樋口和彦氏が、ユングについて「魂の医者」と評したことに触れた。ユングは心の全体性に関わる概念として「Psyche」という表現を用いている。この言葉の訳語については、湯浅泰雄氏は「心」でも「精神」でもなく「たましい」としている。樋口氏は「ユング自身はサイキ(Psyche)という語で心全体に関して呼んでいるが、そのうちの本来の心の働きを魂と考えている」と指摘し、同氏は「魂(プシュケー)」という表現を用いている(樋口和彦 ユング心理学の世界 p21 創元社 1995年)。
全体性を前提にした「本来の心の働き」を「Psyche」として捉えている。心の全体性に関わる概念の記述として、湯浅氏と樋口氏の認識は一致している。
ユングは、患者の治療という「個人的」「個別的」な関わりから、人間のたましい(魂)を深く探究し続けた。その延長線上に中世ヨーロッパにおける錬金術の研究があり、そして道教や易の世界観との関わりへと導かれていった。その過程で、「個人的」なものと「全体(集合的)」なものとの結びつきという洞察を得ることになる。錬金術でいう「聖婚」と、道教や易でいう「陰陽合一」が、人間のたましい(Psyche)という括りで考えるなら、いずれも深い次元で結びついているとみるユングの洞察は、「集合的無意識」や「元型」「自己性(self)」といった独自の理論、概念として構築されていくことになる。
このような観点から考察すると、神話は遠い昔に創造された空想などではなく、今も繰り返し人間によって体験され生み出される普遍的な心的現象なのであるという認識を得ることになる。深層心理学の知見によって、神話を現在の研究課題として引き戻すことを可能にしたという意味で、その功績は大きい。
「浦島説話研究所」
全体性を前提にした「本来の心の働き」を「Psyche」として捉えている。心の全体性に関わる概念の記述として、湯浅氏と樋口氏の認識は一致している。
ユングは、患者の治療という「個人的」「個別的」な関わりから、人間のたましい(魂)を深く探究し続けた。その延長線上に中世ヨーロッパにおける錬金術の研究があり、そして道教や易の世界観との関わりへと導かれていった。その過程で、「個人的」なものと「全体(集合的)」なものとの結びつきという洞察を得ることになる。錬金術でいう「聖婚」と、道教や易でいう「陰陽合一」が、人間のたましい(Psyche)という括りで考えるなら、いずれも深い次元で結びついているとみるユングの洞察は、「集合的無意識」や「元型」「自己性(self)」といった独自の理論、概念として構築されていくことになる。
このような観点から考察すると、神話は遠い昔に創造された空想などではなく、今も繰り返し人間によって体験され生み出される普遍的な心的現象なのであるという認識を得ることになる。深層心理学の知見によって、神話を現在の研究課題として引き戻すことを可能にしたという意味で、その功績は大きい。
「浦島説話研究所」