やんまの気まぐれ・一句拝借!

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道問はれ一緒に歩く春の雲:奥沢和子

2021年03月31日 | 俳句
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道問はれ一緒に歩く春の雲:奥沢和子
道を問はれた。近い場所とは言え道は複雑である。ではご一緒に参りましょうと案内をする事にした。空にはぽっかり真綿のような春の雲が浮いている。ここで出合うのも一期の縁である。問わず語りに話を交わす。差し障りの無い話題ながらも人柄が偲ばれる。案内する先の人柄や如何?いやいや詮索は野暮と言うもの。見上げる春の雲が淡く眩しい。読売新聞「読売俳壇」2021年3月221日所載。(ばんやりと生れて流れて春の雲:やの字)
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頬撫でし春風今日は頬を打つ:吐矢龍一郎

2021年03月30日 | 俳句
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頬撫でし春風今日は頬を打つ:吐矢龍一郎
昨日は爽やかに頬を撫でたあの風が今日は強く頬を打つ。季節の変わり目の天候は気まぐれである。さはさりながら春風を満身に浴びれば気分は喜びのモードと成っている。草も鳥の命を伸び伸びと謳歌している。さて小生も八十年(傘寿)を終えようとしている。そこで終活作業となる訳だがこれが難題。写真、日記の次がビデオ映像に録音テープ。まして父母の肉声を聞いたらそこで手が止ってしまう。もう一度春風に頬を打たれてみむ。我が怠惰に喝を打て。背を正せ。いざ明日へ向かって青春の青き踏め。:読売新聞「読売俳壇」2021年3月221日所載。(春風や遠き地平に貨物船:やの字)
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膝打ちてならばやるかと春炬燵:小谷義孝

2021年03月29日 | 俳句
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膝打ちてならばやるかと春炬燵:小谷義孝
いったん入ると中々抜け出せないのが春炬燵。ああでも無いこうでも無いと愚考を重ねた挙げ句にやっと決断する。ならばやるかと膝を打った。までは良いのだがここから炬燵を抜け出すには一段と決心が求められる。優柔不断は生まれながらの性である。そこで例の「どっこいしょ!」が出てくる。春風や闘志いだきて丘にたつ(虚子)さんは偉いなあ。読売新聞「読売俳壇」2021年3月221日所載。(新聞にルーペを当てて春炬燵:やの字)
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いくたびも遅刻せし坂卒業す:山内基成

2021年03月28日 | 俳句
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いくたびも遅刻せし坂卒業す:山内基成
丘の上の学校へは坂を上って行かねばならぬ。思えばこの坂を上り行く苦しさに幾度遅刻した事だろう。そんなこんなの想い出を多々作りながらも今日の卒業である。思えば尊し我が師の恩もさることながら頑張った自分を褒めてやりたい。学校で得た数々の中でも終生の友を得た事が何よりの収獲であったろうか。<落第に落第重ね卒業す:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2021年3月21日所載。
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白寿の師八十路の弟子や山笑ふ:木村力男

2021年03月27日 | 俳句
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白寿の師八十路の弟子や山笑ふ:木村力男
人生100年時代がやって来る。九十九歳の師と八十路の弟が今日も勤しんでいる。高嶺の山も頬笑んで見守ってゐる。まあ人生いろいろ人それぞれである。小生も心臓に不安があって還暦を目標に生きてきた。それが何とこの四月には八十歳の誕生日を迎える。一病息災グランドゴルフを闘い百薬の長も戴いている。どうか明日もまた安らかに過ごせますように。<健康で長生き夫婦山笑ふ:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2021年3月21日所載。
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つばめつばめ泥が好きなる燕かな:細見綾子

2021年03月26日 | 俳句
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つばめつばめ泥が好きなる燕かな:細見綾子
つばめが営巣している。藁屑を泥で固めて器用に巣を作っている。誰が指導した訳でなし本能的に出来るのだ。餌の羽虫を捕らえる早業も身に備わっている。近年都市とその近郊では硝子とコンクリートで施設や道路が構築され泥が無く燕も来なくなった。そうなると天邪鬼な心は泥を求めて?旅に出たくなる。田畑の向こうに山河があって湧き水が美味しい処へ行ってみたいものだ。そこへは燕もきっと来ているだろう。<つばくらめ雨近きらし低く飛ぶ:やの字>角川書店「合本・俳句歳時記」1990年12月15日所載。
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意思弱き男青きを踏みにけり:鈴木真砂女

2021年03月25日 | 俳句
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意思弱き男青きを踏みにけり:鈴木真砂女
意思の弱い男に惚れてしまったが身の不運であろうか。恋は自制の効かない病の様だ。優柔不断なこんな男と山野の青きを踏んでゆく。頼りない男ほど母性本能が疼き庇いたくなる。そんな自分をも眺めながら今日も生きてゆく。まこと恋は思案の外である。<テレビ漬け自粛に飽きて青き踏む:やの字>鈴木真砂女「句集・紫木蓮」平成11年7月2日所載。
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まつさらな言葉のやうな春の雲:若林常雄

