Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『さよなら公演 納涼大歌舞伎 第二部』 3B席中央

2009年08月08日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 納涼大歌舞伎 第二部』 3B席中央

『真景累ヶ淵』「豊志賀の死」
豊志賀が病に倒れ、新吉が看病しているところから始まり、豊志賀の死当日のまでのお芝居。ここだけだと、これで終わり?という感じになってしまいますねえ。しかし、哀れな話なのに、笑い多発。そこで笑う?な場面で大笑いしてる観客が多数。なぜにして?クスクスなら判るけど大笑いは違うような…。

豊志賀@福助さん、ちょっとベタつきすぎというか、やりすぎ感が…。イヤな女になりすぎでは?もっと年上の女としての焦りとか哀れさの部分が欲しいなあ。ついつい嫉妬心が出てしまう、ではなく、最初から嫌味な女になってるよ~。そこら辺押さえて欲しい。富本節の師匠としての気風のよさとかどこかに滲ませてほしいなあ。福助さんのベタつきがちな台詞がどうも笑いを誘っている部分がなきにしもあらず…。

新吉@勘太郎くんが勘三郎さんにソックリでした。それは似すぎだろう、ってくらい似てました。完全に勘三郎さん写しな感じの新吉でした。よほどきっちりと稽古をつけてもらったんじゃないかと。看病に疲れ、豊志賀の嫉妬に愛想がつきはじめた男をよく見せていました。初日にしては随分いい出来かと思います。でもやっぱり芝居の線が一本線すぎる気も。真っ直ぐな青年が追い詰められて気持ちが揺らいでるという部分で、新吉の弱さにもっと同情させる哀れさとかそういう細かい襞をみせてくるともっと説得力がでるかと思います。

お久@梅枝くん、きっちりと演じてきた。可愛らしいなかに少し陰を背負った雰囲気をきちんと出していました。台詞もいいし、この年代では頭一つ抜けてきた感じ。上手いですねえ。

噺家のさん蝶@勘三郎さん、いかにも噺家らしいしゃべくりが本当に上手い。観客の視線を一気に持っていく。さすがです。

勘蔵@彌十郎さん、いい味。


『船弁慶』
辛口です、勘三郎さんファンの方、すいません。でもこの踊り、個人的に色々思い入れがある演目なので正直に。

お梶、噺家のさん蝶とかなり良い感じの勘三郎さんなので期待大。ワクワクしながら観たのだけど期待が大きすぎたかも…。勘三郎さん、肩に力入りすぎかなあ。それとも疲れが急に出ちゃった?静御前は丁寧にふんわりと踊って初日にしてはこれはなかなか良いわ、という感じだったのだけど知盛で一気に失速。知盛はさぞかし良いだろうと思っていたのであれれ?でした。

まずは静御前、能がかりの拵えが似合っててふっくらと可愛らしい静御前です。ここは誰が踊っても難しい場でさすがの勘三郎さんも最初のうちは硬さが見える。しかし足捌きは綺麗で柔らか。踊っていくうちに硬さが取れ、丸みを帯びた華やかさを帯びていきます。勘三郎さんの静御前はとても娘ぽいですね。あくまでも可愛らしい若い娘として情景を活写していく感じ。あえて注文をつけるなら白拍子としての艶と義経と別れるという愁いがもっと欲しいけど、17年ぶりに踊ったということでこなれてくるとその辺も表現してくるかなと思う。

初日の衣装は六代目菊五郎のものか玉三郎さんからのプレゼントのものかどちらだろう?と思ってじっくり双眼鏡で観てみましたが、衣装の雰囲気からなんとなく六代目菊五郎のものだろうと推測。知り合いも同意見だったので当たっているかと。

後半の知盛、私は花道の出は残念ながら拝見できません。しかしちょうど視界が良い席だったので七三あたりからきちんと観られました。知盛の拵えも似合っていて、こちらは凄みのあるお顔。勘三郎さんは化粧が上手だと思う。で、期待したんですが踊りが小さい…。なんというか「知盛の気」を自分に引き寄せてこれてないというか…。体全体から恨みとか凄みとか哀しみとか、そういうものが表現されてないんです。キレがあまりないし、突っ込みも足りないし、ここ、という部分で決めてこれず踊りが流れていってしまう感じ。なので知盛が非常に小さくみえてしまう。

富十郎さんの『船弁慶』がどんだけ凄かったのか、と思い知りました。特に知盛の異様さとか威圧感とか、そして踊りの一手一手のキレの良さとか美しさとか、そういうもので凄まじいパワーを形作っていた。あの小柄な富十郎さんですがぐわ~っと迫ってくるような大きい知盛でした。その大きさが勘三郎さんには無かった。富十郎さんが別格に凄いということであっても、そろそろ勘三郎さん的には富十郎さんの域のほうに近づいていかなければならないと思うし、出来ると思うんですが。う~ん、ちょっと残念。

引っ込みはどうだったのかな?と思いましたが知り合い曰く、どうやらここももう一つだったようです。勘三郎さん自身思い入れのある大好きな舞踊のはずなのでこのままで終らせないとは思いますが…。

義経@福助さんが非常に良かったです。一部、二部通したなかでは一番の出来。公達風情が似合いますよねえ。品格もあり、愁いを帯びた表情のなかに芯の強さも感じられる。今まで思ったことなかったけど芝翫さんに似てる~って思いました。芝翫さんの公達での品格のありようは素晴らしいものがあるのだけど、そこに近づいたかも?と思いました。

弁慶@橋之助さん、最初は線が細い?と思いましたが台詞廻しもよく押し出しもあって良かったです。きちんと勤めている部分でなかなか良い弁慶でした。

舟長三保太夫@三津五郎さんがさすがに上手く、また舟子も高麗蔵さん、亀蔵さんと揃っていてバランスのいい船唄となりました。

四天王が若手四人。松也くん、巳之助くん、新悟くん、隼人くん、皆一生懸命にきちんと勤めていて、いい勉強させてもらえているなと。立ち振る舞い、台詞回しなどの上手さでは見事にこの順番通り(笑)。年齢とか経験値とか色々あるのでしょう。巳之助くんの姿勢が以前に比べだいぶ良くなっていました。隼人くんはこの拵えだとお父さんソックリですね。若い時の信二郎さんにしか見せません…(笑)