陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「フラガール」

2010-02-07 | 映画──社会派・青春・恋愛
2006年の邦画「フラガール」(オフィシャルサイトはこちら)は、閉山の危機に追いこまれた東北のある町で、ハワイアンダンスに情熱をかける女性たちを中心に描いたドラマ。失業の憂き目にあった工場労働者がストリップに挑戦する「フルモンティ」や、英国の炭坑夫たちがブラスバンドに情熱をかける「ブラス!」と傾向はおなじではありますが、本作は実話がベースになっているのがミソ。多少の脚色はあるでしょうが、なかなか楽しめた一作です。
経営者が趣味ではじめた事業のようにも思いはしますが、会社が地元民の雇用確保に奔走した好例として、まま評価できます。


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エネルギー革命により石油の需要が増しつつあった昭和40年代。世界各地の炭坑街は次々と閉山に追いこまれていたが、福島県いわき市のある炭坑街もそのひとつ。
炭坑会社の経営者は、レジャー施設「常磐ハワイアンセンター」の建設を構想、その出し物としてフラダンスショーに出演する地元の娘たちを募集する。
しかし、何世代も山から石炭を掘り出す仕事に生きてきた住民の多くに戸惑いが広がる。

主役はフラダンスの講師に招かれた、松雪泰子演じる平山まどかと、その教え子の女性たち。一見すると、ど素人の相手に指導し栄光を勝ち取っていく部活動ドラマのように思えますが、話はそうそう単純ではない。
まどかは訳ありで東京から逃げるように寒村にやってきたダンサーで、指導には気乗りしない。しかも、その当時の最先端ファッションに身を包んだ彼女は、野暮ったい炭坑街では浮き上がった存在。個性のあるキャラクターを異質な空間に放り込んでギャップをてらうという遣り口はよくあるやり方で、勝ち気すぎる女性像も現代ドラマではありきたりだったりするけれど、このまどかが、街に馴染んでいく過程に知らず知らず引き込まれてしまう。

まどかの本場仕込みのフラダンスに魅了された蒼井優演じる少女・紀美子たちの真剣味にほだされて、指導にも熱がはいる。破廉恥なダンスだという偏見から無理解な両親からの圧力、鉱山での相次ぐ事故死、ともにダンスを踊った親友との離別、さらには住民の叱責を背負ったがために追い出される師匠、といった数々の困難を乗り越えながら、まどかや少女たちはハワイアンセンターでの開演にこぎつけます。

フラダンスで自立して生きていきたいと願う紀美子たちの決意は、やがて頑なだった冨司純子演じる母親たちをも動かし、住民が一丸となってハワイアンセンターを迎える準備に助力するように。寒冷地ならではの冷気に負けて育たない熱帯樹を救うために、住民が自宅のストーブを貸したという逸話は、実話ながらに、胸を打つものがありますね。
閉鎖的であるが、人情に厚いという日本の古き佳きコミュニティの善悪両面を描ききったもので、ただの地方の町おこしキャンペーンのために製作されたかのような映画とはすこし違うかと感じます。

平山まどかなる人物のモデルは実在するそうで、大げさに描かれているのかもしれないけれど、松雪泰子の熱演は圧巻。とくにフラに猛反対して娘に折檻した父親に怒りの鉄槌をくらわす場面は、かなり笑えます。
事情で都落ちしたまどかを庇いつつ、母に反対されながらもフラにのめり込む妹を温かく見守る炭坑夫の兄を好演したのが、豊川悦司。都会派男優のイメージを覆して、泥臭い役がよく板についていますね。
助演の山崎静代も、なかなか存在感のあるフラガールのひとりを演じています。

ヒロインを演じた蒼井優は、ラストのショーでの舞踊シーンも見応えあるけれど、松雪泰子と同様に、練習場でひとり舞う場面も、息を呑む迫力があります。「花とアリス」でもバレエを踊っていたけれど、習っていたのでしょうか。
フラダンスというと、どこかセクシーなダンスという思いこみがあったのですが、まったくそんなことはなく、出演者は猛特訓のためか、かなり完成度の高い踊りを披露してくれました。

監督は李相日(リ・サンイル)。本作は第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。蒼井優は、ブルーリボン賞 主演女優賞などに輝き、彼女の出世作となりました。

時代の変わり目にあって、新旧の価値観がぶつかりあい生き方を模索した日本の一時代をよく表した良作ではありますが、当時はまだ高度経済成長期。
第三セクターの運営に苦慮し地方経済が逼迫するなかで、こうした観光施設だのみの産業がふたたび見直されています。フラダンスに活路を見出した人びとの次世代が、親世代の選択を今後どう受けとめるかを考える材料にもなりそうですね。

(2010年2月6日)


フラガール - goo 映画


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2 Comments

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Unknown (十瑠)
2010-02-10 11:25:36
良い映画でしたけど、製作会社のシネカノンは先日倒産しちゃいましたね。「パッチギ」とか他にも良い作品があったのに、どうしたんでしょう。

優チャンは芸術関係のカレッジを出てるはずですから、踊りもしっかりしてましたよね。
「花とアリス」も好きな映画です♪
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作り手の受け皿が… (万葉樹)
2010-02-10 20:12:33
邦画の映画製作会社には、あまり詳しくないんです(汗)
DVDなどが売れなかった、採算が取れなかったんでしょうかね?
さいきん邦画が評価されはじめているのに、作り手の受け皿がなくなるのは残念ですね。

>優チャンは芸術関係のカレッジを出てるはずですから、踊りもしっかりしてましたよね。

バレエでも習っていたかと思ったですが、そうでもないんですね。
芸大出ても下手な方もいますけど、蒼井さんは呑み込みがいいんじゃないんでしょうか。顔は小ぎれいだけど、演技も歌もお粗末なアイドルあがりよりは、よほど観れますよね。

>「花とアリス」も好きな映画です♪

視聴が五年ぐらい前なので内容を忘れたのですが、バレエの練習シーンが強く印象に残っています。舞台を正面からとらえるふつうの観劇ではありえない、俯瞰で動きを追っているところが、ドガの踊り子の絵を眺めるような、おもしろさがありました。
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