ぬで さんに部長の座を譲り、晴れてヒラ部員となりました えcぃpせ です。
今回は、第97回五月祭と第75回駒場祭の2回に渡って展示した大型作品「オレンジアカデミー/グレープアカデミー」(『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』より)の紹介をさせていただきます。
こちらの作品は「株式会社ポケモン」さんからご依頼をいただき作成させていただいたもので、自分が弊部に加入してから扱った中で最多のパーツ数を誇る非常に大きくかつ細部までこだわり抜かれた作品です。
この記事では自分たちがこだわった点を余すところなくお伝えできればと思いますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
1. 土台(担当:mizutaro, Kai Matsumoto, あらいぐま, 三鷹の民, わたあめ, えcぃpせ)
まず大前提として土台に限った話ではないのですが、今回の作品は運搬することを考慮に入れて設計されたので、実はいくつかの区画に分割することができます。
この土台に関しては、正面の階段、外周を取り巻く縁、縁に付属している小さな屋根のついている塔x8、正門、植え込みx(20+22)、木x18、街灯x(18+12)、ベンチx12、噴水x2、90度間隔で分けられた扇型の土台、モザイク画を表現する正方形の土台に分けられます。
内部構造は8ポッチ間隔で隙間の空いた「井」の形状を繰り返すことで、上からの荷重を均等に分散し土台が潰れないようになっています。
また土台は6幅のブロックと8幅のブロックが交互に積まれるような設計がされているのですが、これらは外から見えないものとして他のパーツと重ならない色にして発注されていたため、結果的に層ごとに色が分かれ、組み立てる際にもどこまで自分が組めているのかがかなり分かりやすくなっていました。
表面において端の方は1ポッチ単位で円に近似されており、最後に縁で囲むことによって外観を綺麗に整えています。
この縁は、90度間隔でaxleの軸を通すことによって内側から固定しています。
正面の階段を登った先には入り口の門があり、柱の正面には2ポッチスケールにデフォルメされたアカデミーの校章が掲げられています。
門を抜けてすぐの床には非常に複雑かつ精緻なモザイク画が設置されています。
この構造を実現するためモザイク画の区画は土台から独立させて設計しており、この区画だけを取り出すと正方形の底面を持つ直方体として成り立っています。
余談ですが、この区画だけを取り出すと美味しそうなケーキのようにも見え、組み立てしている際に部員同士で少し話題になりました。
表面の校舎を円形に囲むように舗装されている街路は丁寧に1x1 tileで埋め、等間隔に花壇や木、街灯を設置しています。
玄関へと繋がる街路の脇にもベンチや街灯が設置されています。
円形に配置されている街灯と直列に配置されている街灯の形は少し異なっており、それぞれ原作に忠実に再現しています。
少し失敗だった点として、アカデミーの外観を優先するあまり校舎の舗装されているところを完全にタイル張りにしてしまったため、生徒やポケモンたちを配置する際にポッチで固定できなくなってしまったことが挙げられます。
仕方のないことではありますが、タイル張りにはそういった罠があることに注意すべきだと感じられました。
また今回舗装するために使用した1x1 tileの総数はなんと約1万9千ピース!
アカデミーを構成する総パーツ数がおよそ9万ピースなので、大体2割をこのパーツが占めていて恐ろしい。
これらを全てランダムに配置していく作業は大変でした。
ちなみに、使用数第一位のパーツはもちろん先述の1x1 tileですが、第二位は1x2 tileで総数はおよそ4500ピースでした。
ジップの法則(
wikipedia)が成立しているような、いないような。
2. 6方向に突き出た校舎(担当:V.14, mizutaro, えcぃpせ)
こちらの校舎ももちろん分割することが可能となっております。
校舎全体に関して、斜めに突き出ている校舎x4、正面に突き出ている側の校舎上に乗っているツリーハウスx1・天文台x1、左右に伸びているやや長い校舎x2、校舎同士を繋ぐ円柱状の尖塔x4、中央の校舎x1、中央校舎上の大きなモンスターボール型のオブジェx1に大きく分けることができます。
特に校舎同士を繋ぐ円柱状の尖塔については、上部の主にdark tanのパーツで構成されている円錐部分と下部の主にmedium nougatのパーツで構成されている円柱部分の二つへ更に分けることができます。
またモンスターボール型オブジェの上にある円錐は、先述の校舎同士を繋ぐ塔の先端部分と構造がほぼ一致しており、これもモンスターボールから取り外すことができます。
ここのセクションでは主に斜めに突き出ている校舎と左右に伸びている校舎について解説します。
中央の校舎についてはセクション5を、円柱状の尖塔についてはセクション7をそれぞれご覧ください。
まず斜めに突き出ている校舎について、外見からの印象ではパッと見、同じ構造のものをただ四つ配置しているだけのように思われるかもしれませんが、実際にはかなりの相違点があります。
