陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「アビエイター」

2014-08-24 | 映画──社会派・青春・恋愛
偉大な業績を残した人間というのは、しばしば奇癖があったり、常人には及びもしないほど富と才能と権力を手にしながらも、ささやかな幸福には恵まれなかったりするもの。
2004年のアメリカ映画「アビエイター」(原題 : The Aviator)は、航空界の英雄として称えられながらも、苦悩の多い道のりを歩んだ実業家ハワード・ヒューズ(1905-1976)の半生をたどった伝記映画。レオナルド・ディカプリオがマーティン・スコセッシ監督とタッグを組んだ話題作です。

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1927年、両親から会社を引き継いだ青年実業家のハワード・ヒューズは、莫大な投資をして航空映画「地獄の天使」を製作する。これが大ヒットして、一躍ハリウッドの寵児となったハワードは銀幕のスター、キャサリン・ヘプバーンと恋におちる。話題作を続々とつくりあげたハワードが次に狙うのは、空の支配。航空会社を買収して、みずから飛行機のデザインに注文を付け、操縦桿を握ってテスト飛行をくりかえす。

大富豪でありながら、映画プロデューサーでもあり、また飛行家でもあるというハワード。彼の果敢に挑んだ飛行は、飛ぶたびに望める以上の最速タイムを叩きだす。美人で誉れ高い恋人も得て幸せいっぱいのはず。しかし、向かうところ敵なしにみえた彼にも、失墜が訪れます。

プライドの高いキャサリンの一家とは折り合いが悪く破局。次の相手にまだ高校生の新人女優を選び、さらには映画界のトップ女優エヴァ・ガードナーとまで浮き名を流す。これがゴシップ記事の好餌にされてしまいます。

この愛情のつまずきを引き起こしたのが、ハワードの極端なまでの潔癖性と、生まれながらの難聴、そして内向的な性格。他人の触れたものには触れたくない、自分を傷つけるものはすべてウイルスではないかと嫌悪する病的な神経質さが、彼を孤独な高みへと駆り立てたのでしょうか。米国空軍と極秘契約を交わした偵察機の開発に熱中。自身でテストパイロットとなるも、墜落して重傷を負ってしまいます。

第二次大戦後の1947年には、かねてからのライバル航空会社との、国際線への進出をめぐって競争が激化。商売敵のトリップが州の上院議員を抱き込んで、ハワードを陥れようと画策していました。

空軍偵察機開発の不正受注の誹りをからくも逃れて、執念で完成させた巨大飛行艇を駆るハワードは、一時の錯乱が嘘のように自信を取り戻しています。が、自分を自由な空から突き落とし、未来への道を阻むような精神不安に襲われることを暗示しているかのような幕引き。

題材としてはおもしろくはあるけれど、強迫観念に襲われて自閉症になっていくハワードの描き方が、なんとも悪趣味すぎて後味がよろしくない。まるで映画にのめりこんで現実逃避するマニアを皮肉っているかのようですが、こうした精神障害は誇張されたものでなく、墜落事故から脳の損傷をきたし発症したハワードの実話だったといわれています。

主演のディカプリオが幼く甘さの残る顔だちで、さらには背が低いために壮年期の実業家に扮するのには無理が感じられます。キャサリンを演じたケイト・ブランシェットとは実年齢で五歳しか違わないのに、母子のようにすら見えてしまう。ただディカプリオの幼さが、夢を追い過ぎたハワードの子どものような純粋さをひきたてているともいえるのですが。ディカプリオは、ロビン・ウィリアムズとおなじく、髪を荒っぽく伸ばしてあご髭をたくわえた姿のほうが貫禄がにじみでてきますよね。おなじ監督作の「ギャング・オブ・ニューヨーク」「ディパーティド」のような、すれた感じの不良のほうが、まだしも私の好むところなんです。

(2010年8月4日)

アビエイター(2004) - goo 映画

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