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「浦島説話」を読み解く

「浦島説話」の時代を生きた古代人の人間観を歴史学、考古学、民俗学、国文学、思想哲学、深層心理学といった諸観点から考える。

たましい(Psyche)の探究者

2011-09-30 00:02:06 | 深層心理学
樋口和彦氏が、ユングについて「魂の医者」と評したことに触れた。ユングは心の全体性に関わる概念として「Psyche」という表現を用いている。この言葉の訳語については、湯浅泰雄氏は「心」でも「精神」でもなく「たましい」としている。樋口氏は「ユング自身はサイキ(Psyche)という語で心全体に関して呼んでいるが、そのうちの本来の心の働きを魂と考えている」と指摘し、同氏は「魂(プシュケー)」という表現を用いている(樋口和彦 ユング心理学の世界 p21 創元社 1995年)。
全体性を前提にした「本来の心の働き」を「Psyche」として捉えている。心の全体性に関わる概念の記述として、湯浅氏と樋口氏の認識は一致している。
ユングは、患者の治療という「個人的」「個別的」な関わりから、人間のたましい(魂)を深く探究し続けた。その延長線上に中世ヨーロッパにおける錬金術の研究があり、そして道教や易の世界観との関わりへと導かれていった。その過程で、「個人的」なものと「全体(集合的)」なものとの結びつきという洞察を得ることになる。錬金術でいう「聖婚」と、道教や易でいう「陰陽合一」が、人間のたましい(Psyche)という括りで考えるなら、いずれも深い次元で結びついているとみるユングの洞察は、「集合的無意識」や「元型」「自己性(self)」といった独自の理論、概念として構築されていくことになる。
このような観点から考察すると、神話は遠い昔に創造された空想などではなく、今も繰り返し人間によって体験され生み出される普遍的な心的現象なのであるという認識を得ることになる。深層心理学の知見によって、神話を現在の研究課題として引き戻すことを可能にしたという意味で、その功績は大きい。

浦島説話研究所

「魂の医者」

2011-09-29 00:14:03 | 深層心理学
「C・G・ユングの生涯をもし一言をもって言いあてるとすれば、彼は一生を貫いて魂の医者であった。そして、一臨床医として85年の生涯を送った人である。もちろん、精神医学、心理学、神学、哲学、神話学、民族学、教育学、宗教学、東洋哲学や文化人類学、文学や芸術その他数え切れない分野に影響を与えるような学問的活動をなし、それは19巻の厖大な彼の著作集である(1)ユング全集をみれば明白であるが、しかし、ユング自身も考えていたように、それらの著作はいわば副次的な産物で、みな彼のところにきた患者を治療しようという関心から、ついついいろいろの学問の領域をこえて、踏み入り、生涯が終ったところでそうなっただけであり、主たる彼の興味はただ一点、患者の治療であった」(樋口和彦 ユング心理学の世界 p18 創元社 1995年)

精神科医としてのC・G・ユングが「魂の医者」として評価され、「数え切れない分野に影響を与えるような学問的活動をなし」たという事実を理解しておく必要があるだろう。
「浦島説話」の研究に新しい光を照射するという意味においても、深層心理学、とりわけユング心理学の功績は大きいと思う。

浦島説話研究所

神道

2011-09-28 00:01:07 | 時代精神
「世界の宗教には、大きく分けて二つの種類がある。ひとつはキリスト教、仏教、イスラム教などの創唱宗教。これらは創始者が明確で、その創始者の教えをもとに展開した宗教である。もうひとつは、民族宗教(民族の生活や文化の一部として生じ、それらとともに展開)、あるいは自然宗教(特定の提唱者を持たず、自然発生的)と呼ばれるものだ。神道は土着的な自然崇拝から発展したものなので、当然後者に属する。そのため日本独自のものと考えられがちであり、むろんある面では、それは正しい。
しかしその一方で、神道は、時代ごとに外来のさまざまな思想の影響を受け、たえず変容してきたということも忘れてはならない。
「もともと神道は思想としてはっきりしたものではありませんでしたが、日本神話を見ると、すでに、儒教や易、陰陽説などの要素が見られます。のちの政治や文化に大きな影響を与える仏教が伝来する以前から、神道は、中国文化の影響を受けていたのです」(井上順孝氏の指摘)
六世紀に仏教が伝来して以降、神道は、仏教の影響のもとに思想として練られていった」(井上順孝監修 神道の歴史と思想を読み解く p59 一個人 2011年11月号 KKベストセラーズ)

道教は、民族宗教と自然宗教が混合して成立している。その意味で、我が国の伝統的神道とも親和的な関係にある。天地開闢から説き起こす『日本書紀』の記述には、明らかに陰陽思想の影響が汲み取れる。
「浦島説話」を読み込むうえで、背後に伝統的な神道観を考慮する必要もあろうかと思われる。

浦島説話研究所

死と再生

2011-09-27 00:19:49 | インポート
人体は、およそ60兆の細胞で構成されているという。
かつて、NHKで「NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体」というドキュメンタリー番組が放映されたことがある。その中で、骨の再生について触れていた。
骨は、「破骨細胞」と「骨芽細胞」の働きによって常に新生し続ける。いわば、解体と建設という相反する作業を同時に行いながら、骨は2年半程度の期間を経て“全く新しく生まれ変わる”のである。
人体の精緻な仕組みと驚愕すべき機能について、人体を小宇宙として捉えた興味深い番組だった。
死と再生というモチーフは、神話にとって不可欠の重要な要素であるが、少なくとも骨細胞のレベルでは、死と再生が同時に行われているということになる。

浦島説話研究所

六爻

2011-09-26 06:52:10 | 易(陰陽)・五行、讖緯(しんい)思想
「六爻からなる卦は、実は三爻ずつ、上と下に重なってできているとされる。上にあたる部分を外卦といい、下にあたる部分を内卦という。この上下にわたる三つずつの組み合わせが一つの単位となる。この三つの爻の組み合わせ、陰爻と陽爻の組み合わせをつくると、八種の卦ができる。いわゆる乾、坤、震、巽、坎、離、艮、兌の八種類の卦ができるのである。これが八卦である」(根本光人監修 陰陽五行説―その発生と展開― p46 薬業時報社 1991年)

易の哲理は、万象を相対的な関係性(天と地、陰と陽、上と下、太陽と月、剛と柔、内と外、昼と夜、男性と女性等)において洞察する点にある。だが、相反する二つの対立原理は、本来同根とみるのである。太極、あるいは太一は両者を包含した一者なのである。

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