例えば校舎側面に配置されている窓の数について、正面から見れば全ての面に窓が3行x3列の繰り返しで配置されているように見えますが、実は裏側から見ると窓が3行x2列の面があったりそもそも窓が存在しない面があったりと、一概に単純な繰り返しではないことがわかります。
また面同士を繋ぐ柱についても、花壇が二段に配置されているものや下部の一段にしか配置されていないものなど、それぞれの位置によって異なる配置がなされています。
こういったディテールを忠実に再現するにあたり、「株式会社ポケモン」さんには豊富なゲーム内資料を提供していただき、丁寧なご監修をいただきました。ここで略儀ながら改めて感謝申し上げます。
同様に左右に伸びている校舎についても、細部のディテールに注目しつつ設計されています。
斜めに突き出ている校舎との大きな違いは、中間に大きな出窓が設置されていることです。これも表と裏でディティールの違いがあり、細部まで注意しながら設計されています。
特に出窓が微妙な角度で傾斜しつつ突き出ている構造と、出窓に付随する窓枠の表現の両立には苦労しましたが、最終的には納得のいく形で再現することができました。
一方、今回の作品は鑑賞用というだけでなく、分割して運搬にも耐えうるような設計にする必要がありました。そのため、ただディテールにこだわるだけでなく、内部の構造もしっかりと設計することが求められました。
ただ頑丈なだけではなく、持ち運びしやすい軽量さも求められたため、内部の構造にはtechnic系のパーツを多用しております。
また内部構造も同じものをただ同様に組み込んでいるわけではありません。
例えば正面に突き出ている側の校舎上に載っているツリーハウスや天文台を支えるための柱が校舎まで貫通する構造になっており、これを受けるための内部構造を考える必要があります。
また先述した通り、校舎の側面に配置されている窓の数はそれぞれ異なっているわけですが、それに付随して壁の裏側の構造が異なっています。
これらの違いを内部構造で吸収しつつ持ち運びに耐えうる堅牢性を保つ必要があり、その調整には苦労しました。
以上のことから校舎の構造はその外見から受ける印象よりもかなり複雑で、設計にも組み立てにもかなりの労力を要しました。
特に組み立て時には、一部の間違いに気づかずそのまま組み立てを進めて後から強固な構造を分解する羽目になったりと、普段体験することのない経験をして非常に大変でした。
ですがその分、完成した時の達成感はかなりのもので、運搬する際にもしっかりと構造を保っていることを確認できた時は、本当に嬉しかったです。
3. ツリーハウス(担当:とふゆ, mizutaro, えcぃpせ)
こちらの構造については、木が先端についた小屋と小屋を乗せるための土台から校舎へと繋がる渡り廊下までにそれぞれ分離することができます。
校舎へとつながる渡り廊下に施されている意匠は天文台へとつながる渡り廊下のものと統一されており、主にアーチブロックとその下を沿うように配置された1x2 ラウンドプレートで構成されています。
また渡り廊下の先と各校舎の繋ぎ目となる円柱状の塔との繋がりも、違和感のないように注意して設計されております。
木が先端についた小屋は正六角柱となるように壁面が固定されており、内部には120度間隔で等方向にaxleの軸が伸びているようなパーツ(57585)を使用しています。
この構造物はかなり細い柱の上に成り立っているので、内部をできる限り軽量化することで多少の揺れには耐えることができるようになっています。
一方で小屋を乗せるための土台は、少々意匠をこだわりすぎたために重たくなってしまい、結局はやや不安定な構造になってしまったことが悔しいポイントです。
そのため、この部位は組み立てにおいてやや神経を使わされる場所となってしまいました。
4. 天文台(担当:たくあん, mizutaro)
こちらの構造についても、先述のツリーハウスのように天文台本体と渡り廊下にそれぞれ分離することができます。
また天文台の土台以下はやや特殊な形状をしており、校舎側から直接土台を支えるため円柱状の柱が6本生えているところが特徴です。
天文台は複雑な多面体構造をしていますが、当時そこそこ新しめのパーツだった直角三角形の4x2 wedge plate(65426, 65429)を多用することで、かなり上手に表現されているかと思います。
一方この表面を維持するために内部はやや限界な接続がなされており、持ち運びするとこれらの一部が剥がれてしまうのですが、これについては毎回設計者が頑張って直しています。
また土台の外周にはmetallic silverのtileがあしらわれており、全体的に引き締まったフォルムに仕上がっていると思います。
5. 中央の校舎(担当:三鷹の民, V.14)
外観からは全く分かりませんが、この校舎については内部にtechnicによる構造がしっかりと組み込まれており、軽量性と堅牢性を兼ね備えている持ち運びしやすさNo.1の構造を誇っています。
またセクション7にて後述する尖塔の芯となっている32L axleが、校舎内部のtechnic構造から生えているL字型のlift armを通るような構造となっているため、展示される際に尖塔が倒れてしまわないようになっています。
