泣くってのは、弱み。
だけど、泣けないのは、何よりも辛いんだ。
オトコは、そう簡単に泣けないだろうけど。
同類、の前でぐらいは、泣いてくれよな。
HappyBirthday +それでも僕らは歩む・・・+ 後編
「僕は、あの研究所の前の・・・処置を受ける前の記憶がないんだ。」
散々泣いて、泣き疲れたようなハレルヤ/アレルヤは、ぼろぼろだった。
とにかく休ませた方が良いと判断しビアンカは、取り敢えず一番近かった自室へと彼を連れて行く。
どうせ、相室のネ-ヴェはいないし、イヴェ-ルも戻らないだろうから。
そして、眠るように促した。
でも、自分に縋り付くように離れない彼を引き剥がすことは出来なかった。
自分の膝を貸して、どうにかベッドに寝かせた。
そして、彼の髪を梳いていた時、2人が交互に、ポツリポツリと語り始めたのだ。
己の過去を、罪を。
少しだけ、夢織を通じて、或いは、≪神≫を通じて、ビアンカも知っていた。
「超兵を造り出す為に、身体を、脳を、全てを弄られて・・・」
≪そして、俺が生まれた≫
繰り返される実験と、研究者達から向けられる視線に耐えながらも、生きた。
無様であっても、自分たちは、生きたのだ。
辛くて苦しくて・・・・・・それでも、生きたかった。
・・・死にたくなんてなかった。
だけど―――。
「僕達は“失敗作”として…“処分”が決まったんだ」
・・・『処分』が決まった被験者/仲間/同類は、毒殺される。
それまでも、多くの被験者/仲間/同類がそうして居なくなるのを見てきたから、自分達の末路も容易に想像出来た。
出来ないはずもなかった。
「だから、仲間達と一緒に逃げ出したんだ。」
≪お前ら、他の何人かを見捨てててな。≫
そうして、施設を抜け出して、輸送船を奪い、コロニーを脱出した。
追手に怯えていても、宇宙に出た自分たち、これで自由なんだって抱き付き合った。
だけど―――。
「船に積んであった水や食料・・・そして何より酸素が・・・足りなくなっていったんだ」
もともと行くあてなど無い黄泉路にも似た旅路。
補給を受けることも出来ない彼らが、すぐに直面する問題だった。
確実に突きゆく酸素、底をついた食料・・・徐々に、でも確実に死の恐怖が、忍び寄って来ていた。
生き残る可能性があるとすれば、たった一つしかなかった。
≪・・・俺は・・・隠していた銃で、仲間を殺した・・・生き残る為だけに・・・≫
一緒に逃げて来た仲間達を、次々に殺した。
泣き叫んで命乞いをされても、容赦なく。
≪・・・死にたく、無かっただけなんだ・・・。≫
アレルヤに身体の主導権を返された時、身体は返り血に染まっていて。
己が作り出した状況に、言葉も無くへたり込んだ。
何よりも、自らの犯した罪に、震えた。
その時の光景は、未だにアレルヤの心に疵になっている。
夢織との日々は、それを薄れさせさえすれ、無くすまでに至らず終った。
だから、その後、出会ったCBにスカウトされ、参加することを承諾した。
「正直、嬉しかったんだ・・・こんな僕でも、出来ることがあるってことがね。」
≪人殺し(こわす)ことしか出来ない俺でも、世界を帰られるかも知れねぇってことがな。≫
「・・・・・・」
2人の告白を、ビアンカは黙って聞いていた。
彼等の過去を聞かされても、驚きはしなかった。
知っていたから。
ネ-ヴェとして、金髪のブランカとして、黒髪のブランカとして、アリアとして、ドミニクとして、様々な立場から見ていたから。
そして、知っていた。
モレノの手伝いで、マイスタ-のカルテを見ていて気付いたのだ、アレルヤの身体が示す数値の異常さに。
そしてそれが何を意味するのかも、ビアンカは知っていた。
正確には、聖に聞いて知った。
その数値は、カナ-ドが居た世界で見た、強化人間の――情報屋の間ではブーステッドマン、エクスデットと呼ばれていた――資料と、酷似していたということ。
-『維持に、薬が必要の無い分、こっちの方が、技術としては上ね、皮肉だけれど。』
・・・そして、皮肉ながら、人革連が求める『超兵』の理想構造に彼が、一番近かった。
調べた。
あらゆる、とりえることができる手段を使って。
知った。
それを誰か――アレルヤ本人にも確かめることはしなかった、というより出来なかったが。
同時に、ビアンカは、この世界に酷く哀しさを覚えたのを覚えている。
「今日のミッションは、超人機関を撃ちに行ったんだ」
