陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「リトル・ガール・ロスト / 娘よ」

2012-05-02 | 映画──社会派・青春・恋愛
1988年のアメリカ映画「リトル・ガール・ロスト / 娘よ」(原題:Little girls lost)は、虐待を受ける少女をまもろうとする里親の愛情を描いたもの。実話を基にした社会派ドラマです。

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仲睦まじいブレイディ夫妻のもとに預けられている四歳の少女テラ。
一歳のときから育てている彼女はもはや実の家族も同然。養子にしたくても実の父親エド・ドバスクが許さず、定期的にエドに訪問させなくてはなりません。しかし、父が迎えにくるたびにテラは悪夢をみてうなされて機嫌がすぐれない。夫妻はエドの虐待を疑うのですが…。

テラの言葉から性的虐待を確信する母ですが、児童保護司のネイサンはテラが夫妻のもとを離れたくないがための狂言と決めてかかっています。弁護士と相談した夫妻は養親縁組ができるように働きかけようとします。しかし、頼みにしていた判事が変更になったりとたちまち暗雲がたちこめます。

父と面会させるとい杓子定規な義務を果たそうとする児童福祉センターとは全面的に対決姿勢に。高校を卒業して自立する娘ケリーや同情した近所の人も応援してくれますが、里親の主張よりも実の親の権利が強い法の判断によって前途は多難の一途をきわめます。精神科医や医者の分析があきらかに、虐待を確定づけているにもかかわらず。五歳になったテラは、ブレイディ家から遠ざけられてしまう。夫妻は訴訟をあきらめず、高額な弁護費用の支払いのために家財を売りはらい借金を背負ってしまうほど。

父親が直接虐待している場面は描かれないのですが、ドバスク家に引き渡されたあととのテラの目に見える変化によって、この子がいかに可哀想な境遇におかれているかが良くわかるものです。

ブレイディ夫妻が依頼したウォルフ弁護士のつてで、テレビメディアに働きかけますが、なしのつぶて。しかし、テラを取り戻そうとする夫妻の執念は、やがて乗り気ではなかったリポーターをも動かしていきます。放送を渋っていた上司がさりなげなく味方する場面はいかにもアメリカ人らしい気の利いたやりとりですね。はたして彼らの執念は実を結び、テラは愛すべき「両親」のもとへ戻ってくることに。

裕福な暮らしを控えて(家財道具はないが、テラが帰ってきてもいいような準備だけは残してあることが、さらに感動を呼ばずにはおかない)までひとりの少女の幸福を望む夫妻の情熱にこころ打たれるとともに、いったん引き取りながら虐待を繰り返した実の親や、その事実を隠蔽した施設に怒りを向けざるを得ない。
子供がいくら泣き叫んでも大人の思惑や法律、公権力に阻まれ、意志を尊重されない。だからこそ、子供を守る立場の大人は血の繋がりがどうであれ、しっかりしないといけないと自覚させられます。

血は水よりも濃いといいますが、愛情の流れていない血は水よりもなお薄いといえるのではないでしょうか。こころを閉ざしてしまったテラをまた辛抱づよく愛し直していけばいいという決意をかためた夫妻の今後に希望がもてるラスト。

監督はシャロン・ミラー。
出演はテス・ハーパー、フレデリック・フォレスト、パトリシア・カレンバー。

(2011年6月1日)


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