陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「靴に恋する人魚」

2015-08-19 | 映画──社会派・青春・恋愛
2005年の台湾映画「靴に恋する人魚」は、靴が大好きな少女がお伽話にあこがれて、理想の男性と恋をしようとするラブコメ。しかし、後半から雰囲気が一変します。

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車椅子の少女ドドは、絵本が大好き。足をもらって王子様に逢いにいく人魚姫の話がお気に入り。
ある日、手術で足が治り歩けるようになります。成長したドドは美しい足がご自慢、極端に靴が大好きな女性に。絵本の出版会社に就職した彼女は、行きつけの歯科医スマイリーと恋に落ちて…。

理想の男性と幸せな結婚生活がスタート、しかし歯の衛生に何より命をかける夫と、靴のコレクションを大事に想う妻とは、しだいに愛情の咀嚼の狂いが生じはじめます。物欲の激しいパートナーと一つ屋根の下に暮らすというのは苦労しますよね、やはり。靴を買い足さないことを夫と誓うドドですが、誘惑に耐え切れない。やがて彼女を不幸な事故が襲い…。

かいつまんでいえば、これは人魚姫の書かれざる続きというべきでしょうか。
ふたたび人魚姫に戻った女を甲斐甲斐しく愛しつづける王子様。しかし、人魚姫は足どころか、それと引き換えにしたはずの声まで失ったままなのです。美しい靴が履きこなせない自分はもはや生きていく値打ちもないと心を閉ざす。会社にも顔を出さないので、いずれ経済的に行き詰まることが予想されます。
そして王子様のほうはといえば、彼の歯科医としての行く末にも暗雲が立ちこめはじめます。

後半のモチーフはマッチ売りの少女。あるいはオスカー・ワイルドの幸福の王子か。
白と黒の二頭の羊になぞらえたふたりの幸せは、マッチを擦った炎の向こうに見える幻想でしかないのか。秘蔵の靴を貧しい裸足の少女に贈ることで、靴を履けない自分にいだいた後ろ暗さを払拭しようとするヒロインの成長が描かれます。物に対する執着心を捨てることで精神の伸びを表すことはそう珍しくもないのですが、まあ夫婦が微笑ましいので許せましょうか。
目に見えるもの、ものの数で数えられることだけが幸せではないと気づかさせてくれる佳作です。

監督はロビン・リー。
出演はビビアン・スー、ダンカン・チュウ。

物語としてはそこそこおもしろかったのですが(ただし女性受けがいいキッチュさだと思う)、ただひとつ残念なのは字幕が読みにくかったこと。背景が白やパステルカラーになるときは黒の囲い文字にしてほしかったですね。
日本のファンタジーアニメに影響を受けた若い世代らしいつくりですね。

(2011年7月28日)

靴に恋する人魚 - goo 映画

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