知っているだろうけど、とアレルヤは、前置きしてそういう。
先日の鹵獲作戦で出会った紅梅色のティエレンタオツ-に乗っていたのは、間違いなく自分の同類だった。
つまり、あの狂気の機関がまだ存在していて、自分と同じようなモルモットが増えつづけていることに、変り無い。
≪やるべきことは、一つ。俺が、俺達が断ち切らなきゃなんねェんだ。≫
もう、繰り返されないように。
もう、生まれないように。
もう、嘆かないように。
「だから撃った。・・・殺したんだ、大勢の子供達を・・・僕の、同朋を・・・この手でっ!」
彼等には、何の罪も無かったというのに。
生まれてきたことすら、罪であっても、それは罪ではないのだから。
撃つ直前から引き金を引く度に、「来ないで」「死にたくない」と最後まで、頭に響いていた。
≪俺のエゴで、引き金を引いた≫
「辛かった、撃ちたくなかった・・・でも、同時に少し安心したんだ」
子供達の命が消えていくと思うと同時に、自分の過去が消えていくような気がした。
あの灰色の過去が、無くなった気がして。
そう思ったアレルヤ達をビアンカ達は責めれない。
けっして、それで、その子ども達ガ死ななかったとしても。
「酷いことだね、ほんと・・・・・・許される筈、無いのにね・・・・・・」
≪ネ-ヴェが止めた時は、何故か、ほっとしちまった。≫
「・・・アレ、ハレ・・・・・・」
自嘲するように笑う2人に、ビアンカは静かに諭すかのように言葉を紡ぐ。
口調こそ、いつもの男性めいたそんなものだったが、雰囲気はあくまでも、優しく穏やかで。
怖い夢を見た子どもを宥める母親にも似ていた。
「あたしには、お前等を責めることも、許すこともしないさ・・・だけどな。」
-(あたし達にも、覚えが無いわけじゃない)
声無き声が伝えるそんな言葉。
そのまま、青紫の瞳が、金と銀の瞳を見据える。
決して、逸らさずに、だけれど、何処までも優しく。
「赦されない罪、償いきれない罪も、ねぇよ。
少なくとも、あたしは、『生きたい』ってキモチが罪な筈はねぇと思うからよ。」
「でも、僕はそんな人の命を奪った
今日だって、ネ-ヴェが居なかったら・・・」
≪いつか俺達も、その報いを受けるさ。≫
「あのな、馬鹿か、お前等。死んで詫びいれるって言うけどな、それが償い全部じゃねぇの。
今、この場で、お前等が死んでも何も変わらないぜ?
だけど、生きてさえいれば、ドンだけだって変えれるもんだぜ?」
かすかにでも、そう思ったからこそ、マイスタ-の道を選んだのだろう。
あのまま、裏町で、ノタレ死ぬことを選ぶこともできたはずだから。
「どんなに辛くても、生きろ。
どんなに苦しくても、生きて、生き抜いて、戦いつづけろ。
それも、償いだ。」
死は、全ての鎖から解放される、唯一無二の手段。
ある意味、一番楽な逃げ道。
だけれど、全ての停止だ。
それの手をとれば、それ以上の苦しみも無いけれど、喜びも無い。
「死ぬなんて、いつでも出来る。
なら、ちいとばかし、生きて戦ってみな。」
アレルヤとハレルヤは、熱くなる目頭を押さえた。
涙が溢れる。
「・・・厳しいなぁ・・・・・・」
厳しいが、何処までも優しい。
咎を背負い、生き続ける―――それは、何よりも、辛く苦しい
「・・・辛くて、苦しくて、どうしようもなくなったら・・・また、こうしていい?」
≪・・・また、泣いても良いか・・・?≫
また、甘えても良いだろうか。
女々しいかもしれなけれど、君の側で、泣いても。
それに、ビアンカは、溜息ひとつ、つきはしたがこう返す。
「・・・いいぜ、あたしも、寄っかかりたい時は寄りかかるからよ。」
「うん・・・」
≪いいぜ・・・≫
互いに支え合うことは、許されるだろう。
ある意味で、同胞同士だ、疵の舐め合いに近い。
だけれど、一人で生きていけるほど、人は強くは無い。
「ねぇ、ビアンカ・・・歌を、聞かせてくれないかい・・・?」
「は?」
≪俺達と、今日、奪うかもしれなかった命と、今まで、俺達が奪った命の為に。≫
今まで、奪った命が安らかであれるように、
そして、今日から大きく変わった同胞達の門出の為に。
「あたしの歌で、いいか?」
ネ-ヴェのような歌は、歌えないのに。
良くも悪くも、低い、ハスキ-ボイスだと言っても、かなり低い。
胸を潰して、男装するだけで、地声のままでも充分に男性で通るぐらいだ。
そりゃ、それなりに歌えはするけど。
「君の歌が、良いんだ」
