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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「スタンド・バイ・ミー」

2012-04-08 | 映画──社会派・青春・恋愛
十代のころの、たった数日間のできごとが、その後の人生を変えてしまうことがあります。1986年のアメリカ映画「スタンド・バイ・ミー」(原題 : Stand by Me)も、たった二日間の行路を歩んで、自分の置かれた環境を離れた位置から見つめなおし、大人の手を借りず、剣や魔法などの力に頼らずに成長していく少年たちの物語。少年時代の想い出を描いた青春映画の傑作です。
原作はスティーヴン・キングの同名小説。


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1959年の暑い夏のまっさかり。
繊細なかおだちでアンニュイな雰囲気をまとった主人公ゴーディ、ガキ大将で親分肌のクリス、気が短い眼鏡小僧のテディ、そして、臆病、ケチで食いしん坊のいいとこなしのバーンは仲良し四人組。兄たちの話を盗み聞きしたバーンからの情報で、遠くの川近くに行方不明になった少年の遺体が放置されていると知る。発見者になれば、勲章を授けられ、この小さな町で英雄になれる。ささやかな夢抱いた四人は、さっそく探検に向かうが…。

物語はとても単純なのですが、こころに響くのがやはりあのBGMでしょう。
冒険を通して、少年たちが友情を深めはするが、宝物を見つけはしない。旅の過程で明らかにされるのは、それぞれの家庭の暗く重たい事情です。

事故死した秀才肌の兄と比べられるために両親から愛情を注がれないゴーディ。家が貧しいために素行が悪く大人たちから不良と見なされているクリス。ゴーディは優等生で優しかった兄の面影から逃れるように、この親友に惹かれはじめたのでしょうか。
また、四人のなかでは奇抜な言動がめだつテディは、ノルマンディ上陸作戦に参加しながら発狂した父をもつ。

傑出して目立つのは、クリスの魅力。なにせ、これはゴーティである著者の回想録に基づいているのですから、むべなるかな。
拳銃をこっそり持ち出して強気なところを見せたかと思えば、兄の不良仲間たちにあしらわれて手が出せない弱さも見せる。向こう見ずな行動で命を投げ捨てようとしたテディをからだを張ってとめる。小説家になりたい夢を応援し、ゴーディが進学クラスに進むことを願う。クリスとの友情と、将来の夢で揺れうごくゴーディ。理解のない実の親以上に、親代わりの台詞を吐くクリスのかっこよさにはしびれますね。ところが、夜になれば、信じていた教師に裏切られ、誰も自分を知らない土地へ逃げたいと願う涙までみせる。どれがほんとうのクリスなのでしょう。どれも、ほんとうのクリスなのです。人間にある多面的な性格をみせているだけなのです。

四人はそれぞれ持ちつ持たれつの友情で、慰めあおうとします。
線路で足の遅いバーンをからくも救ったゴーディは、持ち前の創作力で、太っちょで不器用な友人の意趣返しとなるような作り話を聞かせ、そのこころまで救おうとします。

沼地での恐怖体験かた萎縮してしまったゴーティが最後にみせる勇気が、いのちを賭けて発見したものを守り抜こうとした友人を救うのです。不良の若者たちは、子どもたちを虐げ、押しつけようとするどうにもならない環境、すなわち無法者がたむろする田舎町の象徴でした。

単に冒険を通して、友情を誓い成長した少年のストーリーだと括れない味わい深さがあります。
好奇心から二日がかりの旅を通して得たものは、何だったのか。勲章の証として手柄としてではなく,非業の死を遂げた同世代を弔うということ。それを通じて、ゴーティは兄の死を乗り越え、クリスは閉鎖的な街を飛び出して進学への夢をつなごうとするのです。

雑貨屋の店主がいう、聖書からの引用「生きるとは死に向かう事なり」という言葉はまさに、死を求めて森をさすらう彼らにぴったりの言葉です。血のつながりも生前の知遇もない不幸な人生の終わりに直面した、少年たちはもうすぐ終わろうとする少年時代を慈しむように生きねばならないと目覚めたのでしょうか。

筋書きはものすごく単純で、わかりやすいのに、とても深いことを考えさせてくれる名作です。
当時のヒットナンバーも劇中歌として歌われ、ミュージカル風の楽しさもありますね。

監督はロブ・ライナー。
出演はウィル・ウィートン、「マイ・プライベート・アイダホ」のリヴァー・フェニックス、「グーニーズ」のコリー・フェルドマン。成人した著者兼ナレーター役のリチャード・ドレイファスは、「未知との遭遇」の主演で有名ですね。


(2010年10月31日)

スタンド・バイ・ミー(1986) - goo 映画

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3 Comments(10/1 コメント投稿終了予定)

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お願い (この記事にコメント下さった方へ(管理人より))
2014-06-21 23:47:24
6月21日午前零時すぎに、この記事にコメント下さった方へ。

