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がばっと飛び起きたところを、まぶしい閃光が走り、せっかく見開いた目をつぶらざるをえなかった。
姫子の寝起きを狙って、フラッシュが焚かれたのだ。腕で隠した覆いをそろりと外すと、目の前にいるのはカメラのレンズ…を構えた少女、額には水中眼鏡。
「え…?」
姫子が目をぱちくりさせる。
遊び疲れて、ちょっとしたうたた寝をしていたのだろうか。しかし、籘編みのリクライニングチェア、本格的に眠るにはあまり心地のいいものではないようだ。
「おお~っ。いい絵が撮れましたね~。あたしも天才カメラマンになれそうだ」
姫子と目があった真琴は、友人ご愛用のカメラを高々と上に揚げてみせた。
以前も寮のベッドで眠りこけている姫子の起き抜けを狙って、ぱしゃり、とやったことがある。そのときに姫子がすぐさま奪い返そうとしてすったもんだになったものだから、気がついたらすぐに、カメラを上空に避難させるようにしているのだ。だが、そのしぐさは空振りに終わってしまった。
「マコちゃん、どこもおかしくなってない?!」
姫子はやおら上体を起きあがらせて、真琴の両腕をおさえたまま、あちこちから眺め回した。
はい、あっち向いてと身体検査をするかのように、百八十度ぐるりと回して戻ってくると、真琴の気違いじみた者を見るような視線に出会ってしまった。てっきりカメラを無断で拝借したことを咎められることかと踏んでいたのに。
「おかしいって、なんだよ? ひとをバケモンみたいに言うな」
「だって、さっき、マコちゃんが…」
「あたしがなんだよ? プールの底で溺れて沈んでオダブツしかけてましたってか?」
「……そ、う」
「んで。ひょっとしたら、姫子サンがあたしを救助活動してくれました、と」
「そこまでは行ってなくて」
「なーる。そりゃ、そっか。おかしいな。はっはっはっ、と」
空笑いしている真琴に、姫子もそりゃそうだよねぇ、と釣られてふやけた笑いをしようとした。
真琴は口元だけ笑って、目は動かしていなかった。姫子の顔から視線は外さないままで、指先だけが下を向いていた。溺れたなんてもんじゃない。真琴の身体が無残に消えてしまったのだ。あんなに残酷な夢があるだろうか。
「ほんとにあんたが助けてくれりゃ、それにこしたことないけどさ」
「うん、そ…だね」
「夢見の悪いのは、それのせいか?」
お腹からは、開いたままの雑誌が滑り落ちた。
落ちる際に左右の頁が合わさるようなかっこうを見せたのに、床に仰向きになって貝のようにきれいに開かれていた。さいわいコンクリート面は乾いていて、背表紙が濡れはしなかった。開いた頁に挟み込まれた葉書が見えた。
そういえば、今日は八月の末日。
たしか締切日だったんだ。あのアンケート葉書にこのあいだ買ったコミックス新刊の帯についた応募券を貼れって送れば、あれが貰えたはずなのに。しまった、惜しいことをしちゃったな。…て、そんなこと考えてる場合じゃなくて。