NHK杯フィギュアスケート総集編（二）

NHK杯2010総集編、女子シングルに続いては、男子シングル。日本男子三名の活躍をふりかえる。

村上佳菜子選手とともに十五歳でシニアデヴュー戦となる羽生結弦選手。
持ち味はそのからだの柔軟性。イナバウアーやドーナツスピンを得意とする彼には、世界が注目していた。大会前には、シニアの選手たちに飲まれないようがんばりたい、と表明していた。
SPの課題曲はこれまで多くの名選手が演じた「白鳥の湖」
跪くポーズからはじまって、白鳥が湖面で足を滑らせながら羽ばたいて舞いあがるさまを演じる。最初のジャンプでぐらつきそうになったところを持ちこたえ、コンビネーションジャンプを成功させる。ピールマンスピンも美しい。背を反らすその姿は、あたかも肩甲骨を翼に変えたかのように錯覚させる。熱いストレートラインステップは、白鳥が必死に生きようともがく姿を表現したという。十五歳にしてはすばらしいステージで、SPの技術点だけでいえば全体のトップだったというから驚きだ。
フリーでははじめて四回転に挑戦し、とてもきれいに着氷したとたんに、大歓声が湧き上がった。
常にからだが柔らかくしなやかで、跳んだあとに氷にひきこまれていく流れがみごと。空とつかんでぱっと放す、そんな動きひとつにも華やかさがある。後半スタミナ切れを起こしてしまったものの、プログラムは最後まできっちり消化した。四位に終わりはしたが、初戦で総合200点越えは誇るべきスコアだろう。

二年前のNHK杯では五位になった無良崇人選手も、SPでは十二人中、ただひとり四回転に挑んで成功させ、観客の度肝を抜く。フリーでもジャンプを確実に決め、音楽の波に乗り、観客席の手拍子に背中を押されていたのに、終盤いきなり曲調ががらりと変わってしらけてしまった。流れが断ち切られたので、勢いが削がれてしまったような印象を受けた。
結果として総合六位入賞を果たすが、四回転をフリーでも決めたことは評価に値しよう。

注目するはバンクーバーで日本男子初の銅メダリストとなった高橋大輔選手。
今季は世界選手権二連覇を目標にする彼にとって、王者の貫禄をじゅうぶんに示した初戦となった。

今回はじめて観戦した彼のSPはやはり圧巻だった。
情感溢れるラテンの音楽にあわせ、振り付けも工夫を凝らした。浅田真央選手と同様に、オリンピックのイメージを払拭するために、今季は暑苦しい舞台を意識したという。

花柄のシャツに黒いボトムという派手ないでたちで登場するや、会場は独特のオーラが蔓延しはじめただろう。ひとつジャンプを決めるごとに歓声が洩れ、声援が湧く。惜しくもトリプルアクセルで手をついてしまったものの、男性にしては珍しいとされるフライングレイバックスピンというお家芸を披露。
アップテンポになればしめたもの、もはや高橋選手の足はとまることを許さない。氷上のタップダンスと呼んでもいいほど、ステップは途切れることなく刻まれてく。
ラストを締めくくるのは、二つの太い糸をよじりあわせてほぐれていくのを眺めるような、高速のスピンとフィニッシュ。この男が動きを止めたとき、この日、一番の大歓声と拍手が降りてきたのはいうまでもないだろう。

満を持して迎えたフリーの最終滑走。
後輩たちの活躍に負けていられないと思ったのか、なんと練習ではいちども成功しなかったという四回転をここで成功させてしまった。なんという完璧さ。トリプルループを悠々とこなし、うねるような美しいスパイラル。手の指先まで細やかに表情をつけた演技、足の入れ替えがすばやく巧みなステプ。怪我の功名で可動域がひろがったという柔らかな膝をつかったみごとなエッジワーク。つねに前のめりになって演技する姿勢からは、前向きな気持ちがうかがえる。
蓮の花のように、天を仰いでのスパイラル。これほど豪胆さと華麗さをあわせもつ男子スケーターがいただろうか。
ダブルループで転倒したものの、華麗なステップで巻き返してフィニッシュ。ポーズを決めた瞬間に、しまった、という気まずい表情を浮かべたが、それでも二位以下を大きく引き離しての優勝だった。ほんとうにすばらしい。彼の演技はなんど観ても見飽きることはないだろう。

【フィギュアスケートGPシリーズスケジュール】
【過去のフィギュアスケート記事一覧】