陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「手紙」

2015-11-26 | 映画──社会派・青春・恋愛
2006年の日本映画「手紙」は、東野圭吾原作で話題になった小説の実写版。強盗殺人を犯した兄をもつことで、肩身の狭い思いをする弟の苦悩を静かに描いています。あまりにひどく主人公を追いつめるので、絶望的なラストしかないような気がしましたが、最後に救われます。後味のよい映画ですね。最近作の邦画で二度観なおしたものは珍しいです。それぐらい胸に沁みてきますね。

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大学を辞めて工場ではたらく武島直貴には、誰にもいえない秘密があった。
生活苦から強盗殺人を犯してしまった兄・剛志のせいで、マンションを追われ、進学の夢も諦めてしまったのだった。しかし、工場の食堂で働く由美子との交流で、ささやかな幸せを感じはじめる。バーテンダーに転職した直貴は、旧友の祐輔とコンビを組んでお笑い芸人としてデビューも果たす。しかし、獄中から届いた兄の手紙によって、秘密が露見しそうになり…。

ただ一人の肉親である兄と最初は熱心に文通していた弟。
しかし、金持ちの娘との恋愛が持ち上がり、しだいに兄とは疎遠になっていく。主人公は兄貴を邪慳にしていたわけではなく、また誰かを傷つけて幸福を手にしようとしたわけでもない。しかし、犯罪者の家族も同罪という世間の偏見と、自分ではどうにもならない運命のいたずらが主人公を追いつめていく。

刑務所暮らしながら世間の軋轢から守られている兄が寄越す、弟への親愛を込めた手紙の文面があまりに善人じみているだけにかえって、直貴の不幸感が増してしまう。

家電メーカーの社長はいっけん差別主義者のように思えて、しかし、犯罪の重みというものを語ることができる人物でもあるんですよね。そして、手紙というのが、兄弟間だけでなく、男と女のあいだでも意味をもつ。そしてまた、加害者と被害者との間でも。
どこかで見たことのあるからくりではありますが、文面だけで顔が見えないことが、人間の気持ちを否応なしに掻き立ててしまうことの不思議さがありますね。

主人公の苦悩は、彼が世帯をもっても続き、その子供にまで降りかかってしまう。
しかし、彼を支えようとする妻の、いや母としての健気さがいい。由美子も痛い思いをしているからこそ、直貴の側にいようとするのですよね。しかし、直貴は決断を迫られます。家族を守るためには、兄を見捨てねばならないのか。手紙はときに人の支えにもなるが、人の重みにもなるのですね。しかし、囚人からの最後の手紙が憎しみの連鎖に終止符を打つことになります。

主人公をお笑い芸人(原作ではバンドらしい)の設定にしたのが、最後に意外なかたちで利いてきます。
芸人を主題にした物語ってあまり好きじゃないんですけれども、ラストにかかる音楽(小田和正の「言葉にできない」)がいいですね。それは言葉を偽ったり着飾った手紙よりも、率直に、まっすぐに、自分の気持ちを伝えることができるもの。
そして、このエピソードはその手前で主人公と被害者遺族とのやりとりがあったからこそ、生きてくる。被害者が罪を赦せるのならば、世間のその他大勢の、なんら被害をこうむってもいない人間が何を言おうと気にする必要はない。そんなメッセージを感じました。

監督は生野慈朗。
出演は山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ、吹石一恵ほか。
沢尻エリカは昨今さんざんスキャンダルを振りまいている方なのですが、本作を見ると女優としては悪くない演技なんですよね。

この映画はぜひとも学校で上演してほしい作品です。


(2011年10月6日)

手紙 - goo 映画

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