やんまの気まぐれ・一句拝借!

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定年や少しあみだに冬帽子:山内美代子

2020年11月30日 | 俳句
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定年や少しあみだに冬帽子:山内美代子
長い間のサラリーマン生活が終わった。定年。何はともあれ自由な時間が手に入った。真冬の空の下へ帽子を目深に被ってのお出かけである。心のままに東西南北を流離う。心のままに時間を気にせずに歩く。開放感の裏側には一抹の淋しさもある。心底淋しい冬の旅もまた良いものと知る。帽子はあみだに被るべし。<肩書きも銭も無くして冬帽子:やの字>:山内美代子「藤が丘から」2016年12月25日所載。
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ひたぶるに一音守り冬の虫:望月清彦

2020年11月29日 | 俳句
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ひたぶるに一音守り冬の虫:望月清彦
ひたすらに虫の羽音が響いてくる。冬だと言うのにこんな温かい日が多くなった。地球が温暖化していると言われるがなるほどと納得する。虫の音はぶーんぶーんと一定の音を保っている。眠くなるような平穏の時間を作者は暫し楽しんでいる。そう言えばあちこちで菊花展が盛んである。弁景の菊人形に虻が纏わりついていたっけな。<弁景の鼻をくすぐり冬の虫:やの字>:第21回NHK全国俳句大会「龍太賞入選作品集」2020年11月所載。
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尼寺の小さき日向干大根:吉田七重

2020年11月28日 | 俳句
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尼寺の小さき日向干大根:吉田七重
尼寺の小さな日向が眩しいのは大根が干してあるからだ。大根は尼さんの手になるものかご近所からの差し入れか。いずれにしても尼寺の生活が偲ばれる。寺の片隅には小さな菜園が設えてあって毎年四季折々の野菜が採れる。時として可憐な花が咲くこともある。何故か訳があっての尼さん達である。悟りには遠くてもこんな穏やかな暮らしには満足しているのである。<南面の軒長ければ大根干す:やの字>:石田波郷俳句大会「第12回作品集」2020年11月1日所載。
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オリオンや人の器とは何ぞ:竹中砂帰路

2020年11月27日 | 俳句
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オリオンや人の器とは何ぞ:竹中砂帰路
夜空にオリオン星座が巡ってゆく。そんな雄大な空間にあって人という存在の何とちっぽけな事よ。様々な人のあり方に「人の器」を計りそびれている。曰く異人伝の人物は本当に器が大きかったのだろうか。テレビに映る顔が偉くてぼーっと見ている自分がダメなのか。大きな宇宙の暗闇に小さな星が流れて行った。<オリオンの巡る闇夜のアベマリア:やの字>:俳誌「春燈」2002年2月号所載。
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居眠りの猫見張りをる大根干し:西谷授

2020年11月26日 | 俳句
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居眠りの猫見張りをる大根干し:西谷 授
大根を干す作業を猫が見張っている。見張っていながら気持ちの良いぽかぽか陽気についつい居眠りしてしまう。近頃は猫ちゃんブームらしく可愛い猫ちゃんがネットを賑やかにしている。顔が可愛い仕種が可愛い芸が面白い。どこか孤独の現代人を癒やして呉れる相棒なのである。この猫ちゃん見張りと言ってもただ其処に居て欠伸を繰り返すだけなのだが。<大根干す軒の蜂の巣古びをり:やの字>:句集「鄙歌」2002年2月1日所載。
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身ほとりに紙の嵩張る温め酒:満田春日

2020年11月25日 | 俳句
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身ほとりに紙の嵩張る温め酒:満田春日
原稿を書き又集まった原稿を積み上げる。今日も身ほとりの紙に埋くまった一日である。根を詰めては頬杖に一息をつく。直ぐに締め切りが頭を横切りまた筆を執る。何でこんな苦労をせねばならぬのだと自問自答をする。好きだからこそやってゆける、答は明快である。この情熱が健康を支え、健康が情熱を支えてゆく。ガソリンは温め酒。<一合と決めて二合や温め酒:やの字>:俳誌「はるもにあ」2020年11月号所載。
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冬の鳥あなたに戒律なき信仰:赤野四羽

2020年11月24日 | 俳句
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冬の鳥あなたに戒律なき信仰:赤野四羽
寒々とした風景の中に冬の鳥がたむろしている。ぱっと飛び立ちあなたへまっしぐらに飛んで行く。ふと神の創造の不思議さを思う。特段の信仰が有るわけでは無いが言うなれば「戒律のなき信仰」に従っている。母が病の苦しみに祈った対象は何だったか。飢えに苦しんだ戦後に林檎一つの恵に感謝した対象は何だったか。そして今日斯くある命は誰が賜物なんだろう。<冬の鳥時に膨らみつつ眠る:やの字>:俳誌「角川・俳句」2020年11月号所載。
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銭湯のヨガ教室や冬ぬくし:大西由美子

