ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『リリーのすべて』を観て

2016年03月22日 | 2010年代映画(外国)
『英国王のスピーチ』(2010年)のトム・フーパー監督の作品だったら、まさか期待を裏切らないだろうと計算し、『リリーのすべて』(2015年)を観て来た。

1926年。デンマーク。
風景画家のアイナー・ヴェイナーは、肖像画家の妻ゲルダと愛し合い、公私ともに充実した日々を送っていた。
しかし、ゲルダに頼まれて女性モデルの代役を務めたことをきっかけに、アイナーは自分の内側に潜んでいた女性の存在に気づく。
それ以来、リリーという名の女性として過ごす時間が増えていったアイナーは、心と身体が一致しない自分に困惑と苦悩を深めていく・・・・
(劇場用パンフレットより一部抜粋)

少年の頃から封印されていた兆候が、あるきっかけで露わになる。
トランスジェンダー。
理屈としては理解しているつもりでも、どちらかと言えば避けて通りたい内容の話である。
それをこの映画は、性同一性障害のアイナーが、リリーとして本来の自分になって生きようとしていく歓びと、
それに必然的に関わることになる妻ゲルダの心のあり方が、スリリングに描かれる。

当時の時代背景もあってかアイナーが、二重人格者として自分自身に対して思い悩む姿。
そして、世界初の性別適合手術に至るまでの心の過程が、実話としての内容と相まって目が離せない。

夫・アイナーがリリーとなっていく。
それでも妻のゲルダにとっては、リリーになっても愛するアイナーである。
そんなゲルダが、観ているととても切ない。
彼女を演じるアリシア・ヴィキャンデルの流す涙に、ひたひたと心が打たれて目頭が熱くなる。
アカデミー賞助演女優賞が当然の、自然体の演技にこちらもいつしか同化してしまう。
芯からリリーに成りきっているエディ・レッドメインもさることながら、友人ハンス役ほかの演技人もしっかりしていて、どっしりと安定した作品になっている。

この映画と、劇場で前回観たレズビアンを扱った『キャロル』(トッド・ヘインズ監督、2015年)を比べた場合、雲泥の差と言えるほど、その出来が素晴らしい。

コメント
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