陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「リトル・ミス・サンシャイン」

2011-09-03 | 映画──ファンタジー・コメディ
2006年のアメリカ映画「リトル・ミス・サンシャイン」(原題 : Little Miss Sunshine)は、ミスコンに出場する女の子を巡って一風変わった家族を描いたホームドラマ。あまり期待せずに観ていましたが、コメディだけどあまり下品なシーンもなく、家族層向けの内容です。湿っぽく家族の絆を描いたものではないので、気軽に観賞できますね。

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アリゾナ州に暮らす中流家庭のフーヴァー一家。
父のリチャードは、人生指南のプログラムを売り込み、本の出版で一儲けを企む野心家。つねに勝ち馬志向の彼の唱える論理にうんざりしているのが、長男で高校生のドウェーン。ニーチェにかぶれて、誰とも口を利かないという彼の夢は、空軍のテストパイロットになること。口やかましい祖父は、ヘロイン漬けで老人ホームを追い出された不良老人。そして、母のシェリルは、七歳の娘オリーヴのミスコンテストのことに熱を上げています。

シェリルの兄で学者だったフランクおじさんが退院して、フーヴァー家に身を寄せることに。折しも、オリーヴがミスコンの予選通過の知らせが届きます。浮き足立つ家族は、母の提案のもと、一家総出でオリーヴをはるかカリフォルニアにあるコンテスト本選の会場まで送り届けることに…。

1200キロを超える道中、家族にはさまざまな試練がのしかかってきます。
父リチャードの計画狂いによる負債、それによる夫婦の諍い、祖父の急死、フランク伯父の失恋相手との遭遇、そして兄ドウェーンの絶望。ポンコツの故障を抱えた乗用車に乗り込んだ六人の人生模様が語られ、時に罵りあい、ふざけあいながら、人生の落伍者としての悲哀を噛みしめる。それでも、まだ人生の酸いも甘いも知らぬ愛娘の願いをかなえてやるために、大人たちはコンテスト会場へと急ぐのです。それこそが、家族の最後の希望の粒だったのだから。
しかし、オリーヴはぽっちゃりした眼鏡ッ子。誰からみても、彼女の夢は途方もないものに違いない。はたして奇跡は起きて、栄えある「リトル・ミス・サンシャイン」にオリーヴはなることができるのでしょうか。いやいや現実は、それなりに世知辛いものなのです。

大家族が人生の煩悶を抱えながら大陸を横断するという構図は、さながら「怒りの葡萄」のような、幌馬車に肩寄せ合って揺られていく西部開拓時代のホームドラマを忍ばせます。

この車に乗り込んだのは、アメリカンドリームを夢見ながら夢破れた人びと。
夢のかたちは変われども、人の理想は変わりはない。金持ちになりたい、女にモテたい、働きたくない、好きなことだけしていたい、ひとしなみの恋愛ではないけれど純粋に人を愛したい、功名を上げたい、美しい女性でいたい、などなど現代社会の過剰に煽られる欲望を抱えながら果たしえない一家は、最後の最後まで輝かしい勝利を手にすることはできません。それでも、旅の前にあれほど互いをせっつきあって不協和音を響かせていた彼らが、末娘の希望のために一丸となっていく。ひとつの目的のために家族が一致団結したことだけが、この六人の誇りだったのでしょう。

「負け犬とは、負けるのが怖くて挑戦しない奴らのことだ」──よく吐かれる台詞ではありますが、一家を窮地に追い込む不良じい様の性癖が意外なところで家族を救うなど、おかしみを演出した筋書きがおもしろく、それなりに楽しめます。落伍者である伯父が、プルーストを引き合いに出して兄に語るシーンも、ありきたりな台詞ではありますが、悩める青春時代を送ったからこそ言えるもの。職業や所帯持ちかどうか、とかく持てるもので判断しがちな大人の価値観から外れたところにいるからこそ、この伯父と甥は分かりあえたのでしょう。

観終わったあとに、家族で長いドライヴに出かけたくなる作品です。
たとえどんな不確かな予定外の事実で立ち止ってしまおうと、後ろから支えて押していけるような家族になれるように。それぞれが重い事情を抱えていても、旅先で家族がこころを縒りあわせれば捨てることができる。そんな希望を感じました。

監督はジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリス。
出演は「私の中のあなた」のアビゲイル・ブレスリン。父親役はグレッグ・キニア、母親役は「イン・ハー・シューズ」のトニ・コレット。祖父を演じたアラン・アーキンは、本作で2006年アカデミー賞助演男優賞を受賞しています。天才子役ビゲイル・ブレスリンのさらなる演技を楽しみたいという方は、「幸せのレシピ」をあわせてご覧になるとよいでしょう。

(2010年11月22日)

リトル・ミス・サンシャイン - goo 映画



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