陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「ザ・マジックアワー」

2009-10-16 | 映画──社会派・青春・恋愛


じつを言えば、三谷幸喜の作品はあまり好きではありませんでした。その印象を強くしたのが、大河ドラマの「新撰組!」
主役の香取くんが近藤勇に似合わなかったというのもありますが。ただ、その偏見を覆してくれたのが、裁判員制度を先取りした映画「12人の優しい日本人」で。本家の「十二人の怒れる男」とはまた違ったおもしろさがありましたね。
この十月からはじまるNHK人形劇の「新・三銃士」の脚本も手がけるようですが、私は三谷幸喜は独特のセンスがあるので、あまり史実に基づいた作品の脚本は合わないのではないか、と思っています、なんとなく。
といいますか、いちばん合ってるのは役者の個性をひきだせる演劇舞台ですよね、きっと。

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さて、本日ご紹介するのは、2008年作の映画「ザ・マジックアワー」
殺し屋を演じる売れない役者とその周囲の、ハートフルかつハードボイルドなラブコメとでも言っておくべきなのでしょうか。

街を取り仕切るやくざの親分の愛人に手をだしたホテルの支配人。その穴埋めにと、親分から自分を裏切った会計係の暗殺を命じられる。
女をどうしても渡したくない支配人は、売れない役者の男に目をつけた。彼を本ものの殺し屋と信じ込ませて、親分を欺く作戦だった。子どもの頃かっこいい殺し屋の映画に憧れて業界入りした役者は、騙されているとも知らずに、伝説の殺し屋の名を騙り、親分に気に入られてしまうが…。

どこまでが芝居で、どこからが本気かわからなくなってしまうところがミソ。
途中、会計係の暗殺をやめさせたため親分に捕まった支配人と役者。ふたりとその周辺は、親分にひと泡吹かせてやろうと大芝居をうつことを目論むのですが、これが意外な結末を迎えてしまいます。
この先の見えない、予想を次々に引っくり返ししていくうまさは、まさしく三谷節。

支配人を演じたのが、頼りない甘いマスクにもしたたかさを秘めた妻夫木聡。そして、売れないながらも夢を追いかける実直な俳優に、佐藤浩市。親分の愛人というのが、「踊る大捜査線 THE MOVIE」でおなじみのトレンディ女優、深津絵里なんですが、とちゅうまで男を利用しては裏切る厚かましさで嫌なオンナ。しかし、最後はなんともご都合主義的な愛に収まってしまいます。
親分を演じたのが西田敏行というあたりからも、完全なヒール役には徹しきれない緩さ。脇を固めるのが、伊吹五郎だったり、香川照之だったり、なかなか魅力的なラインナップ。
そして、なんといってもこの映画でおもしろいのは、現実のシーンがいかにもつくりものめいた舞台セットでできていることですね。波止場にせよ、ホテルにせよ、1930年代のアメリカの中流家庭を思わせるようなハイセンスな車にせよ。ですので、現代劇の邦画ですが野暮ったさがなく、センスのいい古い映画を眺めているような感覚が味わえます。

終盤に主人公の役者の憧れる名優と演技論を交わしたり、本ものの殺し屋が登場するも演技で圧倒してしまうシーンなど、おもしろみがありますね。
そして、なんといっても、マジックアワーとよばれる夕暮れどきの空の映像。どんなに今日が闇に包まれても、明日の朝を待つことはできる。とても希望に満ちた言葉です。

(〇九年十月五日)


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