■実証的研究は難しい?
小中学校の先生たちの現場レベルの研究会や研修会はたくさんあるが、自然科学でいう《科学的検証》に耐える研究にお目にかかったことはあまりない。(教科研究については筆者のここ15年ほどの勉強不足は否めないが)
その理由1:対象とするのは生身の児童なので、対照群の設定が難しく、実証的研究がしにくい。(つまり、ある学習内容について授業方法Aが良いということを証明するためには、別の授業方法Bとの比較をしなければいけない。しかし、同じ学習内容を同じ学級Aではできないので、どうしても別の学級Bですることになる。すると、実験の条件として、実験群(学級A)と対照群(学級B)において、授業方法だけでなく、学習児童も違うこととなり、実験の信頼性が低くなる。そのうえ、授業をする先生まで違えば、比較研究は全く意味がなくなる。)
理由2:もし、授業者が授業方法Aの方が良いと思っているとしたら、職業倫理として、Aより劣ると思っている授業方法Bを学級Bに実施することはしにくい。
理由3:実証的研究は以上の理由で実施がしにくいうえ、「がんばってしてもメリットがない」と思っている先生がけっこういるかもしれない。(メリットがない=・新方法の効果が証明されたら、それまでの方法を使っていた自分たちの誤り?が証明されることになる。・今でさえ残業手当なしに1日何時間も超過勤務しているのに、新指導方法を修得する時間は生み出しにくい。体がもたないかも。・いくらがんばって効果:成績を上げても給料は変わらない。)
■実証的研究の仮説:「今の国語のテスト(専門の業者から購入している市販テスト)のレベルならば、児童が音読をしっかりすれば、先生が何も教えなくてもかなり分かるのではないか?」
■実験の方法
・対象:本校(市立小学校)の2年○組:26名
・授業者:担任 ・教材「名前をみてちょうだい」(物語)
・指導期間:9月2日~9月18日
●授業方法A:授業の最初から音読だけ5時間実施(他に先生の朗読や漢字の読み書きの指導で約2時間実施)。音読の仕方:班(各5人ほど)ごとに、4種類の音読方法(・区切り読み ・役割読み ・好きなだけ読み ・まちがい交代読み)のなかから選んで行う。その繰り返し。「楽しみ読み」という名前をつけている。児童はほとんど飽きずに楽しくできる。8時間目にテストA実施。
○授業方法B:9時間目から、従来の指導方法で5時間実施。14時間目に、全く同じテストB実施。
■結果
●音読だけの指導方法A・・・テストAの平均点89.4点 24名(他に欠席2名)中、90点以上は18名。(75%)
○従来の指導方法B・・・・・テストBの平均点95.8点。90点以上は20名。(83%)
□考察1
実験の結論:音読をしっかりするだけで市販テストの読み取り(文章の理解)に関するテストで、7割以上の児童は合格点(筆者の経験による設定:2年生では90点以上)をとることができるのではないか? また、学級全体としてもほぼ目標を達成すると言えるのではないか? ※1回だけの実験では断定するには不足と考える。
その理由:2年生の国語の単元テストの読み取りの部で、学級平均が約90点ならば全体目標は達成していると言える。※このテストの全国平均点は83点。(テスト作成:「日本標準」社」)
□考察2
向山洋一氏の《教育技術法則化運動》を除けば、教育現場での実証的研究は少ないようなので、「先生たちはかなり効果の少ない授業方法も使っているかもしれない」と常々思っていたが、その可能性が高まった。特に国語の授業においてはその傾向が大きいのではないかと思う。上記実験で言えば、平均点を約6点上げるために、5時間も使っていることになる。
なお、研究熱心で国語の授業に堪能な先生たち(少数)は、実は市販テストのレベルなど歯牙にもかけていない。はるかに高い目標を達成している。
□考察3
市販テストのレベル(=評価・到達目標)が低すぎるとも言える。
このような低レベルになったのは、約10年前に現行の指導要領になってからのようである。現在の市販テストとそのレベルで満足している多くの小学校の国語の授業は、日本国民の知力の減退に拍車をかけているかもしれない。