Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 昼の部』1等1階席前方上手寄り

2007年06月16日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 昼の部』1等1階席前方上手寄り

『妹背山婦女庭訓』
今回、「吉野川」の前に「小松原」「花渡し」の段が付くので話の流れがとても判りやすいです。やはりある程度は通して芝居をしてくれたほうが良いなあと今回つくづくと思いました。

昼の部はこれが本当に素晴らしかったです。こんなに面白かったんだっけ?と思いました。いやあ、これは参りました。とにかく藤十郎さんの定高が絶品です。私のなかではかなり決定版かも。私、藤十郎さんの丸本物の品格ある女性のお役は相当好きかもしれません。気持ち本位と型のバランスがピッタリ。今の藤十郎さんだからこその定高なのかもしれません。今まで藤十郎さんは少々苦手で上手いとは思いつつ少し感情過多かなあと思っていたんですけど。ハラの部分が非常に深くて、芝居の濃さがとてもいいように出てると思う。

それでこの藤十郎さんの定高に、久我之助の梅玉さん、雛鳥の魁春さん、大判事の幸四郎さんのバランスがまた良かった。

梅玉さんの品のある若々しい真っ直なところ、魁春さんのなんともいえない可愛らしい恋心がいいです。藤十郎さんと幸四郎さんの二人の濃い芝居をしっかり受け止めて返す。うん、見事。

久我之助はまだファンになる前だったけど染五郎さんのがとーっても好きで、今でもまたやって欲しいんだけど、今回に関しては梅玉さんで正解だったかも。今回の梅玉さんの久我之助には一途な頑固さと若者らしい純な優しさがありました。

そして魁春さんがビックリの可愛らしさ。顔はいつものお顔なんですけど、なんか松江時代を思い出しちゃった。雛鳥の純な恋心を体全体で発していてとても若々しく本当に可愛かったです。

そして、前回(1999年)実はあんまり感銘を受けなかった幸四郎さんの大判事。前回は全体的にどこか弱かったのよね。でも今回はすごく良かった。なんというか大判事のハラがしっかり入ってた。不器用で頑固なおやじだけど、心根は優しい、という部分がしっかりあってとってもいい味わい。また藤十郎さん相手だから芝居の濃さが非常にいいバランスで。芝居上手な部分が活かされた。(にしても今月の幸四郎さん白鸚さんにソックリ!)

吉野川を隔てた定高と大判事のやりとりは見ものですよ。そしてその後の4人による壮大な愁嘆場がすごいすごい。2時間もあっただなんて思えないほど濃密で緊迫感のある時間でした。もう涙がボロボロこぼれてしまいました。


『閻魔と政頼』
吉右衛門さんの新作狂言。まあなんというか他愛もない一幕。それこそ「微妙~」(笑)でまだ練れてない感たっぷりですけど、まあそこそこ楽しいし前の幕の『妹背山婦女庭訓』がかなり重い演目なので軽くてちょうどいいかも。土日のみ出演の鷹之資くんが後見で出てました。笑いに一幕買ってました。

『侠客春雨傘』
暁雨の染五郎さん、カッコイイ~~~。すっきりとした男前。大人な魅力がありましたわぁ。立ち姿がほんまに綺麗やわぁ。声は良くはなってる感じだけど時々掠れたり、ちょっと安定しない部分もあったかな?なんとなく緊張してるかなと感じた。やはり齋くんのことが気が気でないんでしょうねえ。にしても染ちゃんの助六も見たいものだ。

んで、一気に客席の関心を持っていってしまうのが初お目見えの齋くん。可愛い、ほんとに可愛い。なんですか、あれ。おば様方のハートめろめろですよ。今日は少々、注意力散漫系?花道の途中から草履が気になったのか下を気にしながらテクテク。でも七三でちゃんとお辞儀。「へこっ」て感じのお辞儀なのがまた可愛い。中央に出てからは(幸四郎さんたち大人のご挨拶中)、なんかヘンな動きをしてるのよね(笑)胸をつきだしたり、羽織の房をいじって手をあげたり、仕舞いには余所向いて染とうたんをガン見。染とうたん、表情変えずに齋くんとにらめっこ状態です。齋くんの負け?で途中から今度は梅玉さんや仁左衛門さんをガン見。 梅玉さんと仁左衛門さんは幸四郎おじいさんに負けず劣らず目尻下がりっぱなしです。可愛くてしょうがないって雰囲気で、このお二人の子供好きな面が出てました(^^)。吉右衛門さんはちょっと心配そうにでもおだやかにニコニコされて一族の子を見守るって感じでした。

それから、齋くんは幸四郎おじいちゃんに「お参りする時どうするの?」と問われ、手をパンパンしてお辞儀して「がんばるじょ~!」のはずが、やってくれない。んで、また謎の胸つきだしポーズ(笑)おじいちゃん、諦めてお客さんに解説。「ほんとはお辞儀して頑張るぞーをやる予定だったんですが、今、齋がやってるのは「勧進帳」の六方をマネてるつもりなんです。この子が弁慶をやるのはあと20年後だと思いますが(^^;)」

わはは、そうなんだ。あれは六方のつもりなのか。さすがに役の表情を変えてなかったですけど染ちゃんは冷や汗たらたらだったでしょうねえ。

梅玉さん音頭で一本締め。これは齋くんもちゃんとやってました~。捌ける時はやっぱりお手振りしてくれました。観客のほとんどが思わず振り返すというほのぼのな情景でございました(笑)幸四郎じいちゃんは「これっ」とたしなめてたけど。んで、そのまま引っ込むかと思いきや、途中でもう一回へこっとお辞儀をしていきました。うーん、観客のツボを心得てるぞ。大物になるかも。

芝居はすっかり齋くんに食われてしまいましたけど、その後、染五郎さんの暁雨と鉄心斎の彦三郎さんが引き締めての対決の場。止めに入る葛城の芝雀さんがキレイだぞ。雀右衛門さんにほんとに台詞回しが似てきたなあ。顔も似てきたと思う。またちょっと痩せたかな?錦弥さんは何役なの?美味しい役じゃないですか~。