酸ヶ湯温泉から先の道を、今回初めて通りました。
ブナ林の中に鈍色の道が続いていました。
ありふれた舗装道路だって、こんなに素晴らしい景色の中では、見事な絵となって記憶の一コマに留められます。
どれ程の資金を積んでも、決して手に入れることはできない、光と大気と木霊とが調和し、静粛のシンフォニーを奏でていました。
道路脇の掲示板に、八甲田ブナ林の説明がありました。
八甲田ブナ二次林
「ブナは温帯林を代表する落葉高木で、日本の代表的な広葉樹です。この周辺一帯は牛馬の放牧は行なわれていたところで、古くからあったブナ林は放牧のため、ほとんど伐られました。その後60年余りの間に、残された木の種から芽生えた樹木等により、再びこのようなブナ林(二次林)となったものです。これらのブナ林は今後も生長を続け、やがて巨木となって大地を支え潤すことになります。昭和63年10月」
この掲示板が設けられてから既に27年の歳月が流れたことになります。
これから同じ歳月が流れたときに、更に美しく育ったブナ林をもう一度訪ねてみたいと思うのは、私だけでしょうか。
少なくとも、今日生まれた子供達が27年後に、今日の私と同じように、ブナ林のシンフォニーを聴けるようにあってもらいたいものです。
そして、今の私にできることは何かな、と考えます。
十和田湖温泉で右折して、奥入瀬渓谷をはしる、国道102号線に入りました。
奥入瀬渓流は、十和田湖によって流水が自然に調整されていることと、70 mで1mという穏やかな勾配のため、川のなかの岩や倒木にもコケや潅木がはえ、美しく繊細な景観がつくりだされたのだそうです。
渓谷に入ると、道の脇に車を停めて、観光客が岸辺に下りて、しっとりと流れる川の情緒を楽しんでいました。
岩の上で素朴な白い花を咲かせているのは、ホツツジです。
流れの中の岩の上という、養分の少ない場所で、必要最小限の資源で花を咲かせたインテリジェンスな趣を感じさせます。
スギの木の下に流れる瀬に、まるで中流域のような玉石が見えています。
穏やかな流れに、長い年月をかけてゆっくりと運ばれてきたのかもしれません。
もう少し遡ると、いかにも山中の沢らしい光景を見せる「阿修羅の流れ」にでました。
鬱蒼とした緑の中のごつごつした岩の間を、蒼い清流が、白い泡を見せて流れ下ります。
奥入瀬渓谷の上流域では、渓流の本流に掛かる唯一の滝である銚子大滝が、白い絹のカーテンをかけていました。
水音は聞こえるのですが、絶え間なく、抑揚なく続く水音は、いつの間にか森の緑に溶け込み、周囲は不思議な静けさに包まれていました。
僅か1時間程の、車での渓谷探訪でした。
本来ならば、なだらかな道を、小鳥達の声を聞きながら、時間をかけて足で巡れば、渓谷本来の魅力を満喫できたかもしれません。
奥入瀬川が静かに、穏やかに流れる薪能のような渓谷は、四季折々に豊かな表情を見せてくれるようです。
しかし、過去に何度か台風による被害で渓谷美が失われた時期もあり、私も何度か訪ねることを諦めた記憶があります。
山や川や海は、いつも同じような姿を見せますが、けして不変ではなく、常に僅かずつ変化を続けています。
宇宙に漂う太陽系の、ちいさな地球号の中で、爆発的に増加するホモサピエンスが、地球に大きな影響を与え続けています。
気温が上昇し、気象が大きく変動すれば、27年などという年月を待たずに、八甲田にシュロが侵入するようなことが起こるかもしれません。
放射能も怖いですが、化石燃料を貪り続けた結果、海水面が30㎝上昇すれば、やがてくる大震災時に、東京全体が津波の下に呑み込まれるようなことも予想されます。
27年後の地球がどのようであるかを考え、問題意識を持って地球のさまを見詰め続け、伝え続けることが、年金で暮らす者としての、せめてもの勤めになればと思います。
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