長文のコメントありがとうございます。
お返事を書きたいのですが、お名前もタイトルも「UnKnown」となっていまして、いささか書きにくいです。
とてもすてきな内容ですが、その点、いささか残念に思います。

もしよろしければですが、
いまいちど、お名前だけでも投稿下さいますと嬉しいです。
一部文字化けがありますので、こちらにて文面は保管し、あらためて再投稿させていただきます。

万葉樹
返信する
「少年から大人へ」 (6月21日の匿名希望さん)
2014-06-26 05:57:26
映画スタンドバイミーで非常に印象に残っているシーンは、クリスが「俺たちと一緒に
いるとお前の頭はにぶくなるんだ」と主人公ゴーディーに向かって言うシーンです。
その後に、テディーとバーンがマイティーマウスとスーパーマンはどちらが強いかなんてことを議論しているシーンが入ります。
クリスにはわかっていました。
12歳にして小説を書いてしまう頭脳明晰なゴーディーはそんな子供染みた話はまずしないだろうし、たとえしたとしてもそれは周囲の連中のレべルにあわせているにすぎないと。
クリスにはそれがこの少年にとってプラスにはならない、才能を無駄遣いするような、大変無駄な時間であると思えてならないのです。
この少年と自分たちは違うんだということをクリスはよくわかっていました。
しかしゴーディーはあくまで自分たちにあわせようとします。
「俺がお前の親父だったらくそったれの職業訓練コースをとるなんて言わせない。」
この台詞はクリスのどうしようもない泣きたくなるような孤独感を
よく表していると思います。
クリスは12歳で小さな弟や妹の面倒を見なければなりませんでした。
この歳で母親役をしなければならなかったのです。
クリスも子供です。
無邪気に何も考えず友達と遊びたかったはずです。
しかし父親は負け犬のろくでなし、兄は町の札付き。
当然負うべき義務を放棄してしまいました。
彼は子供であるということを許されなかったのです。
しかし、そんな彼のきつい境遇を理解してくれる人間は誰もいません。
唯一「孤独」という自分と似たような状況にある
このゴードン・ラチャンスという少年にのみその心情を吐露できるのです。
だからクリスにとってこの少年がある意味誤った道を進もうとする事にどうしても
我慢がならないのです。
「もしお前の親父がだめなら俺がそばにいてお前を守ってやる。」
私は、この台詞もそうですが、このシーンに「スタンドバイミー」という
タイトルのすべてが集約されてると思うんです。
この物語は「少年から大人へ」というのがテーマになっているのでしょう
しかし死体探しの旅を通じて、本当に大人になっていったのはこの二人だけのように
思います。映画では描かれませんでしたが、小説ではその後の彼らの顛末があります。
この旅を境にクリスとゴーディーは、テディーやバーンとは疎遠になっていきます。
別に付き合いを敬遠したわけではなく、自然とそうなっていったようです。
彼らにも旅を通じて、何かがわかったのでしょう。おそらく彼らと僕らは違うんだ
ということを何となく直感的に悟ったのではないかと。
こういうクリスみたいな子って自分たちの周りにも少年時代にいたのではないかと
思うのです。
しかしこういうのは大人になってはじめてその大切さに気付くんです。
「子供ってのは大切なものを簡単に捨てたがる」クリスはこんなこともいってました。





【管理人追記】
タイトルおよび投稿者欄が「Unknown」でしたので、こちらで調整のうえ、再投稿させていただきました。

返信する
ひと足先に大人になってしまう悲しさ (万葉樹(陽出る処の書紀))
2014-06-26 07:25:46
興味深いコメントを有難うございます。
私個人は、親友クリスが主人公ゴーディの才能をやたら誉めるシーンは、いかにも作家さんの矜持をオトナの立場から捉えたエピソードだと思いました。ゴーディが語る作り話の部分は、映像としてあまり面白いとは感じませんでした。が、おっしゃるように、他の友人に配慮してわざと下策な語りをしたならば、それは確かにゴーディの創作能力の高さというべきなのでしょうね。

教育に高いお金をかけて育てられた方にとっては、クリスの気持ちは分からないでしょうね。
ゴーディが学歴を軽んじたのも、優等生の兄の身代わりにされるのを怖れたゆえなのかもしれませんが、自分は作家や画家になるから勉強なんかしなくていい、と考えるのは、自己を過信している幸福な子どもたちにはよくあることです。

>こういうクリスみたいな子って自分たちの周りにも少年時代にいたのではないか

体がひと回り大きかったり、ませた考えをしている子なら見覚えが。
親分肌、姉御肌で小さな子分を率いているような。
でも、友だちの先々のことを考えてる子どもはそうそう居ないものですね。実のきょうだいでも、なかなかいない。クリスが小さい子の面倒みてたからそうならざるをえなかったのか。

キングの原作小説は読んだことがありません。『グリーンマイル』も名作ですので、いつかと思っているのですが。
しかし、映画の細部をよく覚えておいでで感心しました。

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