また上部にはかなりの重量のモンスターボール型オブジェが鎮座するため、これを支えられるような構造であることも求められます。
こういった点から、中央の校舎はただ自立するだけではなく、他の構造物を支えるという役割も担っているため、結構重要な構造物であることがわかります。
構造の堅牢性を維持しつつ、建物の正面にあたる部分であることからその見栄えも重視しました。
横組みで原作の意匠を汲み取りつつ表現した扉や、その上部に置かれた小さいながらもできる限り原作のイメージに近づけたアカデミーの校章、ガラス張りの表面に存在するスポークの表現などをご覧いただけると、弊部のこだわりが感じられると思います。
6. モンスターボール型のオブジェ(担当:V.14)
弊部お家芸(?)の積分球体を作成する技術がふんだんに活用されている構造物です。
原作では透明感のある色が用いられていますが、レゴで使用できるクリア系のパーツ種類が少なすぎることから、今回は泣く泣くdark purpleとwhiteの組み合わせに近似されました。
もしアカデミーをもう少し小さいサイズで設計していれば、87375を用いることで透明感を表現できた可能性もあったのですが、これはまた別のお話ということで。
内部にはtechnicによる枠組みが用いられており、かなり堅牢な構造となっています。
展示や持ち運び時には非常に有り難かったのですが、組み立て時にはこれが逆に仇となったこともありました。
組み立て最後にプレートの面を貼り合わせるところで、端の構造が欠けて一部球体内に閉じ込められてしまった時に、堅牢な構造を頑張って分解して欠けたパーツを摘出したのちに再度組み立てる必要があったため、そういった点で地味に手間取らされました。
最終的に完成した球体はそこそこ重たく、中央校舎の上に載せた際に校舎が潰れてしまわないかが心配でしたが、結果杞憂に終わりました。
また手に持ってみると意外にプレートの角が存在を主張して、手にグサグサと突き刺さり結構痛かったりしました。
7. 尖塔(各校舎の繋ぎ目)(担当:あらいぐま, V.14, えcぃpせ)
一見下はただの円柱、上はただの円錐ですが、構造はかなり複雑です。
実際断面を円に近づけるためcurve系のパーツをできる限り使用したいところではあったのですが、原作に存在する様々な形状の窓であったり柱であったりを表現するため、結果的に表面の大部分がtileやplate、そしてそれらを内部から支えるtechnicの合わせ技で成り立っています。
まず下部の円柱について、正面から見える円柱は茶色の窓枠が特徴的なユニットとやや太めの灰色の中間層、窓の代わりにレンガが表面に現れているユニット、細長い窓と細長い柱が交互に並んでいるユニットで構成されています。
また裏から見える円柱は正面から見える円柱の構成とほぼ同じですが、茶色の窓枠が特徴的なユニットの代わりにレンガが表面に現れているユニットが用いられています。
これらの円柱には芯として内部に32L axleが通っており、持ち運びや多少の揺れに耐えることができる構造となっています。
特に設計で苦労した点は細長い窓と細長い柱が交互に並んでいるユニットで、内部に57585や27940などを用いて8方向にポッチを出して原作と同じ並びとなるように窓や柱を細かく配置しています。
この構造を直径8ポッチ幅の円柱に収めるためブロックの構造が入り組んでおり、組み立てにおいても多少苦労しました。
次に上部の円錐のdark tan部分について、これは八角錐に近似されており、内部に75937を用いてそれぞれの壁面をclipで留めることによって構造が成り立っています。
円錐下部の膨らんでいる壁面に関してはそこそこ強度のある構造をしているのですが、上に窄まっていく壁面に関しては一ポッチ接続が多用されておりやや限界な構造をしています。
そのため持ち運びのたび、この壁面に関しては形が崩壊してしまい、都度パズルを組み上げる必要が生じている点が悔しいところです。
しかし原作を忠実に再現するためにはやや致し方なく、この点に関しては持ち運びしやすさよりも外見を優先した結果と言えます。
またdark tanの構造の更に上に載っているlight bluish grayの円錐についてはそこそこ剛性が高く、持ち運びしやすさと外見の良さを両立できていると考えられます。
こちらの円錐全体についても内部にaxleが通っており、これが全体の芯として機能し、かつ下部の円柱とうまく接合するようになっています。
以上がアカデミー全体の設計の説明となります。
設計に約3ヶ月と組み立てに一週間という、この規模の作品としてはかなりドタバタしたスケジュールとなってしまいましたが、
レゴで再現するにあたってのご監修部分のすり合わせや急な設計の変更への対応など、さまざまなご協議を「株式会社ポケモン」さんとさせていただきました。
何かと至らぬ点が多かったかと存じますが、ご丁寧に対応いただき誠にありがとうございました。
この場をお借りして改めて御礼を申し上げます。
またレゴで再現されたポケモンたちの解説については、数も多いです(し、語りたいポイントも沢山あると思います)ので、別の記事にてさせていただこうと思います。
大変長い記事となってしまいましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。