五行目の先に

日々の生活の余白に書きとめておきたいこと。

中央弘前-大鰐

2012-04-14 18:35:41 | 鉄道

 この間東京に出張した際、日程が土曜日にかかっていたので、半日の代休を取ることになった。年度始めの立て込んでいる時期ゆえ、その日も午前中は仕事をしたが、このままフイにするのも何だと思ったので、ぶらりと出かけることにした。大鰐線に乗ろう。

 時間をみると、弘高下発の電車まではまだずいぶん時間があるようだから、始発駅の中央弘前まで歩いていくことにする。少しばかり風があるが、いいお天気だ。

 富田大通りを避けて、裏道を行く。吉野町緑地で、奈良美智による「A to Zメモリアルドッグ」の像を眺める。日光が当たってぴかぴかしている。冬場はすっかり雪の色になじんでしまった感があったから、春になって生き生きとしてきたようだ。



 緑地から、これから乗る電車を眺める。ここからみると、中三デパートの奇抜なデザインなどもみえて、いかにも都市から出る電車のようにみえる。



 弘前昇天教会の脇の道を歩く。ここからは正面に一戸時計店のとんがり屋根と、そして右には昇天教会の鐘という、弘前の時のシンボルが一緒に拝める。



 中央弘前駅に着く。窓口で「さっパス」を買う。往復の電車賃と、大鰐の日帰り温泉施設「鰐come」の入浴券、それと200円分のお買い物券が付いて、1,000円也。改札が始まるまで、ベンチに腰掛けてしばし待つ。



 発車5分ほど前になると改札が始まる。今日の電車は青い帯を巻いたもの。



 去年の12月に1週間ほど「電車通勤」したときには、赤い帯の車両ばかりだったから、ちょっと新鮮だ。まだ出発までいくらか時間があるから、大好きな弘南鉄道のキャラクター、ラッセル君の顔出しを眺める。同行者がいたら、ぜひ顔を出して写真を撮ってもらいたいところだ。



 2両編成の電車に乗客は15、6人ほど。思ったよりは乗っているか。それでも弘前学院大前で3、4人下りてしまって、10人ほどになる。途中駅で乗ってくる人はほとんどない。



 小栗山のあたりまでは住宅地のなかを進む感じだが、松木平までくると、一気に視界が開けてくる。辺り一面水田とりんご畑になって、「平野」を実感することができる。田んぼでは白鳥(?まだいるのだろうか?)が餌をついばんでいたりする。





 津軽大沢では列車の交換がある。車庫には6000系電車が休んでいた。再び青色と赤色の帯をまとっているようである。

 義塾高校前を出る。まだ学校が終わる前のようで、高校生が乗り込んでくることもない。石川の高架橋を渡る。ここでJR奥羽線をオーバークロスする。ローカル私鉄がJRの本線を見下ろすというのはちょっと気分がいい。そしてこのコンクリート橋の独特の構造もまたよろしい。



 それにしても大鰐線の各駅舎(といっても中央弘前と大鰐以外は無人駅になってしまったが)のデザインは誰の手によるものなのだろう。台形を逆さにしたような、そして石灰色を基調としたデザインは、戦後のものとはいえ、評価に値するものなのではないかと思う。中央弘前駅の評価はかねてからもちろん高いが、沿線を通しての統一感というのもまたよいところだと思う。

 いいお天気だが、生憎岩木山の山頂には雲がかかっていてよくみえない。それにすっかり霞んでいる。そのせいかどうかわからないが、花粉症の症状も今日はひどくなってきた。周りにはマスク姿の人は少なくて、僕だけやたらとひどいようである。



 あちこちの畑からは煙が上がっている。これもまた春を感じさせる光景である。



 大鰐に着く。およそ30分ほどの旅である。大鰐で下車したのは8人ほどだったろうか。

 ホームから古びた跨線橋を見上げる。先日訪れた、長野電鉄屋代線の屋代駅の跨線橋を思い出す。



 JRの跨線橋との境目には、かつての長距離列車の記憶を残す行き先案内板がある。寝台特急「日本海」が定期列車としての運行を終えた今、金沢・大阪へと直通する列車は、ここ大鰐温泉駅には停車しない。新幹線が開通して、人の流れというものがすっかり変わってしまったのだ。



 鰐comeに向かう途中、弘南鉄道のラッセル車(キ105)と凸型の電気機関車(ED221)がみえた。当たり前だが、キャラクターのラッセル君と比べるとずいぶんといかめしい。むしろED221のほうがかわいらしくみえて、こちらもキャラクターになるんじゃないかな、などと思う。



 昼から温泉に浸かる。実にいい気分だ。しかも空いている。ただし露天風呂は風が冷たいので、お湯に浸かっていないとたちまち寒くなる。

 「さっパス」には電車の時刻表が書いてあるから、それをみて時間まで館内の座敷でくつろぐ。売店でラッセル君の絵はがきと電車のペーパークラフトブックを買う。10分前に出ればゆうゆう間に合う。車内にはランドセルを背負った小学生が5人ほど乗っている。彼ら彼女らにとっても通学列車なのか。

 電車はゆっくりと走り出す。どの川も雪融け水で水量が多い。



 再び石川高架橋を渡る。いつも間にか雲は晴れて、岩木山のシルエットがはっきりとみえるようになった。



 津軽大沢で再び列車の交換がある。この駅も昨年無人駅になってしまった。



 先月には大鰐線の存続をめぐって弘前市役所で協議が行われたばかりだ。合理化は限界まで進められている観がある。「青森鉄道むすめ」の平賀ひろこさんは、弘南鉄道のトレインキャストとなっているが、このトレインキャストの乗務さえ、先月末で終わってしまった。



 先だっての2つの路線廃止もあって、ローカル私鉄のあり方はますます厳しいものとなってきているように思える。残すには乗るしかないのだが、僕とてごくごくたまにの乗客に過ぎない。ただ、かつてここに路線があった、と過去の記憶として聞くのならともかく、今ここにあるものならば、どうにかできないものか。すでに多くの人が叡智を集めて考えていることはわかっているけれど、自分なりに考えていきたいと思う。

 中央弘前駅に着いて、ルネスアベニューを抜け、名曲&喫茶ひまわりでコーヒーを飲み、しばし読書する。電車に乗り、コーヒーを飲む、というのは、もちろんJR弘前駅でだってできる。だがこちらにある趣には遠く及ばない。ターミナルとしての魅力なら、中央弘前も負けないものを持っていると思うのだ。

この記事についてブログを書く
« 長野電鉄屋代線(その2) | トップ | 文鳥来たる »
最新の画像もっと見る

鉄道」カテゴリの最新記事