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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「約束の旅路」

2015-01-23 | 映画──社会派・青春・恋愛
ハリウッド映画界にはユダヤ人が多く、第二次世界大戦中のホロコーストなどはたびたび映画の題材になっています。
2005年のフランス映画「約束の旅路」(原題 : VA VIS ET DEVIENS/GO SEE AND BECOME/LIVE AND BECOME)も、ユダヤ人を扱った社会派ドラマ。ただし、黒い肌を持つユダヤ人という異色の設定です。

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1984年、エチオピアの山村に古くから居住するユダヤ人、通称ファラシャを聖地セルサレムに帰還させるという命令が、イスラエル情報機関によって実行される。それは、出エジプト記にならい「モーセ作戦」と呼ばれた。

当時、スーダンの難民キャンプには多くの避難民が集っていた。九歳のある黒人少年は実の母に促されるままに、イスラエル行きのバスに乗った。
母子と偽った女性とともに入国、シュロモというユダヤ人名を与えられて、おなじ境遇の黒人少年たちと学校に通うも孤立してしまう。

やがて孤児となったシュロモは、頭脳明晰さを見出され、コンピュータ会社を経営する移民ユダヤ人のヨラムとヤエルの夫妻に引き取られることに。…


生まれたアフリカ大陸よりも、はるかに文明の利器に囲まれて豊かな生活を送れるはずなのに、シュロモの心は晴れません。機会があれば、難民キャンプに残してきた実の母親のもとに戻りたいと願っていました。
しかも、彼には周囲に隠してきた事実がありました。じつは、ユダヤ教徒ではなく、母子ともにキリスト教徒だったのです。
周囲が信仰心の篤いユダヤ教徒ばかりなのに、おなじ神を信じていないという苦痛。それに加え、白人系ユダヤ人たちによるファラシャたちエチオピア系移民への風当たりの強さ。

思春期のシュロモの心中は穏やかではありません。そんな彼を支えたのが、養母のヤエル。慈善家でもある彼女は、実子ふたり以上の愛情をシュロモに注いであげます。それでも、折に触れて、実の母恋しさに家を飛び出してしまう。

高校生になったシュロモは、ファラシャへの差別に抗議する宗教家ケス・ムーラと出会い、こころの依りどころを得ます。そこで、彼がひたすら抱えていた複雑な心境──実の母からイスラエル行きの背中を押されたのは、自分を憎むためではなかったか、が明らかになります。

ガールフレンドのポーランド系移民のサラとも交際するも、根強い黒人嫌悪があって、結婚には踏み切れない。しかも、自分とおなじく偽りのユダヤ人を名乗ったエチオピア人が迫害されているという風潮。
そんな苦悩の末、やがて、シュロモは医学の道をこころざし、干ばつで飢餓や病気に苦しむ祖国の難民を救いたいと願いはじめます。
つまり、出エジプト記とは逆のコースをたどって、同胞を救う青年のお話なのですね。

ひじょうに淡々と話がすすむとても地味な作風の映画です。
劇的な演出がなく、退屈といっては失礼なのですが、作品としてはあまり入り込めませんでした。緩急をつけたエピソードの構成にすれば楽しめたのでしょうが、あえてつくりものめいたものにしたくなかったのかも。

ただ、このように、みずからが選んだ境遇ではないのに、慣れ親しんだ故郷を離れ、母とも離れ、そして偽りの人生を歩み、差別に苦しまねばならい。その心境に思いいたせば、いたたまれない気持ちになりますね。

2000年に及ぶユダヤ人の虐げられた歴史や、93年のクェート侵攻をふくむいまなお不穏な情勢の中東などの複雑な史実が絡み合ってきますが、少年の成長譚としてみればすごくこころ温まるストーリーだと言えます。

監督はラデュ・ミヘイレアニュ。

(2010年8月13日)

約束の旅路(2005) - goo 映画

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