みちのくの放浪子

九州人の東北紀行

最後の夜

2017年06月19日 | 俳句日記

ご覧のように実にスッキリした。
まるでフーテンの寅さんが
「オイ!お若え〜の、突っ立ってね〜で
座わんなってことよ。何にもね〜けどよ
酒はそこそこ買ってあるからよ、心配す
んじゃね〜よ」
と、手招きしているような、錯覚に堕ち
いってしまう。

今から35年前、その「男はつらいよ」が
大好きだった男が死んだ。
念願だった長崎選出の代議士の秘書名刺
を貰って、間も無い頃だった。

彼が18で、私が20才の頃、大学で知り合った。
さしもの70年安保も、悲惨過ぎる連合赤
軍事件に恐れを為した全学連やノンセク
トラジカルが、泡雪が消えるが如く雲散
した、その頃である。

この部屋は、彼の住んでいた部屋によく
似ている。
最初に案内された時に、既にそう思って
いた。
不思議なご縁も有るものだ、と思いなが
ら約三年住んだ。

今日、全ての私の痕跡がなくなった部屋
を見て、改めて彼を想い出した。
熱い男であった。
3・11の時には、おそらく真っ先に駆け
つけた男であった。

生きてさえいれば、必ず選良となった。
選良とは、こんにちでは議員のことを
言う。

選良とは、学歴、立場では無い。
時に臨んで、心底前のめりになる姿勢
のをことを言う。
人情を人の前で、アッケラカンと更け
出す人のことだ。

寅さんにも、彼にもそれがあった。

なにも為し得ず去ることは、大変申し訳
なく思う。
しかし、あの時には確かに彼のような男
の魂魄が、この地に舞降りて来て、私も
呼ばれたことを感じていた。

この国は、生通しの命に護られている。

〈北国の 刈ればいや増す 息れ哉〉放浪子

6月19日〔月〕曇りのち晴れ
いよいよ最後の日となる。
正午過ぎれば佐川が来る。
四時に目が覚めた、作業にかかる。
大筋は処理できたが、こざこざが残る。
何処かで聞いた話だ。
引っ越しは残してはならない。
8時間頑張った。
間に合った。
でも、抱えて帰る荷物が増えた。
詮無いことよ。
束の間に、河原に行った。
土手の草が刈られていた。
私は、跡のこの匂いが好きだ。