「ややこしい、物語になりそうだね、閣下。」
「クルナ、じゃないな、クルトか?」
「そう、クルトの方。
クルナ、エリィと話しているうちに、寝てしまってね。
中身だけ、俺だよ。」
「・・・何処まで見えている。」
「多分、俺は・・・ううん、《歌乙女》は何処までも、見えていると思う。
クルナは見えないのにね。」
「・・・・・・」
「ねぇ、ストラウス。
お前に、娘ができたら、愛してあげてね。
後、いつか、俺を殺してほしいな、結局、こういう形の長生きはイレギュラーなんだし。」
「前者はともかく、後者は聞けないな。」
「むう、ストラウスのイケズ。」
何でも無い他愛の無いお話。
まだ、ブリジットが生まれたばかりの頃のお話。
或いは、ストラウスにクルト達が殺される数百年前のお話。
En.4 天蓋に秘されし必然なる悲劇
私が、ブリジットとレティシアに追いつくと。
案の定、レティシアが、或る意味で、正しい事を言っていた。
しかし、ブリジットの睨みで、レティシアは、へたり込んでしまう。
・・・・ま、当たり前だろう、ブリジットが本気で睨むと、私でも、裸足で逃げ出したい。
「確かに、千年前、ほとんどの同族が、赤バラ王を先に裏切った。
だが、ストラウスは、最後の最後、正しい月に背いた。
・・・・自ら信ずるべき『義』を捨てたのだ。」
それは、違うよ、ブリジット。
違う、彼は、義を捨ててもいないし、月に背いてもいない。
ああ、私が、もう少し早く気付いていれば。
それでも、もう遅過ぎた。
遅過ぎるか、全てが遅過ぎる。
「愛するアーデルハイトだと?
ふざけるな。
ストラウスはこれっぽっちも、アーデルハイトを愛してはないぞ。」
それも、真実。
でも、少なくとも、恋愛ではない愛情はあったのは、ブリジットも忘れる事が出来ないだろうに。
思い出す。
今も、流布する夜の国崩壊の御伽噺を。
遠い昔、夜の民に夜国があった頃。
今は、遠き昔々の事だ。
ヴァンパイア王・赤バラは、星をも砕かんと言うあまりにも恐ろしいほどの強さから、人間のみならず、同族からも強く強く恐れられた。
ついには、愛する女王を人質に取られ、処刑されようとした。
しかし、それに狂乱した女王は、眠りし魔力を暴走させ、世界を崩壊の危機に追い込んだ。
人々は、辛うじて、女王を世界の何処かに封印したものの、王は怒り狂った。
そうして、自らの夜の国を滅ぼして、女王を取り戻すべく、封印を巡って、同族や人間との終わりが見えぬ戦いに身を投じた。
最後のヴァンパイア王・ローズレッド=ストラウスは、守るべき国も、愛するべく民も、捨てて、封印を探す放浪を、千年以上、千年以上も続けている――――――――。
ただ、愛するアーデルハイトを取り戻す為に。
事実ではあるけれどね、真実ではないが。
信じられない、いや、信じたくないとでもいうように、レティシアは、言葉を叩き付け返す。
「そ、そっちこそ、ふざけるな。
ストラウスが、アーデルハイト様を愛していないわけがないだろ!!」
更に、良い募ろうとしたレティシアを私は、口を塞いで押しとどめる。
一応、両方の為にだ。
ブリジットにとっては、或る意味で辛い言葉だろうから。
レティシアは、こういう交渉の有利に進めるには、必然の事を思い出させる為に。
「・・・・・・ToBeCool?
