プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 森茉莉「贅沢貧乏」

2011年01月28日 | ◇読んだ本の感想。
初森茉莉作品。どうして今まで読んでないか、つらつら考えてみるに
“耽美小説の書き手”という頭があったせいだな。今となっては「耽美小説」なんて言葉、
忘れかけるほど死語ですね。それを忘れたからこそ今回読む気になったのだが。



……しかしまあこの人、――変な人ですねえ。


資質と育ちが一致団結して完璧に特異な人間を拵え上げた、という感じ。
昨今の書き手のうちにも変な人はたまにいるが、ここまではとてもとても。
変さ筋金入り。明治の人は、良くも悪くもスケールが大きいのう。
変な人が全て作家に向くわけではないけど、基本的に作家は変な人の方が面白い。

しかしこれでは日常生活が大変に苦労だろう……。
本人はもとより周りもね。作家じゃなかったら他に何にもなれなかったろうな。


本作品はエッセイ。毒舌を横糸、思い込みを縦糸にしたタペストリー。
通常の毒舌は芸の一種であり、スパッと斬り捨てるものだが、
森茉莉の場合は真綿で首を締めあげるというか、天然なだけに少し詰めが甘いので
モヘアのマフラーで(非力に)締めあげるというか。
俎上に乗せられた当時の文壇諸氏も、詰めの甘さに怒るに怒れず、
かといってもちろん愉快ではない……という微妙な心境だったのではないか。


芸としての毒舌が加減できるものであるのに対して、森茉莉は思ったことしか
書けない人なので余計性質が悪い。面白いけど、……読んでいてはらはらする。

一番はらはらするのはご近所の人についての言及。
こんなに正直に書き散らしてしまっていいのか……。
ご近所の人は自分が書くものなんか読まないと決めてかかっているのだろうか。
“マリアにエリイト意識はない”と本人が言明してるが、
……エリイト無意識ならたっぷりと持ちあわせていそうだ。危うい。人ごとながらドキドキする。

まあ毒舌は周囲や文壇の人だけでなく、自分自分にも公平に及んでいるんだけどね。
わたしの感覚では、この人は絶対に技術で書いていた人ではないんだけれども
――技術で書く人は書き方のフォーマットに従って書ける人。それに対して自分の中を泳ぐように
書くタイプの人もいて、森茉莉は後者だと思う――しかしこの公平感はすごいな。
主観で書いているのに、主観で書く自分を相当遠くから俯瞰している。
これはむしろ相反する資質ではないのだろうか。

目がいい人だったのだろう。……ここまで目が良ければもっと穏やかに日常生活を送れて
しかるべきな気がするが……。しかし目で見えるものを行動に結びつけるのは
何かの機能変換が必要で、それが常識と言われるものなんだろうな。
そして森茉莉には常識はなかったようだ……。強固な主観があって常識がないとこうなる……
うう。反面教師。


エッセイが面白かったのである程度ツブしてみようと思うが、小説はどうかねえ。
こってりしすぎている恐れがある。エッセイも、あまり立て続けに読んでは食傷しそうだ。
少しインターバルを置きながらにしよう。




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それにしても文壇関係の仮名が気になる。
この人のことだとわかる名前もあるけど(真島与志之→三島由紀夫など)
肝心要の「甍平四郎」と「野原野枝実」がわからないんだよなあ……。

※野原野枝実は萩原葉子らしい。……知らん人でした。あとは草野心平?
でも二人とも名前から類推出来ないんだよね。




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2 コメント

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甍平四郎は (通りすがりさん)
2013-07-12 03:21:58
こんにちは。通りすがったものです(^^)
森茉莉さんのエッセイ、おもしろいですよね。
甍平四郎は室生犀星のことですよ。犀星の「杏っ子」での名前が平四郎なので、そうだと思います。娘の朝子さんもちゃっかり甍杏子になっちゃってますし。
たくさん本を読まれているんですね、またブログ見させてもらいます!!
では失礼しました。
ありがとうございます。 (umeko)
2013-07-15 00:31:07
ご教示ありがとうございます。
このエッセイの後、森茉莉を何冊か読みました。
しかしわたしには室生犀星について具体的なイメージがなく(^_^;)。わりとマトモな人な感じだが、森茉莉のような人に懐かれるのか……。うーん。

近年、惰性な読み手に堕しており、本を読んでも思うところがなくなってきてます。
我ながら残念無念な日々です。

ご訪問、ありがとうございました<m(__)m>

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