Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

世田谷パブリックシアター『オーデュボンの祈り』 A席3階センター

2011年10月02日 | 演劇
世田谷パブリックシアター『オーデュボンの祈り』 A席3階センター

原作が気に入っていてどう芝居にするのか興味があったのと吉沢悠さんも筒井道隆さんも好きな役者さんということもあり観に行ってみました。

芝居全体は原作を大事にした脚色でかなりわかりやすい構成。物語を知らない人には親切。とはいえストーリー紹介しました、だけな感じも。原作を大事にしすぎた&演出がちょいとメリハリに欠けるため芝居としてはちょっと平坦かも。判り易くする為にこの作品のキモだと思う登場人物たちの背景がかなり簡略化されてるので、悪意と善意の二対立の部分やら生きていくための個々の理由付け(それが「祈り」だと私は解釈してるのだが)が抜け落ちてる。なので物語の仕掛けだけが拾い出されている。それと思ったほど原作にあるユニークな世界観が立ち現れてなかったな。視覚化しようと頑張ってはいたと思うのだけど。個人的には禄二郎と徳之助のエピはもっと丁寧に描いてほしかった。うまくやればあそこ泣けると思うんだどなあ。

小説でも弱いと思ってた「足りないもの」のオチが視覚化されるとほんとに弱いのも残念だった…。このオチは100年前の部分で伏線が欲しかったんだけど原作にもそこが無く唐突だったから仕方ないか…。脚色する時に何か足せなかったかなあ。とはいえ視覚化するのには難しかったであろう原作をきちんと芝居にしてた、という部分ではそれなりに面白く観られました。でもやりようによってはもっと深い芝居になったと思うんだけどな~。役者さんたちは皆さん、なかなか良かったです。

伊藤@吉沢悠さん、初舞台にしてはよくやっていたと思う。まだ舞台でどう見せるかの部分は一生懸命ってとこまでだけど、声の通りもいいし存在感もきちんとあるし。伊藤の真っ直ぐだけど頼りない風情にぴったり嵌っている。素直で純粋な雰囲気がある役者さんなので応援したくなるかも。

案山子(優午)@筒井道隆さん、ひょろ~ぬぼ~ってした雰囲気のなかにどこか切ないものを感じさせて印象的。案山子は人に演じさせなくてもとは思うので使い方としては少々もったいない気がした。あの優しげな声と口調は案山子にピッタリだった。筒井道隆さんは伊藤でもかなり嵌ったんじゃないあと思う。筒井さんだと伊藤の無意識の「逃げ」の部分がもっと出た気がする。筒井さんは面白い役者さんですね。芝居方法は映像のまんまなんだけど舞台でも通用するというか「そこにいる」ことができる役者さんだ。

日比野@河原雅彦さん、ちゃらちゃらとテンションの高い日比野を上手く造詣。伊藤@吉沢悠さんをフォローするようによく動いていましたし、物語を転がす役目をきちんと担っていました。

田中@小林隆さんがかなり印象的。重要な役回りだけど、それを説得力もって造詣していた。

他の役者さんたちもきちんと「らしく」演じていらして良かったです

-------------------------------------------------------
[原作] 伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』(新潮文庫刊)
[脚本] 和田憲明
[演出] ラサール石井

[出演] 吉沢悠/河原雅彦/石井正則/小林隆/武藤晃子/小泉深雪/寺地美穂/町田マリー/春海四方/玉置玲央/陰山泰/筒井道隆

======
あらすじ
コンビニ強盗を起こした伊藤は、知らぬ間に“荻島”に連れて来られた。
仙台からそう遠くない島“荻島”は、150年前から外界との交流をやめて鎖国状態にあり、不思議な住人たちが住んでいた。
反対のことしか喋らない元画家、島のルールとして殺人を許された男、地面の音を聞く少女、人語を話し未来を知っている案山子“優午”など。
伊藤が島に着いた次の日に、未来をわかるはずの“優午”が殺される。なぜ、“優午”は殺されたのか。誰が“優午”を殺したのか。そして、島に昔から伝わる言い伝え、「この島には大事なものが欠けている」
[案山子の死]と[島の言い伝え]の真相を追う伊藤の数日間のものがたり。すべての真相が見え、欠けていたピースがはまったとき、“大切なもの”が島を満たす。
======