陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

アニメ映画「火垂るの墓」

2009-08-15 | 映画──SF・アクション・戦争
1988年のアニメ「火垂るの墓」は放映されるたびに観てしまうのですが、子どもの頃とは異なった感想を持っています。
戦争の直接的な犠牲ではなく、戦争によって荒んだ人間性のために死ななければいけなかった兄妹という描き方が、涙を誘いますね。ただ、情景描写は美しいけれど、主人公たちの生き方はけっして褒められるものではないです。

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神戸にすむ14歳の清太と4歳の節子は、母親を空襲で失い、海軍将校の父親は出征中。
身寄りのない清太と節子は、西宮の伯母を頼るが、つらく当たられてしまう。陰険な家庭から、わずかな家財道具と貯金だけを持って逃げ出したふたりは、穴壕に住み着くが、節子が栄養失調にかかって…。

昔はあのいじわるな小母さんが諸悪の根源のように考えていたんですが。あの人もじつは戦争未亡人(この部分はあまり強調されていないが)で家族を抱えて生きるのに必死だからこそ、清太たちに辛く当たったんだな、とも考えられます。
また、敗戦色が濃厚なこと、インフレが起きて食糧を得るためにお金が紙切れ同然になるという事実を、若いあまりに知らなかった清太。学校(戦中の旧制中学生なので、けっこうお坊ちゃんだと思われる)にも行かず、防災訓練にも行かないで遊んでいた清太が責められるというのは、一理あると思うんですよね。学校に行かなかったり、地域になじむのを拒んだのは、兵役逃れだったとも言えますし。
十代の少年が幼い妹を気づかいながら生き抜くという過酷さを理解しないでもないですが、プライドが高すぎて自滅したともいえる。あの小母さんの物言いは酷いけど、あれぐらいで拗ねて家出してしまって。しかも、他人の畑の作物を盗ってきたり、強盗にはいって転売しようとしたり。結果として、ふたりで路頭に迷い、妹を死なせてしまいます。

浮浪者があふれる都会ならまだしも職のアテがあったかもしれないですが、戦後の食糧難で身元保証人もない子どもが生き抜いていくのは、やはり難しかったのでしょう。
まだバブル景気に沸いていた時代の作品ですが、二〇年経ったいま現在を言い当てているようにも感じます。

生活感がにじみ出た生々しい動き、そして当時の美術水準の高さを思わせる、幻想的な蛍の飛び交うシーンなどは必見。声優も同年代の子どもを起用しているせいか、子どもらしいあどけなさがありますよね。
監督・脚本は高畑勲。原作は野坂昭如の直木賞受賞作。作家の原体験が部分的にモデルになっているそうですが。
ちなみに、2008年に実写映画化もされているんですね。

火垂るの墓(1988) - goo 映画

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