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『教養としての「死」を考える』 鷲田清一

2006年12月07日 | 新書教養

 

「教養としての死を考える(鷲田清一)」.jpg

 
キリスト教は自殺を禁じています。神から授かった命をないがしろにするのは人間の傲慢だと考えるからです。東洋でも 「身体八腑、これを父母に受く。あえて毀傷せざるは、これ孝のはじめなり」と言います。

どちらも自殺は悪であると教えるのです。そして、誰から授かったかという点で違いがありますが、共通するのは、“自分の体も自分のものではない授かりもの”、すなわち命は自分ひとりのものではない、私だけの所有物ではないと教えていた点だと筆者は指摘します。


ところが、近代の個人主義、自由主義、財産権の確立にともなって、お金や行動はもちろん、体だって自分の所有物だから、自分の好きにして良いという感覚が生まれてきたと…。


以前、ご紹介した 『オレ様化する子どもたち(諏訪哲二)』 にも、大人には理解できない、子どものキレる原因は、自分がしたことと叱られることが、経済的に“等価交換”ではない、と主張しているのだという、興味深い知見、指摘があります。


宮台真司氏や、先日サンデープロジェクトに出ていた、よのなか科の授業を展開されている藤原和博氏(和田中学、校長)、は援助交際を否定しません。また、福田和也氏は 『魂の昭和史』 の中で、反論できないと告白しています。平和な状況を作り出した、先人たちへ思いをはせてほしいと述べるのみです。


人に迷惑をかけなければ何をしても良いじゃないか” という、いわゆる他者危害原則という考えは、確かに反論が難しいですね。しかし、そもそも自分の体や命が、自分一人の物ではないのだという概念があれば、出てこない主張ということになります。

高度に効率化を目指している現代社会では、都会にいればお百姓さんの姿は見えませんし、漁師にお礼を言うこともなく魚も食べられます。私の知り合いの幼稚園に通う子は、友だちの妹(もちろん赤ちゃん) を気に入ってしまい、「ぼくも妹を買いに行きたい」 と言ったそうです。


本書では、人間の根本である生と死、食や排泄までも見えないところでなされていると指摘します。妊婦がうめき、赤ん坊が血や体液にまみれて誕生して来る瞬間を男性はほとんど見ません。 たいていの死は病院で専門家の手に委ねられ、家族や親戚でさえ、処置されて、着替えをし、きれいになった死体に面会するだけ。

牛を殺し、鶏を絞めて皮をはがし命が奪われている瞬間 (『いのちの食べかた(森達也)』に詳しいです) も知りません。排泄物は下水道の完備によって知らない間に処理されます。街に人が倒れていることも、排泄物が放置されていることもないと。現実に放置された死の状況は、『遺品整理屋は見た! (吉田太一)』 を見ても悲惨です。なるべく見たくないものでしょう。


すべてが便利なシステムやお金で処理されている現状では、命や体すらその一部になると感じるのは当然かもしれません。臓器移植もそういう流れでとらえられますね。

逆に言えば、せっせと働くのは、稼ぐため、自分や家族を食わせるためですが、それが他の人の役に立っているのも見えないことになりますから、労働の尊さを感じないはずですよね。

SMAPの “世界に一つだけの花”の、only one という考え方や、文部科学省の政策でも、自分探しや個性尊重が流行りましたが、自分の中に自分を探しても何も見つからない(『4コマ哲学教室(南部ヤスヒロ(文) 相原コージ(漫画))』を参考)。

常に他者があって自分の存在があるのが人間なのだから、他者の死は自分の死であって、自分の死も自分だけのものではないということでしょうか。


昔からの鷲田ファンにとっては、あまりの読みやすさに驚き、中には嫌悪する向きもあるようですが、私は本書を多くの人に読んでもらいたいと思います。氏の著作は大学入試でもよく出題されますし、ご紹介した以外にも、さまざまな知見がわかりやすく書かれています。


 


P.S. そもそも日本の哲学は難しい言葉が多いので、本書のような口述筆記で、やさしい言葉に言い換えたものは大賛成です。実際に、専門家の日本語訳より、英語で原書を読んだ方がわかりやすいことがよくありますね。



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教養としての「死」を考える

洋泉社

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
親より先に逝くは不幸者 (キャンキャン)
2006-12-07 16:33:16
そう言われて育ちました。
小さいときからカラダが弱く、病気ばかりしておりましたので。
今だに74歳と72歳の健康な両親から「親より…」と言われて「こりゃ、がんばらねば!」と気合を入れております。
ましてや、自殺など。
慈しんで育ててくれた親の愛に応えなくてはなりません。
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御礼 (kazu4502)
2006-12-07 19:48:04
いつもお世話様です。
先般、当ブログをリンクいただき、ありがとうございました、まずはお礼を。
おかげさまで現在、政治ブログの18位まで上がってきました、ついに17位の山本一太ブログの姿が見えてきましたが面白いものです、気がついたのでしょうか山本一太ブログから訪問してくれています。急に上がってきたので本人もびっくりしたのではないでしょうか、以前山本一太の批判?を書きましたから多分本人は見たと思います(苦笑)一度ほめる記事を書こうと思います。今後ともよろしくお願いいたします。仕事がんばってください。
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NEWS* (ysbee)
2006-12-08 09:28:18
VIVAさん
ものすごく読みたい本の連続で、お手上げです。うれしいひめい!
ところがキーボードがトラぶってテキストがうてないので、1文字ずつコピペしてコメントしてます。ほとんど死んでます。m((v_v))m

NEWS*** 予告してから半年になる新しいページ、トラベローグ『楽園紀行』のイタリー編がスタートしました。今日のURLはそのdepartureのページです。
魔法のトランクをクリックしてぽちっと「ココロの楽園」散策を!((^_^))V
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キャンキャンさん (VIVA)
2006-12-08 10:12:05
おはようございます。本当におっしゃるとおりで、キャンキャンさんのご両親と同年代のうちの両親もそう信じて疑っておりません。私にはまだ祖母もおりまして、年齢的にも死を意識し、時々話題にもなりますが、その順番は違ってはいけないと…。

それはその通りですね。

寒くなりましたね。キャンキャンさんも、気合を入れて(笑)ご自愛下さい。
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kazuさん (VIVA)
2006-12-08 10:19:40
おはようございます。kazuさんよくTBしていただきました。あの教師だけは許せないですね。異常ですね、あの学校という組織は。kazuさんが学校にも仕事でかかわりがあって、PTA会長もされていたから、詳しい記事が書けるのですね。

見ましたよ。ランキング、そうですか目の前は山本くんですか。復党反対を声高に叫んでいますね。遠慮なく抜いてください。ボクはおたまさん一人に手を焼いておりますが、kazuさんところの山はとてつもなく高いですね~。

こちらの励みにもなります。頑張ってどんどんのぼって下さいね。
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ysbeeさん (VIVA)
2006-12-08 10:23:34
いや~、そうですか。コピペのコメントご苦労さま、心より感謝申し上げます。

この本は勉強になりました。

すぐにまたおじゃましますよ!

そういえば、アメリカのイラク政策変わりそうな気配ですね。どうなることやら…。
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