1997年のイラン映画「桜桃の味」は、台詞は絞られているが映像美で語らせる芸術映画といってもいい一作でした。ただ人によっては、変化に乏しいカメラワークなので退屈に感じられるかもしれません。
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荒野のジグザグ道をあてもなく疾走する、一台の車。
乗っている男は、お金に困っていそうな男を見つけては声をかける。「稼ぎのいい仕事だ、協力してくれないか」と冷めた目つきで頼み込む。
だが、仕事内容を告げると誰もに断られてしまう。
彼の願いとは、明朝、穴に横たわる自分に声をかけ、返事がなければ埋めてほしいというものだった。
やっと、協力してくれるという初老の男性を見つけた。しかし、その男性の語る話に、その男バディはこころを動かされてしまう。
タイトルの「桜桃の味」というのは、その初老の男性の語るエピソードにちなんだもの。単純に自殺幇助の手伝いをするのが嫌だとか、自殺は宗教上禁止されているだとか、おためごかしに説得して車を降りたこれまでの男たちとは違う、その老人の言葉、世界の美しさを語る言葉にバディはきっと救われたのでしょう。
最後の結末はぼやかされていますが、きっとそうだと信じたい。
その心優しい老人に出会ってから、バディの車窓を流れる風景の見え方も変わります。
おそらく、さいしょの瓦礫と砂しかない採掘場の風景は、彼の荒んだ心象を表していたのでしょう。
物語としてはとてもシンプルですが、胸がすくわれます。
ただ最後の撮影シーンの挿入はどういう意味があるのかが、掴めないでいますが。虚構だと思わせたかったのでしょうか。
アッバス・キアロスタミ監督・製作・脚本。
小津安二郎を敬愛、気が遠くなるほど同じシーンの反復とロングショットは、西洋式の映画の次々にショットの変わる視点への反感であるとのことです。
エルマンノ・オルミ、「麦の穂をゆらす風」のケン・ローチと共に、三部作からなる「明日へのチケット」の監督・脚本を務めたことでも有名。
第50回カンヌ国際映画祭において今村昌平監督の『うなぎ』と共に作品賞に相当するパルム・ドールを受賞した作品。
(〇九年八月十二日)
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