2020年11月23日 | 俳句
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銭湯のヨガ教室や冬ぬくし:大西由美子
ヨガとか太極拳が流行っている。今日は銭湯の空き時間でヨガ教室となった。冬とは言え小春日もあれば室内の無風空間も温かい。わが近隣では奥方中心にヨガ仲間が形成されている。呼吸法とかストレッチが身体に良いとは何となく分る。だが美容に良いと言われると疑問符を付けざるを得ない。あくまでも個人的感想です。<石段に猫が四五匹冬温し:やの字>:俳誌「春燈」2020年2月号所載。
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胃カメラの行きつ戻りつ神の留守:近藤充太

2020年11月22日 | 俳句
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胃カメラの行きつ戻りつ神の留守:近藤充太
一病息災の日常も時に精密検査の運びとなる事がある。最近では各医療機関の検査態勢が充実して設備も完備されている所が多い。今日は胃カメラの運びとなった。特に全身麻酔などしないから検査の様子が自分でも見て取れる。行きつ戻りつの様子に多少の不安と緊張も持って見守る。さあてな検査結果は如何に。神の留守とは心細い。<神の留守妻の目盗みもう一合:やの字>:俳誌「百鳥」2020年2月号所載。
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水音のなくて野を分け冬の川:長谷川敏子

2020年11月21日 | 俳句
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水音のなくて野を分け冬の川:長谷川敏子
野を散策しているとふいに水の流れに出合う。川である。水音を立てずに緩やかに流れてゆく。場所によっては跨げそうな小さな川である。少し前までは秋の花野のきらびやかさがあったが今は末枯れてしまっている。芒の穂がゆらいだ時水面がきらりと光った。釣り人の影が二つ三つ。タナゴかモロコであろうか。<冬の川釣り人の影二つ三つ:やの字>:長谷川敏子句集「糸車」2008年4月29日所載。
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青空に道筋はるか冬雲雀:土肥あき子

2020年11月20日 | 俳句
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青空に道筋はるか冬雲雀:土肥あき子
空気も乾燥して来た。透明な気層の彼方には真っ青な空ばかり。その青空に一点の染みの様に雲雀が囀っている。心細いばかりの冬の旅人が手庇で底抜けに青い空を見上げる。鳴声が心なしか淋しく聞こえてくるのは己の心の反映か。飛行機雲がはるか遠くに伸びて旅人は再び歩き続ける。<遙かより語りくる声冬雲雀:やの字>:土肥あき子句集「夜のぶらんこ」2009年3月3日所載。
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美しき人美しくマスクとる:京極杞憂

2020年11月19日 | 俳句
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美しき人美しくマスクとる:京極杞憂
美人はなにをやっても美しい。ただマスクを外すその所作さえも美しい。取分け今年ほどマスクが主役になった年はあるまい。コロナ文化と言うか世界中でマスクが着用された。新型のウイルスに対抗するにこれしかない手段がマスク着用であった。この着用によって見かけの人格が変わって見える人が居る。曰くマスク美人なる方々が出現する。いっぽうで元々の美人が着用の美しさで魅了した挙げ句マスクをとる所作のまた美しいこと!何故か人の妻である事が悔しい。<マスクして甘き声あり白寿会:やの字>:角川書店「合本・俳句歳時記」2019年3月28日所載。
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短日や隣のレジのよく進む:吉野勝子

2020年11月18日 | 俳句
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短日や隣のレジのよく進む:吉野勝子
次第に日が短くなってきた。これからは歳末に向かって心忙しい気分で暮らすことになる。いつものように買い物に出掛ける。メモどうりに買い物ケースに収めたがレジは長蛇の列をなしている。こちらが早そうだと思った列が途中で手間取っていたりする。いらいらが募ってくると隣の列がよく進んでいる様に見えてくる。作戦失敗か。そんな瞬時のドラマも過ぎて夜の家族の団らんが待っている。<短日や雲の流れの急ピッチ:やの字>:読売新聞「読売俳壇」2018年12月17日所載。
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小春日を妻の歩幅で歩きけり:中村昌男

2020年11月17日 | 俳句
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小春日を妻の歩幅で歩きけり:中村昌男
ぽかぽかとた春の様な陽気である。連れ合いと揃っての外出。通常は夫の歩幅が妻の歩幅に勝る。そこで相手を思いやって遅い妻の歩幅で歩く事になる。会話も昔は一方的に男が力づくでまくし立てたが今では婦唱夫随で丸く収まっている。余談ですが小生は心臓肥大症があり普通の速度では苦しくて歩けません。婦唱夫随は昔から自然とそうなっておりまする。<小春日の時止めてゐる新聞紙:やの字>:読売新聞「読売俳壇」2018年12月17日所載。
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冷(すざ)まじや予防接種に老の列:岩下正文

2020年11月16日 | 俳句
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冷(すざ)まじや予防接種に老の列:岩下正文
医療機関へ定期検診に行って驚いた。長蛇の列が出来ている。インフルエンザの予防接種の列だそうだ。検診のついでに予防注射を願ったが予約者が一杯で新規受付はしないそうだ。悪友に聞いたらもうとっくに済んでいるとのこと。我出遅れたり。しかし列の連中をよくよく見れば皆老人ばかりではないか。老いてなをしたたかに生きている。<日曜は酒飲まぬ日ぞ冷まじや:やの字>:朝日新聞「朝日俳壇」2020年11月15日所載。
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