2021年03月24日 | 俳句
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まつさらな言葉のやうな春の雲:若林常雄
何の企みも無いまつさらな言葉。頭上に浮かぶ真綿色の雲。そんな純粋で穏やかな春の雲を見ていると己の身の汚れに身震いをしてしまう。下心あり嫉妬羨望嫉みに満ちた我が身から発せられる言の葉が恥ずかしい。駄目な事を駄目と言い嫌いな事を嫌いと何故言えないのか。そう言えば初恋を失った時も何でまつさらな言葉が出なかったのか忸怩たる思いである。<気まぐれと言へば気まぐれ春の雲:やの字>読売新聞「読売俳壇」2021年3月16日所載。
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たんぽぽや吾に予定の墓地静か:加藤英行

2021年03月23日 | 俳句
568
たんぽぽや吾に予定の墓地静か:加藤英行
自分が眠る墓地を前に佇む。周りには蒲公英(たんぽぽ)やら野の花が咲いている。生と死のこの空間には森閑とした空気が跨がっている。死後はこうした草葉の陰に眠るのだろう。かく穏やかに人生を終えかく安らかに花に埋もれて過ごしたい願望がある。雨の日も晴れの日も今まで通りに授かって眠りたい。たんぽぽの綿毛がついと飛んで行った。<たんぽぽや永久の死後へ飛びゆかむ:やの字>読売新聞「読売俳壇」2021年3月16日所載。
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いぬふぐりきのふのともはけふも友:渡邉隆

2021年03月22日 | 俳句
567
いぬふぐりきのふのともはけふも友:渡邉隆
ことしも犬ふぐりが大地を飾っている。この変わらぬ春が何と嬉しいことよ。昨日の友は今日も友、語り語られる友が私にはある。人は淋しいものである。そんな私の喜怒哀楽に寄り添ってくれる友。友は人ばかりではない。花も鳥も星もみんな変わらぬ友である。<足裏の大地飾りて犬ふぐり:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2021年3月14日所載。
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森閑として囀りをくりかへす:久塚謙一

2021年03月21日 | 俳句
566
森閑として囀りをくりかへす:久塚謙一
森閑としている大気の中をくりかえす囀りが響いている。囀りが静かさを強調し静かさは囀りを強調している。何と澄み渡った世界だろう。喧噪の街に勤め生活していて忘れていた世界が甦る。そんな中の一点としての自分を見詰める。自分とは何かそしてどうあるべきか。我思う故に我在り。<命かく無心にありて囀れり:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2021年3月14日所載。
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雉子若し春の彼岸をかきわけて:中山純子

2021年03月20日 | 俳句
565
雉子若し春の彼岸をかきわけて:中山純子
我が東葛地域には大利根や支流の江戸川が流れている。そんな河川にはまだまだ野生の匂いがぷんぷん残っている。今頃の季節には雉子が甲高い声で鳴いている。遠目にはカラスにも見間違えるがこの鳴き声でああ雉子かと思い知る。この春の彼岸にも若い雉子たちがこの世を謳歌している。<雉子鳴くや独り遊子の遠くみる:やの字>角川書店「合本・俳句歳時記壇」1990年12月15日所載。
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根拠なき自信湧きたる朝寝かな:加藤草児

2021年03月19日 | 俳句
564
根拠なき自信湧きたる朝寝かな:加藤草児
朝床の中で目覚める。さあ今日もやるぞ!この自信はどこから湧いてきたのか分らない。寝過ごすほど寝尽くして積り積もった疲れもすっかり癒やされた。普段気が付かない健康である事のありがたさをしみじみと噛みしめる。今日までの懸案事項を殴り書きのメモにとった所でまた眠くなった。朝餉までの一時をもう一眠りするか。<定年の後の無職や朝寝坊:やの字>朝日新聞「朝日俳壇」2021年3月14日所載。
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朧夜の古びぬものに虫めがね:春日のりこ

2021年03月18日 | 俳句
563
朧夜の古びぬものに虫めがね:春日のりこ
春は朧の夜である。活字を読むのに虫めがねで見ている。何時の頃か興味が湧くと目を近付けずに虫眼鏡を見る癖が出来た。老眼の走りだったのだろう。今日の興味は山野草の写真である。未だに似て非なる花の区別がつかない。オドリコソウとホトケノザ。ところで何んで「虫」めがねなのだろう。虫を見るためなのかしら。虫めがねは何も教えてくれない。<朧夜の亡き人いつも頬笑めり:やの字>俳誌「はるもにあ」2021年3月第85号所載。
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真つさらな顔して会はむ初桜:山口蜜柑

2021年03月17日 | 俳句
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真つさらな顔して会はむ初桜:山口蜜柑
色々な事に塗れて浮世の風に当たって生きている。今日は人と会うことになっている。折しも桜の開花が報じられている。ぱっと明るい服装にしよう。そして真っさっらな顔が良い。春や春何もかも新生する季節だもの。<初桜やつぱり酒を飲むことに:やの字>俳誌「はるもにあ」2021年3月第85号所載。
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