漫画家アシスタント 古い話で章 その４８

　（ この写真は、私がいつも利用している武蔵浦和駅の駅前ロータリーの桜です。今ではもうすっかり桜は散ってし
　　まいましたが・・・・・・これからは新緑が美しい季節になります・・・・・・・・《 2015年、4月、撮影 》 ）
　
　
　　【　はじめての方は、どうぞ 「第１章　改訂版」 よりご覧ください。 】

　
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　その４８


　　　　　《　漫画家アシスタントが・・・・・出戻りする・・・・・！？　》


以前、拙ブログの「 その27 」辺りで加川さん( ※参照 )が仲田さん( ※参照 )をお風呂へ誘うエ
ピソードを書いたのですが・・・・・・・喧嘩をして仲が悪くなった二人のアシスタントを見て、
J先生( ※参照 )が一計を案じた話です・・・・・・・・
　
それは、先生が加川さんに仲田さんを銭湯へ誘うように薦めた話です。
　
風呂場で右手の不自由な仲田さんが濡れタオルをしぼるのが大変だろうから、「 おめィ～がしぼっ
てやれ 」とJ先生が粋な計らいを演出したわけですが・・・・・・・・
　
この事を仲田さんは、私が話すまで40年以上、知らずにいたそうです。
　
しかし、ちょっと話が食い違います・・・・・・・・・・
　
右手が不自由とは言っても、仲田さんの右手は開く力はなくても閉じる力( 握力 )はあるからタオル
をしぼる事くらいは出来たのだそうです。
　
だから、私が先生の話をしても仲田さんは黙って聞いているだけでクールでした。
　
　「 フ～～ン・・・・・・そう・・・・・・でも、タオルはしぼれますよ 」
　
加川さんがお風呂へ誘った事は確かにあったそうですが・・・・・・・・・このタオルをしぼって
あげたという話は、あやふやなまま終わります。

それはともかく・・・・・・・・・J先生が右手の不自由な仲田さんを気にかけていたのは事実で
す・・・・・・・・
　
　「 先生は本当に俺に気を使ってくれてたんだなァ・・・・・・ 」
　
少し悔やむ様にうつむく仲田さんは、本当に申し訳なさそうに・・・・・・

　「 俺は馬鹿だからさぁ・・・・・本当に先生には悪い事をしちゃったよ・・・・・・ 」

放浪癖というか、落ち着きがないというか・・・・・・・・同じ事をしていると、つい飛び出した
くなる悪い癖から何度も先生の仕事場を辞めたり、戻って来たりを繰り返してしまうのです。

アシスタントになってからしばらくすると、スタッフも揃い仕事も慣れてくると仲田さんは先生に
ある願い事を持ちかけます・・・・・・
　
　「 僕もこれからは、他の皆と同じ様に普通に働きます 」
　
それまでは、仲田さんだけは週に一日だけ横浜の自宅から通勤するバイト的なシフトだったのです
が・・・・・・・

