツ映画「Vフォー・ヴェンデッタ」(原題:V for Vendetta 復讐のVという意味 )は、アメコミが原作。独裁国家と化した近未来のイギリス、テロ活動をつづける謎の仮面の男を描いたサスペンス・アクション。
いってみれば、近未来イギリス版マスク・オブ・ゾロといったところか。しかし、実はフィクションの味つけがあるけれど、かなりのこと切実な社会問題への提起を孕んでいます。

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1605年、11月5日、火薬陰謀事件の首謀者ガイ・フォークスが処刑される。
それから400年後。第三次世界大戦後、ナチスのような一党独裁政権が牛耳り、アメリカに代わって世界の覇権を手にした英国。外出禁止令が出された夜間のロンドン、国営放送局(BTN)につとめるイヴィー・ハモンドは秘密警察の刑事フィンガーマンたちに襲われたところを、ガイ・フォークスの仮面をかぶった男 ”V” に救われる。

Vの目的は、暴虐・不正・弾圧にまみれた国家の転覆。
11月4日その夜、彼が中央刑事裁判所の爆破。ラジオを通じて国民を鼓舞した一件は、厳しい情報統制が敷かれ、政府に都合のいいように報じられる。

翌11月5日「ガイ・フォークスの日」、放送網をジャックしたVは市民に国会議事堂前に集結するように呼びかける。そして、聖職者やTV局プロデューサーなど圧政の有力者をつぎつぎに暗殺していく。Vは放送禁止されている名画を見せ、イヴィーの目を開かせる。幼い頃に抗議活動をした両親を拉致され殺されたイヴィーは、社会の異常には敏感であったが、Vに全面協力するには及び腰だった…。

原作が漫画とはいえ、大人でもじゅうぶんに鑑賞に耐えうるほどのできばえ。
近未来とはいっても過度なCGで街並をつくりあげたりはせず、現代からすこし背伸びした程度。貴重な隠し文化財のあるアジト、シェークスピアの台詞など文学の香りを散りばめ気障ったらしい雰囲気も見えはするが、その台詞廻しこそが醍醐味。そして時にはエプロンで料理をするというお茶目ぶりの仮面の男──初見では分からなかったが、彼がなぜ家庭的なのかはのちほどその正体で明らかになろう──というのも笑いを誘う。冴え渡る剣技。そして、敵とはいえ女性にはあくまで紳士的なことこの上ない。人民のこころを掴むには権力者を虚仮にして笑い者にするあたりも、イギリスらしいユーモアならでは。

Vを追うのは秘密警察の警視フィンチとダスコム。
被害者はありふれた薬品で毒殺され、加害者の証拠はまったくない。二人は殺された有力人物の過去を洗い出し、イヴィーの両親の過去や、Vの正体に迫ろうとします。しかしその動きはアダム・サトラー(ヒトラーのもじりと思われる)議長からの圧力がかかる。やがて被害者のひとり、ある女性医師の残した日記によって、政府のおこなったおぞましきホロコーストまがいの残虐行為、そのあとの暴動と鎮圧といった歴史の暗部が明らかになってきます。

復讐のためには手段を選ばないVの遣り口は、ときに残酷に映りますが、しかし大いなる決意を促すためには、このようなショック療法も必要なのか。戦いへの恐怖から逃げ続けてきたイヴィーは、死に直面しても成し遂げたい意志を抱く。そしてまた復讐鬼と化したVの過去の部分もなんともいえず切なさに駆り立ててくれます。硬派な男子向けアクションかと思っていたけれど、意外や意外、女性向けなんですよね。

監督は「マトリックス」のジェームズ・マクティーク。
出演は「スター・ウォーズ」のナタリー・ポートマン。今回、その美貌もさることながら髪を剃るなど体当たり演技。
冒頭以外まったく素顔を見せないV役は「マトリックス」のヒューゴ・ウィーヴィング。あの独特の色香のある声がいいですよね。フィンチ警視はスティーヴン・レイ、サトラーはジョン・ハート。
原作はアラン・ムーアの同名コミック。

それにしても、権力を握ったばかりに横暴になっていく政府首脳、そして国民の眼を欺くため真実をねじ曲げる報道規制、警察や法によって奪われる人権などなど、けっしてフィクションのなかだけでは片づけられないことですよね。一部のエピソードはオウム真理教のバイオテロを思わせ、戦慄が走ります。そしてそのあとのロンドン市民の暴徒化も。日本であり得ないことといえるのでしょうか。

同じ仮面を付けた人びとが花火を見上げるラストは圧巻のひと言に尽きます。

(2011年8月8日)

Vフォー・ヴェンデッタ - goo 映画



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