自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

家畜伝染病予防法と防疫方針の改善点

2010-09-29 16:46:22 | 牛豚と鬼

 動物の命を守るのが獣医の仕事ですが、口蹄疫は伝染性が強いという理由で殺処分によってまん延を防止しています。しかし、口蹄疫のようなウイルスによる伝染病はワクチンで感染拡大を阻止するのが世界の常識です。殺処分を最少にしてまん延を防止できるように、科学技術の発達に応じて速やかに、科学的な方法を防疫対策に導入する必要があります。

 わが国では家畜伝染病の発生を予防し、まん延を防止する方法の基本は、家畜伝染病予防法(1951.5.31)に定められていますが、口蹄疫(2000)やBSE(2001)の発生を機に、家畜防疫を総合的に推進するための指針(2001.9.6)防疫指針(口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針 2004.12.1)が追加され、口蹄疫の防疫指針が法的に示されました。これに伴い病性鑑定指針(2008.6.2)が改訂され、口蹄疫の防疫はこれらの指針に基づき対策が講じられています。

 しかし、全殺処分が口蹄疫防疫の基本であり続けていることこそが、口蹄疫を恐ろしい病気に仕立て、現場を殺処分と埋却という戦場の地獄に陥れたのではないでしょうか。

 患畜と疑似患畜を曖昧にし、疑似患畜が1頭でも出ればそこで飼育されている牛、豚は全頭殺処分とするのは科学的根拠がなく、ただ恐怖による殺処分にすぎません。今回の宮崎口蹄疫も、感染の確認を躊躇したことで防疫措置が遅れ、飼育頭数の多い畜舎密集地帯で全殺処分を実施したことが、被害を拡大させた可能性があります。密集地帯であるからこそ、早くワクチンを接種して感染の拡大を防ぐべきでした。

 摘発・淘汰(stamping-out)とは単なる淘汰(culling) ではなく、患畜および感染している疑いの濃い疑似患畜をウイルス検出のPCR検査または抗体検査により科学的に摘発して殺処分することであり、検査と殺処分は一体のものでなければなりません。

 今回、リングワクチン(ring vaccination)と称して実施された殺処分を伴うワクチン接種("supperssive" vaccination)は、2001年にオランダで実施されましたが、これは当時のOIE基準では、ワクチン接種した動物がいないことが清浄回復の条件とされていたため、仕方がなかったことです。2003年のOIE基準の改正により、ワクチン接種した動物に自然感染のものがいないことを証明すれば清浄回復が認められるようになり、オランダは今ではワクチン接種後殺処分に反対の方針を鮮明に打ち出しています。

 OIEは清浄回復の条件としてワクチン接種国としない国を区分していますが、これは口蹄疫発生前に予防的にワクチン接種をしているかいないかの区分であり、緊急ワクチン接種のことではありません。現在、予防ワクチンを接種して清浄国であるのはウルグアイのみですが、OIEは清浄回復の基準だけを示せば良いのであり、なぜ予防ワクチンをしている国を区分しなければならないのでしょうか。ワクチンの予防接種をしようがすまいが、清浄は清浄で違いはありません。貿易のためにOIE基準が重要視されることが、ワクチンの使用を拒む要因となっています。

 なお、ウルグアイは予防ワクチンで口蹄疫の発生を抑えていますが、このことはワクチンによるキャリアを心配する必要はないことを示しています。また、ワクチンを接種したら市場に出荷できないのであれば、ウルグアイで予防ワクチンを摂取するはずがありません。ワクチンの使用を躊躇することは、根拠もなくゼロリスクを求めて感染をかえって拡大することにつながります。 

 2001年の英国口蹄疫の大惨事を教訓に、ワクチンによる防疫が大きな流れとなりましたが、それを象徴する論文「殺処分とワクチン接種(2002)」をFAOが紹介しています。この論文では「口蹄疫ワクチンは病気を予防できるが根絶できない」という獣医界のドグマへの挑戦がなされ、殺処分の問題点を指摘し、全殺処分は感染を拡大する危険性が高いことを指摘しています。
 わが国は2000年の口蹄疫防疫対策を成功例として、全殺処分の見直しをしないまま英国の惨事を繰り返してしまったと言えましょう。 

 今回実施されたのはリングワクチンと言うよりもリングカリング(ring-culling, circle culling)による防火帯殺に近いと思いますが、これは摘発・淘汰(stamping-out)を摘発なしに殺処分するように拡大したものです。しかし、大規模な殺処分は多くの人、車、重機の移動を必要とし、口蹄疫の知識が乏しい人が多くかかわることにより、感染を防止するより拡大する恐れがあることは先に紹介した論文で指摘されています。今回、感染の拡大が止まったとすれば、その地域に家畜がいなくなったからであり、殺処分を最少限にして感染を食い止める防疫の基本に反しています。

 今回の宮崎口蹄疫の防疫対策の検証においては、防疫指針が科学技術の革新や世界の動向に応じた対策になっていたか、家畜防疫を総合的に推進するための指針がどう制度化されていたか、こそが問われるべきでしょう。

2010.9.27 開始 2010.10.7 2014.11.2 一部更新


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1 コメント

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口蹄疫を恐ろしい病気に仕立て>>>>これは、感... (りぼん。パパ)
2010-09-30 00:48:22
口蹄疫を恐ろしい病気に仕立て>>>>これは、感染力が格段に強いこと、わずかなウイルス量が、家畜の体内で、急激に増えることなどは、非常に、おそろしい病気と思います。罹ったから死亡するか、については、子豚、子牛など以外は、死なないでしょう。ただし、繁殖障害、肉質劣化など、家畜の価値の低下は、免れないでしょう。

病性鑑定指針も、読んでもらえば、判るとおり、現場での検体採取のプロバング法と検体の採取法、調製法を主に、概略の検査方法が書いてあるだけで、特に、口蹄疫ウイルスのRNA1本鎖ウイルスの特異性については、説明されておらず、単純に、DNAタイプウイルスと同様に考えることは、非常に、危険でしょう。不安定さ、変異スピードなどまったく他のウイルスとは、比較にならないくらい異なったウイルスだからです。

一般的に、感染したウイルスと同じ血清種ワクチンを接種すれば、ワクチン接種家畜は、他の血清種以外は、感染しないはずですが、口蹄疫ウイルスは、O型血清ワクチンを接種しても、O型の自然感染は、起きてしまうことが、この病気の難しさだと思います。

現時点で、殺処分した29万頭内には、未感染健康家畜がたくさん存在したはずと言うことは、容易に想像できますので、その家畜を殺処分してしまったことは、残念ですが、患畜については、早期殺処分以外、方法がないと言うことは、現状の最新研究レベルを持ってしても、そうせざるを得ないことは、事実と思われます。
つまり、殺処分頭数を減らすことは出来ても、感染家畜は、ウイルスを排泄し続けるので、殺すより仕方ないのだと思います。

もう少し、RNA1本鎖ウイルスを研究してからでないと、ワクチン接種のみで、家畜の健康を守ることは、ほぼ不可能なので、その辺は、お互い勉強すべきと思います。

家畜伝染病予防法以下、関連法令、指針などは、口蹄疫ウイルスの亜種変異については、まったく述べていませんので、殺処分完全無用論は、非常に危険な発想と思います。
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