もっとも、それは、仲田さん自身が『 俺は専属アシスタントになるのが目的じゃない、漫画家にな
るのが目的なんだ 』という志があったからこそ、先生もそれを許していたのですが・・・・・・・
　
その仲田さんからあっさり「 普通に働きます 」と言われた先生は、複雑です・・・・・・・・・・
　
　「 おめィ～が週に一日だけ仕事をすると言ったんじゃないか！ 」
　
不機嫌にそう仲田さんに詰め寄りますが・・・・・・・・・「 週に一日 」という中途半端な状態を
強制するわけにもいきません。
　
仕方なく専属を認めたのですが・・・・・・・どうも、その後が良くありませんでした・・・・・・
　
丁度その頃から先生の仕事は忙しくなります・・・・・・・・・・
　
ギャグ漫画だけではなく、「 ○ゲバ 」「 ○ュラ 」などの大ヒット作品に続き多くの連載がスタート
します。
　
仲田さんたちスタッフは、毎日毎日が同じ様な背景の仕事に追われるわけです。
　
連日、缶詰の様になって仕事をしなくてはならない苦痛に仲田さんは耐えられなくなります・・・
・・・・・
　
結局、仕事場を辞める相談を先生に持ちかけた時に・・・・・・
　
　「 今は忙しいけどよ・・・・・・来月あたりから少しヒマにしようかって考えてんだよ・
　　　・・・・皆で旅行したりとかよ・・・・・・・・・・ 」
　
そんな事を言って仲田さんを慰留しようとするのですが・・・・・・こうと決めたら頑固な仲田さ
んは、先生の言葉に従うつもりはありませんでした。
　
　「 馬鹿だよなァ・・・・本当に・・・・・先生の気も知らないでさァ・・・・・・ 」
　
・・・・・・そう淋しそうに昔を振り返る仲田さんは、今年62歳です。ホントは今すぐにでも先生
の所へ飛んで行きたいんじゃないでしょうか・・・・・・・・・
　
さて、仲田さんが去ったJプロでは皮肉な事に・・・・本当に仕事を休んでしまいます・・・・・・。
　
これが、当時マンガ業界でも話題になった「 J先生の引退宣言 」( 1971年6月 )というやつで・・・・

全ての連載を終えて「 引退する 」という大ウソを公言して熱海へ温泉旅行・・・・・・・・・スタ
ッフ共々、嬉々として長期休暇へ出発してしまうわけです。
　
運のない仲田さんは、後日、この知らせを聞いて悔しがりますが・・・・・・後の祭りでした。
　
仕事場を辞めた仲田さんは、アルバイトで食つなぎながら・・・・・・・・・1年後、またフラリと
仕事場へ戻ってきます。
　
以下は、その時の先生とのやり取りです・・・・・・・・
　
　「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」
　
こいつ何考えてるんだ・・・・・・というJ先生の例の陰険な目つきと沈黙・・・・・・・・・・・
　
　「 もう一度やりてィ～のか？ 」
　
　「 はい 」
　
顔を上げる勇気もない仲田さんはうつむいたまま・・・・・・・・
　
　「 ここはよォ～・・・・・・ 」
　
J先生は、仲田さんを押し潰す様な低い声で喋り始めます・・・・・・・・・
　
　「 入りたいって奴ァ～沢山いるんだぜッ！ 」
　
　
　
　　　　　　「 漫画家アシスタント　古い話で章　その49 」（ 4月20日以降公開 ） へつづく・・・・
　

　　　　　　　　　　　　★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント古い話で章 その47」へ戻る 】

　
　
　
　
　　【　※参照　】
　・加川さん・・・・・・・・・・・(仮名)中学卒業後、職業を転々としながら漫画家アシスタントに成る。
　　1969年19歳で、J先生に師事。1978年に少年キングで連載を得て独立。1984年別冊漫画ゴラク連載。
　・仲田さん・・・・・・・・・(仮名)1969年当時、17歳、横浜出身、高校を中退、家出してJプロへ入る。　
　　現在は、フリーのアニメクリエーターとして「ポケモン」などの原画を制作している。
　・Ｊ先生・・・・・・・・・・・・・・・有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には週刊
　　連載6誌という逸話もある。現在は1誌に連載中。2014年現在、71歳。1969年当時は26歳。
　
　
　
　

　
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　★　「漫画家アシスタント物語 4章の31～」に書かせてもらったガンさん
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　　　中です・・・　特別寄稿「 親不孝通り 」 第40話お父さん

　★　拙ブログのうぶ主が1987年にヤングジャンプ新人賞で準入選デビュー
　　　した作品・・・　「 雨のドモ五郎 」

　★　「漫画家アシスタント物語　第6章の10～」に書かせていただいた
　　　リョウさんが描いたイラストを公開中です・・・　「 龍馬さんとボク 」

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　　　　　　　　　　「もう終わりで章　その1」　「移住物語　こりゃタイ編　その1」