レティシアちゃん、落ち着きな、ひとつづつ、丁寧に。
それが、こういう会話の基本。
君も、陛下から聞いているのだろう。」
「くすくす、そうだねぇ、エリィ。
年若いダンピールちゃん、好意が合っても、ラブとは限らないんだよ、真実はね。」
「誰だ!!」
「今晩は、良い月だね。
ブリジット、エリィ。」
「まさか・・・」
「クルトか?」
私の言葉を継ぐように、或いは茶化すように一人の青年の言葉が入って来た。
声を辿り、上を向くと、街灯に腰掛けている青年が一人。
私とブリジットの誰何に、応と答えるように音も無く、三人の傍に降りる。
街灯の明かりを受け煌めく鮮やかな銀髪に、紫ダイヤもかくやと言うような笑顔で細められた瞳。
長身ですらりとしたその身体に合わせるように、シンプルなブラックスーツに、深紅のアスコットタイの青年だ。
八百年前に死んだ時と変わらず、変われず、そのままだ。
クルト=エンディアは、壊れた砂時計のダムピールにしても、更に外見が変わらない。
「そう、クルト=エンディアだよ。
ちゃんと、クルナは死んでいるから安心して。」
「安心してって・・・あの子は承知しているの?」
「とりあえずは、依頼があるってのも抜きにしてもね。
んで、山猫ちゃん、もっと言いたいことあるんじゃない?」
誤摩化すように、クルトはレティシアに水を向けた。
まったく、変わらない、自分の真意は決して明かさない。
明かしても、それは、クルナのモノ。
クルトの発言を受け、思い出したようにじたばたしつつも、やや気分を落ち着けて、先ほど続けようとした言葉をレティシアは続ける。
彼女としても、自分の母親の悲劇も、赤バラが原因というので、恨みはしたのだろうが。
それが、『愛』という理由ならと、納得させて来た部分があるのだろう。
「愛していないなら、なんで、千年前に大人しく掴まって、殺されようとしたんだ!!
立った一人、全部を敵に回してまで、女王の封印を解こうとしているの?
それとも、何!!?
・・・・・伝えられていることは、全て嘘だって言うのか!!!!?」
それでも、夜闇を切り裂くように夜の港公園に、レティの切なる声が、響く。
嘘、と言うわけでもない。
真実、と言うわけでもない。
私は、そっと、ブリジットとレティシアの間に立つ。
ちょうど、傍らにクルトが来る形になった。
「・・・・・表面的には、伝承に嘘は無い。」
「―――――!?」
「陛下は、確かに、その御力故に、同族にすら恐れられ、処刑されようとした。」
「姫女王は人質にされた。」
「ストラウスは、大人しく、処刑台に上った。」
「そして、国も民も捨てて、封印を解こうとした。」
「・・・それは残らず、真実の一端だよ。
だよね、ブリジット。」
ブリジットの言葉をとるように、私は、半ば唄うようにそう言った。
打ち合わせをしたわけじゃないのにクルトがちゃちゃのように言葉を挟んでくる。
知ってるんだね、真実を。
ともかく、それは少なくとも、嘘ではないのだ。
そう、嘘では。
私の言葉を継いで、ブリジットは、こう言う。
誰にも、顔を見せないように、海側の仕切りに手をそえて。
肩が震えていたから、泣けるのならば、泣きたかったのかもしれない。
「・・・・・誰も、嘘を伝えようとはしていない。
当時、ストラウスとアーデルハイトは、相愛だと信じられていた。
起こった事をつなげて解釈をすれば、伝承のようになって当然だ。」
ブリジットは、紅い薔薇を模したイヤリングを耳から外し、更に独白する。
どうして、そうなってしまうんだろうね。
嘘を伝えてないのに、嘘に塗れてしまうなんて。
「私とエレノアの二人が、真実を知る立場にいた。
後は、せいぜい、其処の男とリトぐらいか、今生きている連中ではな。
ストラウスが、アーデルハイトを愛していない事を。
何が、あの人に王である事を捨てさせたのか。
何故、今、戦いを選んでいるのか。」
「陛下の、闘いは、不毛だよ。
封印を砕き、アーデルハイトを殺せたとしても、陛下が失った星はもう戻らない。」
