やんまの気まぐれ・一句拝借!

俳句喫茶店<つぶやく堂>へご来店ください。

八方に二百十日の湖荒るる:稲荷島人

2021年08月31日 | 俳句
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八方に二百十日の湖荒るる:稲荷島人
湖水が四方八方に白波を立てている。二百十日前後は日本列島に台風が襲う季節である。一方で穏やかな日は行楽シーズンでもあり山の湖水に遊ぶ人も多々ある。そんな行楽客が釣りを諦め湖水の前に佇んでいる。舞い落ちる木の葉も深い落葉色を帯びている。深まる秋の気配に植物も鳥や獣も冬支度へ突入して行く。急ぐなよ、急ぐなよと誰かが呟いた。<自転車や二百十日の風強し:やの字>:角川書店『合本・俳句歳時記』(2021年3月28日)所載。
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岩塩のくれなゐを舐め古酒を舐め:日原傳

2021年08月30日 | 俳句
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岩塩のくれなゐを舐め古酒を舐め:日原傳
酒飲みは酒にこだわって肴は気持ちだけあれば満足する。今日は紅ほのかな岩塩を少々での一盃となった。酒は一升瓶の古酒である。新酒も出回ったと聞くがそれはこれからぼちぼち攻める事にしている。小生の知己の中に塩ではなく焼き海苔で一盃と言う方がいらした。これはこれで酒の味を殺さずに粋なつまみだと思う。今夜は当り目で古酒を片付けることにしようか。<これきりの古酒で潰るる齢かな:やの字>:角川書店『合本・俳句歳時記』(2021年3月28日)所載。
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草刈りしあとの草の香朝の風:津田正義

2021年08月29日 | 俳句
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草刈りしあとの草の香朝の風:津田正義
朝飯前に一仕事と草を刈った。朝風に乗って草の香がぷうんと漂う。何だか今日は良い事がありそうだ。この年齢になって仲間の元気度に差が出始めた。伏す者あれば旅に雀躍する者もあり。贅沢は言わないがこうして草刈りをする程度の健康を賜わりたい。更に加えれば一病息災いつまでも美酒にありつきたいものだ。<草刈ればあの虫この虫弾けゆく:やの字>:読売新聞『読売俳壇』(2021年8月23日)所載。
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そのときはそのときと決め髪洗ふ:深沢ふさ江

2021年08月28日 | 俳句
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そのときはそのときと決め髪洗ふ:深沢ふさ江
悩みを抱えてしまった。どう考えても出口の無い悩みである。こちら立てればあちらが立たず。義理と人情と感情との板挟み。案ずるより産むが易しいざその時になれば何とかなるだろう。成り行き次第さと決めケセラセラである。冷水で髪洗ってさっぱりする。自分てかくも単純な存在なのである。<髪洗ふ心の垢を流すまで:やの字>:読売新聞『読売俳壇』(2021年8月23日)所載。
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銀河濃し娘と恋の話しなど:ほりもとちか

2021年08月27日 | 俳句
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銀河濃し娘と恋の話しなど:ほりもとちか
夜空の月や星を愛でる季節となった。今日も天上には銀河が濃い。そんな夜長を下界の母と娘が恋の話しなどしている。母親の恋は一体どんな恋だったのか。娘は今どんな男性と付き合っているのか。外の虫時雨など耳に届いてはいない。<我がアリバイ何処に在りや銀河濃し:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2021年8月22日)所載。
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冷蔵庫に眼鏡があるよお父さん:靑木千禾子

2021年08月26日 | 俳句
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冷蔵庫に眼鏡があるよお父さん:靑木千禾子
冷蔵庫に眼鏡があるよお父さん。どうりで探しても探しても無かったはずだ。意表を突かれた盲点である。誰がこんな処に置いた?当然犯人は自分である。我老いたり。老いの現象は様々あるが“忘却”もその一つである。人名、地名が出て来ない。何故二階に上がってきたのか用件を忘却している。不思議な事に昔の事は美化強調されて覚えているのに。<一隅は我がスペースぞ冷蔵庫:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2021年8月22日)所載。
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緑陰にテナーサックスくぐもりぬ:加藤武夫

2021年08月25日 | 俳句
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緑陰にテナーサックスくぐもりぬ:加藤武夫
今日も暑い一日となった。こんな時は風に吹かれるのが一番と緑陰に身を置いた。と、テナーサックスの音色が響き渡る。一瞬にして空気を透明にし爽快な気分となった。ジャズのくぐもりが哀愁を帯びている。わが魂が風の中に踊った。<緑陰のベンチの二人黙々と:やの字>:読売『読売俳壇』(2021年8月23日)所載。つぶやく堂・俳句喫茶店

短命を生ききる合唱蝉時雨:林哲彦

2021年08月24日 | 俳句
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短命を生ききる合唱蝉時雨:林哲彦
蝉の命は地中で五年と地上の一夏で終わる。短命と言えば短命の蝉が懸命に鳴きしきっている。命を生ききる為の合唱である。昨日は蜩の蝉時雨を聴いたがどこか哀しい。急ぐなよ急ぐなよの言葉は定めの前に空しい。見方によれば人生も一炊の夢かも知れぬ。懸命と文字に書いてみる。<一夏の恋に焦がれて蝉時雨:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2021年8月22日)所載。

