田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

砂浜のハマゴウノメイガ

2009-07-20 | 
ハマゴウノメイガ
ツトガ科ノメイガ亜科のハマゴウノメイガ Herpetogramma albipennis Inoue, 2000

薄紫色のハマゴウの花が咲き出した。素足では歩けないほど暑くなる夏の砂浜を這うハマゴウの様子は大好きだ。堤防を乗り越えそうになっている元気の良い自生地も見られる。
2009.7.15、津市河芸町の豊津海岸に自生するハマゴウの葉にハマゴウノメイガを見つけた。前翅長は約9ミリ。和歌山県の南紀で7月に見られているとの情報を知っていたので、ひょっとしたら三重県内でも見つかるかもと思って、ハマゴウ群生地をいつも注意して見ていた。
ひと目でハマゴウノメイガと分かった。会いたい会いたいと思う気持ちが会わせてくれるのだと思っている。三重県内での記録は無さそうなので、参考となる情報をメモっておく。

記載論文によると、
Herpetogramma属としては異例の小型で純白の新種。
伊豆の三宅島阿古、石川県小松市、加賀市、根上町、佐賀県浜玉町虹ノ松原、熊本県天草島牛深市大島で採れた標本によって記載された。小松市浜佐美で山中浩さんが採集した雄がホロタイプとなっている。
ヒメシロノメイガにやや似るが、さらに小型、斑紋はさらに単純で、前翅にあるPalpita属に特徴的な腎形紋などがなく、後翅横脈上と後角の黒紋もない。


山口県の長島では2000年6月の調査で見つけられていて、『長島の自然』によると、「ツトガ科のハマゴウノメイガはInoue(2000)によって新種として発表された種で、現在の所ハマゴウが唯一の寄主植物として知られている(村瀬,2001; 富沢,2000)。今回の記録が中国地方初記録となるが、各地のハマゴウ自生地に広く分布しているので、中国地方の他地域からも発見されるものと考える。」と記されている。

京都府のレッドデータブックによると、「海岸の植生に依存した種であり、京都府における個体数は少ないと思われる。」として、要注目種に選定し、「成虫の開翅長約17mm、幼虫はハマゴウの花部を摂食する。詳しい生態は富沢(2000)に述べられている。これまで石川県、福井県、和歌山県、佐賀県、熊本県の海岸部で記録されている。京都府では、現在冠島だけでしか記録がない。ハマゴウ群落の保全を図る必要がある。」としている。

(むしかご通信2001)によると、1997年の夏、小松市の海浜で初めて成虫を発見し、その後「本種の生活史や分布を調べたところ、①成虫は年2回発生し、7~8月に見られること、②幼虫で越冬すること、③石川県が分布の北限らしいことなどがわかりました」とある。

和歌山県では、日高郡南部町で1997年8月の中旬に多数の成虫が観察されている。有田市の地ノ島、西牟婁郡の志原海岸でも見つかっている。幼虫は、和歌山県では7月中旬から10月上旬まで見られ、いずれもハマゴウの花序の軸に軽く糸を張って花を食していたという。

「いしかわレッドデータブック〈動物編〉2009」によると,「土木工事等によって海浜植物帯が破壊され、本種の食草であるハマゴウが消滅し、生息地が激減して
いる」などとして,絶滅危惧Ⅱ類に選定されている。「海浜植物を保全しつつ土木工事を実施することが重要である。また、砂浜への車の乗り入れも本種の生息を脅かしている」と,ハマゴウノメイガの生存の危機を訴えている。

参考文献
Inoue, H. 2000. A new species of the genus Herpetogramma Lederer(Pyraustinae, Crambidae) from Japan. Trans. Lepid. Soc. Japan 51: 316-318.
富沢 章, 2000. 石川県におけるハマゴウノメイガの分布と生態. 蛾類通信(211):208-212.
村瀬ますみ, 2001. 和歌山県のハマゴウノメイガ.蛾類通信212: 234.
神保宇嗣(2001)長島の昆虫類.長島の自然 瀬戸内海周防灘東部の生物多様性.日本生態学会中国四国地区会報59号:28-37.
富沢 章, 2001. 新種発見のはなし,むしかご通信vol4No4通巻11号:5,石川県ふれあい昆虫館.
石川県,2009.改訂・石川県の絶滅のおそれのある野生生物 いしかわレッドデータブック<動物編>2009 web版,石川県自然保護課.

ハマゴウノメイガ

追記
2009.7.20 津市の白塚海岸、町屋海岸のハマゴウ群落を探したが、見つからなかった。
2009.7.24 鈴鹿市の鼓ヶ浦海岸では見つけられなかったが、四日市市の鈴鹿川派川河口左岸及び吉崎海岸で成虫の生息を確認
2009.7.29 19時前後に吉崎海岸のハマゴウ群生地を歩く。飛び立ったハマゴウノメイガの成虫が葉裏に止まらず、花序の上に静止するのを何度も目撃した。座り込んで眺めていると、暮れゆく薄闇の中をあちこちで飛ぶ立つ成虫の白い姿が見られた。蕾の上に静止しても、成虫の姿は蕾の色と変わらないように思えた。
2009.7.30 吉崎海岸で多数の幼虫と成虫を確認。鈴鹿市の千代崎海岸は砂浜があるというだけで、ハマゴウの自生すら確認できなかった。
2009.8.7夕方 高松海岸のハマゴウ群生地を調べたが、ハマゴウノメイガもツリアブたちも見つけられなかった。
2009.8.16 伊勢市二見町の神前海岸でハマゴウノメイガ成虫と幼虫を確認。度会郡南伊勢町の田曽白浜及び相賀ニワ浜では見つからず。
2009.8.17 志摩市志摩町の片田大野浜及び和具広の浜では見つからず。伊勢市東大淀の海岸では幼虫と成虫を確認。多気郡明和町の大淀海岸では見つからず。松阪市松名瀬町の松名瀬干潟で幼虫を確認。
2009.8.20 芦原海岸では幼虫、成虫共に見つからず。
2009.8.30 吉崎海岸で、幼虫、成虫共に見られず。

ハマゴウノメイガの幼虫たち
ハマゴウノメイガ初見日


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