「まぁ、戻らないと解っていても、それでもそれが必要なんだよ、陛下には。」
ブリジットが語ることは、少なくとも、嘘ではない。
でも、奥に幾つかの秘密がある。
クルトの言葉は端的にそれに触れていた。
隠されたそれを私は語らない。
語れば、ストラウスの決意を閉じる事になるから。
黙っていれば、少なくとも、ブリジットは戦えるから。
「どういう事です?」
と、そんな時、横合いから、花雪の声がかかる。
その後方に、蓮火も居た。
クルトが誰か、誰何したそうであるが、それよりも聞き捨てならない事があったのだろう。
「お話中、すいません。
ヴァンパイア王が、女王を愛していないと聞こえましたが?」
「赤バラは、女王など愛していない。
それでも、ヤツが女王復活を望み、生き永らえようとするならば、我らはヤツを殺さねばならない。
状況に変わりはあるまい。
それとも、そちらには、そうだと困る理由があるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それが、このお嬢さん側にはあるんだよね。」
花雪に歩み寄りながら、ブリジットはそう言う。
沈黙を持って困惑を表す花雪に対して、クルトはからかうように、付け加えた。
ストラウスは、生永らえようとしてはいないけど、生き永らえなくてならない立場なのだ。
ま、ここでいうことではないね。
クルトもそれが解っているのか、それ以上は何も言わない。
それに、実際、花雪・・・正確には、GM御前サイドは、そうでなくては困る状況なのには違いないだろう。
私とて、裏稼業でなかったら、絶対に、信じれない事だった。
というか、あれを信じたいと思う夜の民はおるまいよ。
「お前も、赤バラの想いがどこにあろうと関係あるまい。
奴が、お前の女の殺したと言うだけで、戦う理由は揺らぎはしないだろう?」
蓮火にそう言った、ブリジット。
確かに、それくらいで揺らぎはしないだろう。
私が、五十年前のあの時に聞いた嘆きは、聞いたこっちも一緒に哀しんでしまえたら良いと思ってしまうぐらいには、酷かった。
剣の腕は、憎しみで少し曇っちゃった感はあるけれど。
しかし、蓮火が煙草に火をつけながら、次にいった言葉は、真面目に、あたしは硬直した。
というか,蓮火、お前、マゾか、と本気で突っ込んでやろうかと思うぐらいだった。
「・・・・・・笑える噂を聞いた。
かつて、お前は赤バラの娘同然に育てられたと。
ついでに、奴の恋人だった時もあると聞いたが。」
「!!」
それに、一応、敵味方はっきりしてない、レティシアと花雪の前で、そんな事普通言うかな?
案の定、二人は、驚きまくってるし。
クルトは知っていたようで、視線だけで、『この兄ちゃん馬鹿?』と言ってくる。
うんん、解っている、蓮火は馬鹿だ。
「一体なんだ?
お前は何を黙っている?」
「・・・・・・私が、赤バラに育てられたのは事実だ。
十歳の時に、赤バラに引き取られ、夜の国が、滅亡するその時まで・・・・・。」
蓮火の言葉の返答と言うよりは、独白に近い語調で、ブリジットは語る。
確かに、そうだった。
ブリジットは、此処数百年愛用していた、赤薔薇のイヤリングをするりと手から滑らせ、海に流した。
「私は、赤バラの側に在った。
ただし、恋人だった時間は、一秒とて無い。
私は、あの男にとって、「可愛い娘」でしかなかった。
・・・・・・・・真実が、知りたければ、赤バラに訊け。」
さて、荒れそうだ。
それでも、ストラウスは、決して、「真実」は話さないのだろうけど。
でも、話すのも、或る意味での「真実」だ。
少なくとも、客観的な意味での、今知る人は知る「真実」と言う意味で。
だけど、本当に合った認識されない事実と言う意味での「真実」はまだ、天蓋の中だ。
「・・・『そして、憎悪の黒月を見るといい』か。
いい具合に、凝ってるねぇ。」
その後の車中。
私は、そうダムピールでも聞こえるか聞こえない程度で呟いた。
でもね、ブリジット、あの人は、誰も、そう、誰も、決して憎んでいないんだよ?