ビアンカは一瞬、瞑目してから、静かに歌い始めた。
懐かしい歌だ。
あの≪ラクエン≫の日々の中で、橙色の髪の兄達が、怖い夢で飛び起きたビアンカ達に歌ってくれた。
もう遠い日々で、歌詞もうろ覚えだ。
「~♪木漏れ日に さえずる小鳥のように♪~」
低く優しい歌声が、部屋に響く。
少し照れているような響きが混じる。
「~♪ 呟きを描く 雨のように~♪」
歌声に包まれながら、2人はそっと涙を流した。
自分達の罪に、喪われた命に。
傷付いて、泣いて、ずたずたになった心を癒すかのような歌声に、身も心も任せた。
歌が終わってから、どちらも口を開かなかった。
しばらくして、口を開いたのは、アレルヤとハレルヤの方。
優しい歌声と、ビアンカが与えてくれる温もりに、急激に瞼が重くなってきたけれど。
それでも、今、どうしても伝えたいことがあったから。
「・・・ありがとう・・・ビアンカ・・・。」
≪お前等と再会できて・・・≫
『俺(僕)達、良かった』
そう言って、『アレルヤ』は沈黙した。
しばらくした後、照れ隠し、なのか、そうじゃないかは置いておいて。
ハレルヤは、ビアンカを自分の腕に収める。
半ば、投げ技のような流れとは言え、そうされるとは思っていなかったせいか、すんなりと、ビアンカは納まった。
「・・・ハレ?」
身長が近いとはいえ、肩幅は、体格に比すればやや狭い。
胸はでかいが、目立って筋肉質ではない。
腕も足も、ハレルヤよりも、ずっと細い。
総合的に言えば、ハレルヤの腕に収まるほどに、華奢とも、言える体格だ。
身長と性格のせいか、それは、余り感じないのだが。
ハレルヤは、そのまま、彼女の髪ごと肩に顔を埋める。
しばらく、無言で時は流れる。
ビアンカは、息のくすぐったさに耐えつつ、ハレルヤが何か言うのを待った。
「俺・・・お前ことが、好きだ。」
「・・・は?」
かなり、マヌケな声をビアンカはあげる。
少なくとも、少なくとも、一年以上前、トレミ-加わった時には、始末したいと、ようは、殺したいと、発言していたのは、ハレルヤだ。
それに・・・。
「マリ-のことは、いいのか?」
「あの女に、執着しているのは、アレルヤだ。
・・・アレルヤは、俺でもあるし、ハレルヤはアレルヤでもある。
だけど、好きになる相手ぐらいは違うぜ?」
「いや、あの、お前。
あたしは、ネ-ヴェじゃないぞ、ビアンカだぞ。
後、酒が脳みそまで回ったか?」
混乱しているビアンカに、焦れたハレルヤは、腕の拘束を解かないままで、彼女を自分側に向かせる。
そして、これ以上、何も言わせないように、口を己の口で塞ぐ。
抵抗が無いことに、加虐心をくすぐられたのか、そのキスの深さを増させていく。
「・・・イヤか?」
「嫌な、相手なら、とうの昔に金的蹴り上げてるよ。」
「ちげぇねぇ。」
そして、翌朝。
「おはよう、ハレルヤ・・・ああ、アレルヤか。」
「え、な、何で?」
「おや、何があったか、朧気ながら、覚えてない?」
「泣いて、ありがとう、って言ったとこまでは・・・。」
「・・・・・・。その後、隣りに行こうとしたけど、放してくれないから、一緒に寝ちゃった。」
慌てるアレルヤに、同じベッドでくっついて眠っていたビアンカは、そう答える。
ただし、この上なく、棒読みで。
「何があったの、ホントは?」
「秘密。
それより、朝ご飯行って、ネ―ヴェの様子見に行こうぜ。」
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一応、11話前提その2及び、アレハレ(主にハレ)誕生日話です。
裏設定を言うなら、ビアンカ自身は、2月28日の誕生日設定だったりします。
その1の数時間ほど後の設定です。
かなり、独自解釈入ってますけれど。
破壊の権化のように言われてるハレルヤですが、私は作中のように思います。
一番楽だけど、楽じゃない道を選んでるし、泣き言言えない分、結構辛いと思いますよ?
少なくとも、アレルヤを生かす、一点に於いては、有効でしょうし。
また、オラトリオ=ハプティズム/オルステッド=フェルニシアの種まき完了です。
一応、この一年と数ヶ月後に、アイルランドの石碑前ににて、ティエリアとビアンカ親子は会うわけですから。
・・・どういう形であっても、いつかは、ハレルヤに『父親』させてあげたいとも思うのです。
結果的にとは言え、二期アレルヤは、「おじちゃん」呼び決定ですし。
ともあれ、次の物語にて。