月光に胸あぶらるる暑さかな:磯崎啓三

2021年08月23日 | 俳句
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月光に胸あぶらるる暑さかな:磯崎啓三
残暑が厳しい。昼は太陽に炙られ夜は月に炙られている。近年の気候が我が身に厳しすぎるのは気のせいか。人類がもたらした地球温暖化によると言う説あり。もう自然の風を窓からと言う限度を超えた。ビールで火照った身体はクーラーでがんがん冷やす以外なし。クーラーも又人類がもたらした所産である。<月光や影の伸縮無縁坂:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2021年8月22日)所載。

瑠璃蜥蜴隠れて光残したる:深沢ふさ江

2021年08月22日 | 俳句
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瑠璃蜥蜴隠れて光残したる:深沢ふさ江
瑠璃蜥蜴を見た。見た瞬間身をパットかわして隠れてしまった。その瞬間の残像が眼裏に光ったままでいる。多くの子供達に夏休みがやって来た。彼らにとって自然と遊べる絶好の好機である。甲虫、蜻蛉、螢、天道虫、ザリガニ、目高、向日葵、朝顔。どんな観察をしどんな絵日記を書くのだろう。そんな記憶は一生を貫く言わば人生の記憶遺産となってゆく。さてこの瑠璃蜥蜴は絵日記に登場出来るだろうか。<身を飾りつつ疎まれし瑠璃蜥蜴:やの字>:読売『読売俳壇』(2021年8月17日)所載。

らっきょうと寿司とメンチと我老いて:高橋富子

2021年08月21日 | 俳句
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らっきょうと寿司とメンチと我老いて:高橋富子
食卓にらっきょうと寿司とメンチ。三世帯家族の同居となると好みも様々である。祖父がらっきょうで我が輩が寿司で孫達がメンチと配慮された。この世界の中で戦争をしていない日本の奇跡的「平和」の様相である。平和呆けの阿呆と言われようが何だろうが平和を貫いて欲しい。理想を言えば抑止力の軍備も要らないと思う。非現実な妄想を燻らせながらビールの栓を抜く。我老いたり。<らっきょうを食めばぱりぱり自慢の歯:やの字>:読売『読売俳壇』(2021年8月17日)所載。

ひとつづつ星が生まれてくる端居:三枝かずを

2021年08月20日 | 俳句
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ひとつづつ星が生まれてくる端居:三枝かずを
長い雨も上がって久々の晴れであった。廊下の端に腰掛けて風に吹かれている。暮れなずむ空に星が一つ二つ三つと生まれて来る。先ずは宵の明星の金星、木星、赤色の火星、そして瞬く恒星の数々。悠久の宇宙のショーの幕開けである。そんな宇宙の片隅に腰掛けているちっぽけな自分がある。都会の空では銀河が見えにくくはなったが。<風の音少し錆び来し夕端居:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2021年8月15日)所載。

働いたこと口実に水羊羹:丸山政博

2021年08月19日 | 俳句
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働いたこと口実に水羊羹:丸山政博
晴れれば厳しい残暑で降れば今までに経験したことの無い豪雨である。そんな中で日々の作業に追われる毎日である。普段ぼーっと生きていたが今日だけは良く働いたと自分にご褒美の水羊羹を口にする。労働の後の甘味は格別に美味しい。熱い日本茶が少し冷めてから飲むのは猫舌のせいである。いつまでこうして健康でいられるのかと思う事多々。<ずかずかと入り来る客と水羊羹:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2021年8月15日)所載。

サングラスはっとするほど父に似て:萩原豊彦

2021年08月18日 | 俳句
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サングラスはっとするほど父に似て:萩原豊彦
晩夏光の中を外出する事になった。鏡に向かって服装のチェックである。あれ!自分の姿を見て驚いた。目元をサングラスに隠された顔付きがはっとするほど父に似ているのだ。やっぱり血筋は争えないなあと誰かに言われた事がある。そう言えば姿形の他に性格も遺伝してしまったらしい。短気、不器用、口下手は承知だが喧嘩に弱いのが欠点である。<サングラス外し優しき父の顔:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2021年8月15日)所載。

短夜や夜半に激しき雨の音:下道信雄

2021年08月17日 | 俳句
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短夜や夜半に激しき雨の音:下道信雄
夏の夜は短い。昼の暑さに疲れた身を休めていると突如雨が降り出した。音立てて降る激しい雨である。少しの涼が戻っては来たが耳をつんざく雨音に少々恐怖も伴って来た。昨今の荒くなった気候では水害の報が各地からもたらされている。日本の長い列島を線状降雨帯が長く留まってしまう。水は美しく心安らげるものであって欲しい。今夜も眠れそうに無い。<短夜の隠れ家に聴く雨の音:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2021年8月15日)所載。