むしろ、己が生み出してしまった自分を憎んでいるだけで。
御前が、花雪に呼びかけているが、先ほどの言葉の事を考えていたのか、上の空の花雪。
レティシアも、「どうしていいのか、解らない」というように、俯いたままだ。
何故か、着いて来たクルトはにこにこと真意は見せない。
「・・・・・雪、花雪。
どうした?」
「あ・・・・・いえ・・・・・・対した事では。」
何処かそうなのだろう。
少なくとも、「陛下が、アーデルハイトを愛していない」と言うのが本当なら、そっちの狙いは、ご破算だろうに。
そうこうするうちに、ストラウスがいる日本家屋に戻る。
考えてみれば、御前の仕事を受けてから、初めて会うんだよね。
一応、自業自得と言えば、そうなんだけど。
怒らないのが解ってても、気まずいのに変わりないんだし。
レティシアについて、ストラウスの処に行くと、彼はケーキを食べていた。
・・・ちょっと羨ましいのかもしれない。
三段で、間に生クリームとイチゴのスライスを挟み、生クリームで飾った上に鎮座するのは、ルビーのようなイチゴ。
うん、美味しそう。
ケーキはシンプルなのが、美味い。
色々凝るのも楽しいけれど、結局シンプルなそれに戻ってくるんだよね
・・・って、そう現実逃避してる場合じゃなくて。
レティシアが、言いあぐねている。
私が、ストラウスに挨拶をしても、そのままだ。
クルトが形だけ、挨拶をする。
数百年前に殺し殺された間柄なのににこやかすぎるぐらいににこやかに。
そこに、花雪が、言葉をこう挟んだ。
「貴方が、女王アーデルハイトを愛していないというのは、本当ですか?」
しばらく、沈黙が流れる。
同時に、風に葉が、踊る。
少なくとも、ストラウスとしても、言いにくい事ではあるのだ。
「----------私が、王になる前、夜の国の大将軍であった頃。
私は一つの星を失った。
ステラと言う、人間の女を。
もしも、後一月でも、生きていれば、彼女は私の子を産んでいた。
私が、すべてを掛けて愛したのは、アーデルハイトではない、ステラただ一人だ。」
ケーキを食べ進めながら、ストラウスは、話を進める。
ま、事実だけなら、そうだろうさ。
嘘ではないけれど、真実・・・ありのままというのなら、そうではないものだ。
少なくとも、足りないピースを繋ぎ合わせたという意味合いでは、歪な事実。
「人間の女性?」
「黒鳥(ブラックスワン)五十代目、比良坂花雪、其処で一端ストップ。
ストラウス、いえ、陛下。
私の口から、幾つか良いですか?」
「オレも少しだけね。」
「かまわない。」
「ありがとうございます。」
視線だけで、いつか、約定したようにしか話さないと。
幾つかの真実を隠した真実までなら、良いとストラウスは、許可したのだ。
不信に思われようと、情報を明かし過ぎれば、殺されるだろう。
陛下は良くも悪くも、そう言う方だ。
しかし、クルト、何処まで知っている。
いや、何処まであの子が知っている?
「赤バラ王が、本当に愛したのは、本当に、混じりっけ無しに、人間の娘。」
「当時、18歳になったばかりの村娘で、名前をステラ=ヘイゼルバーグと言う本当に、何処にでも居る子だね。」
「私の義理の親戚でもある。」
正確に言えば、その時のヘイゼルバーグ家の当主がその座を退けば、私が、その座に付くはずだった。
実務に耐えれる年齢を越え始めていたのに、その後を継ぐ純血が居ないせいで、とある術を使って代行することになるはずだったんだ、
もう、そうなることは無い。
そうなることは無かった義妹になるはずだったステラ。
でも、本当に、外見ではなく、心が美しい娘だった。
「何事もなければ、ストラウスの子ども生んでいた。」
「だけど、彼女は殺された。
万が一、高い生命力を持つ腹の子どもまで、助からないように、引き裂かれていた。」
陛下、いえ、ストラウス。
心配しなくて良いわ。
私が、私の思考が、行き着いた真実を決して語らない。
クルトも、どうであれ、あの真実に行き着いたのだろうから、話さないだろう。
あの真実が、今も、一族を苛んでいるのだから、話さないわ。
それが、私の矜持だからね。
或る意味で、それが傍観者が傍観者たる矜持だから。
「当時、政治的、その他の理由で、犯人の捜索は、断念された。
それから、十五年後、赤バラ王は、敵対国の人間のみならず、同族からも恐れられ、処刑されようとした。」
「元老会の化石ジジイに寄って、処刑を策謀された。
だけどさ、最悪に最低な事に、その時になって、ステラを殺した犯人が分かったわけだ。」
今のところ、ストラウスは、静かに聞いている。
聞きながら、ケーキを食べ進めている。
・・・ここまでは、許容範囲内らしい。
更に進め・・・正確には,一番の核心を口にした。
「殺したのは、女王アーデルハイトだった。
赤バラを愛するあまり、嫉妬故に、ステラを殺した、と言う事らしい。」
「そうと知った陛下はさ、当然復讐に走る。
一回は諦めたはずの復讐だもん、それを最後とは言え叶えられそうなら、ね?
