陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「日輪の遺産」(前)

2014-01-11 | 映画──SF・アクション・戦争
元検事が記した『嘘の見抜き方』という本によれば、人間は恒常的に嘘をつく生きものであり、相手を騙して被害を与える嘘ならばいざ知らず、日常生活の潤滑剤として相手を褒めるための嘘、真実を見て見ぬ振りをする嘘、そして組織の圧力のために口を閉ざすための嘘は、かならず許されるものではないが温情の余地はある、としています。

昨年末に特定秘密保護法が成立し、国家の防衛機密を漏洩することは処罰の対象となる見通しです。これに対し反論を掲げるのはマスコミや識者。ほとんどの一般国民は安倍政権による一時的な景況感に湧き、危機感を持ってなどいないのです。「自国の存続のためならば自己を犠牲にして、真実を封じるべき」だというこの風潮の是非を問うために、ぜひご覧いただきたいのが今回の映画です。

2011年公開の映画「日輪の遺産」は、直木賞作家・浅田次郎原作の映画。
近年、質が向上したとされる邦画のなかでも、とりわけ重厚なテーマとそれを扱うにふさわしい演技者を揃えた、なかなかの良作です。ひさびさに泣けてしまった一作。史実ではなくフィクションだけに、ツッコミどころはありますが。2013年というエポックメーキングな年を経た今となっては、たんなるお涙ちょうだいの戦争悲劇ではなく、社会的なテーマを投げかけている問題作ではないでしょうか。いくぶんネタバレ気味です。

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1945年8月の終戦末期。
ポツダム宣言受諾を巡って論争かまびすしい陸軍で、近衛少佐の真柴司郎は密命を帯びる。それはマッカーサーの父親が南島に遺した金塊が極秘裏に日本に持ちこまれて保管されており、敗戦で占領軍に奪われる前に移動して、隠匿せよというものだった。大蔵省出身のエリート小泉中尉、そして護衛役の望月曹長とともに真柴少佐は、金塊を本土決戦のための砲弾として運搬に成功。人里離れた炭坑へ管理することになるが、その任務のために駆り出されたのは、高等女学校の女学生二十名と教師の野口だった。玉音放送で敗戦を知った彼らには、やがて残酷な司令が下る…。

特命の任務を帯びたスパイがその口封じに始末される、というのはよくある話。誰か死んだかよりも、どの数死んだのかが問われるような世界戦争中。人命は国体よりも軽い。ましてやこれから未来もある若い身空の少女たちを犠牲にするなんて。懊悩する真柴少佐は軍部中枢に掛け合い、彼女たちの延命を願い出るのですが、運命のいたずらか、一名を除いて十九名の少女と教師はなんとも哀しい結果を迎えてしまいます。この結果は冒頭で慰霊碑で予言されていたので驚くことはないのですが、末路が分かっているだけに、少女たちの健気さや無邪気さがなんとも儚くて涙をもよおしてしまいます。私はいわば白虎隊のような悪意のない誤認によっての犠牲だと思っていたのですが、各所のレヴューを読むと、どうやら少女たちの覚悟の上だったようですね。

そこで終われば、たんに「ひめゆりの塔」のような戦争悲劇にしか過ぎないのですが、その続きがあります。生き残ったたった一人の少女、真柴少佐、小泉中尉、そして望月曹長はどうしたのか。自分が正当に受け取るべき遺産に気づいたマッカーサー元帥はその在り処に辿り着き、なにを見たのか。そして、どう決断したのか。それを語るのは、マッカーサーの片腕となった通訳の男イガラシの口からのみ。前半部が生き残った少女の回想録として語られているので、隊長の真柴、それに望月(実はその正体があの人なので、当然かもしれませんが)がかなり好人物として描かれていますが、後半部のその後の顛末についてはややペーソスが足りないと感じるでしょう。

いまの時代だからこそ、少女でさえも戦争はおかしいと口にでき、軍命に叛くようなことを軍人でも犯すことが個人の道徳からすれば美しいと感じます。しかし、仮にこのようなできごとが事実であった場合、勇気をもって異議申し立てできうる空気はあったのでしょうか。現在でさえ、特定秘密保護法に反対する一般庶民は少なく、ヘイトスピーチには国民こぞって異論を唱えない、この国の風潮で?

それについては、後半部で論議を深めたいと思います。

なお本作はGyaOで視聴しました。
今月25日までこちらで無料配信されていますので、ご興味のある方はご覧になってみてくださいね。

(2014年1月4日)


【関連記事】
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終戦後、遺産を守るために三人の軍人と残された少女がとった行動とは? 国家のために個人の意志を押し殺して秘密を守ることの是非を問う問題作。


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