しかし、アーデルハイトも、土壇場で、魔力に目覚めてしまった。」
「あの子が、魔力を暴走させたのは、伝承にあるように、赤バラの危機に狂乱してではなく。
赤バラに、殺されるのに怯えたから。」
もちろん、真実は、違う。
何が、どうとは、今は言えないが。
それでも、あの時、アーデルハイトが、魔力を暴走させる直前まで、処刑場にいた私として、それは、確実に証明できる。
背景まで・・・・・・真実の奥の真実まで、情報を得たのは、事件後百年ぐらい立ってからだ。
黒鳥(ブラックスワン)が、三代目か四代目のときだ。
最終的な、結論を得たのは、黒鳥十七代目の時だった。
そのせいで、結果的にとは着くけれど、十七代目を殺してしまったような者だけれど。
「私が、封印を求めるのは、アーデルハイトを引きずり出し、その手で八つ裂きにする為だ。」
そこで、私から言葉を受け継いだストラウスが、言葉を切る、
当時、直後の出来事で、ブリジットは、確信的にストラウスに裏切られたと思ったらしい。
その場にいなかった私が、直接知る事は出来ない。
でも、その後の状況を考えるに、それは、あの出来事が無い限り難しい事柄だったらしい。
だから、余程の事だったのだろう。
しばらく、沈黙が落ちる。
風が、不意に強く流れ、木々を揺らす。
そして、黒い鳥が羽ばたいていった。
「ヴァンパイア王、貴方は・・・・・。
不毛な復讐の為に、全てを捨てたのですか?」
「あのね、ブラック・スワンのお嬢ちゃん。
その“不毛”な復讐を否定するってのは、飢え死にしそうな子からパンを奪うようなもんだよ?」
・・・・・・・・・・・「不毛」ね。
少なくとも、それで、ダムピール達は、まとまって来たんだよ?
それを、「不毛」の一言で、潰して欲しくないな。
本当は、言っても欲しくない。
多少は私を代弁するように、クルトはそう言う。
彼の言葉を無視して、花雪の言葉のみに、ストラウスは、無表情とも取れる表情で、こう返す。
「目的がどうであろうと、やる事は同じだ。
封印を探して、壊す。
邪魔する者は、倒す。
私とお前の関係も変わる事はあるまい?」
「いったい、千年前に、何があったんです?
貴方やエレノアさんは何を黙っているんです?」
花雪は、そう疑問をぶつけていく。
ま、当たり前だ。
それに、私が、ストラウスと口裏合わせ、幾つかを隠していることを察知したのは、流石だ。
流石は、黒鳥だ。
流石は、・・・だ。
さて、これ以上みていても仕方あるまい。
そう思った私は、この場を離れる。
千年前のあの後に、会得した空間転移の魔術を駆使して、ブリジットと蓮火の居場所を探す。
どうせ、一悶着あるんだろうけど。
どうでもいい、少なくとも,私には、ね。
本当に、どうでもいい。
花雪たちの目的が、「アーデルハイトとストラウス」の両方の力がいる事・・・・・・「ストラウス」にアーデルハイト」を「殺させない」ことも、どうでも良い。
結末は、結局結末にしか、行かないのだから。
だけど、私が転移しかけた時、何故か来るとの声だけが届いた。
「あの幼い少年兵の為にも未来だけを紡いでね、エリィ」
「陛下、もう、オレも時間無いし、最後に一個だけ。
八百年前に殺してくれたお礼にちゃんと、オレは最後まで見ているからね。」
「・・・貴方は誰です?」
「ストラウスに八百年前に殺されたダムピール。
今ここに関われるのは、或る意味で幽霊だからね。」
それだけ言うと、クルトは消える。
ストラウスからの返答も待たずに。
彼が名乗ったように、幽霊のように掻き消えた。
+後書き+
一応、改訂版六話あたりに正式初登場なはずだったんですが、こっちの方がキレイかな、ってのと、クルトの出せ出せコールに負けました。
後細かいところ、誤字脱字加筆修正。
あ、最後の幼い少年兵云々は、ガンダム00の刹那くんです。
いい加減進めなきゃ行けないシリーズの設定より。
あのシリーズ終了後の三年ぐらい後になります。
ともあれ、次の物語にて。