アレシアが陥落し、敗北を悟ったヴェルチンジェトリックス、すべての将、兵を集めこう告げます。
「この戦いは己の栄誉のためではなく、自由のための戦いだった。運命が私に敗北を与えたのならば、それに従うことにしよう。私を殺すか、あるいは生きたままローマ軍へ引き渡すか、諸君らが選択したまえ」
ガリア連合軍は彼をカエサルに引き渡すことに決め、彼を先頭にカエサルの元に出向きます。負けたとはいえガリア王、全裸で、いや全裸じゃないけど馬に乗ったままカエサルの前に立ちます。
ガリアの若き獅子対ローマの昇竜、初の対面。
この絵はヴェルチンジェトリックスがカエサルの前で武器を捨てたシーン。この瞬間、若きガリア王は単なる若きガリア人となりました。
まだ戦火の消えきらぬガリアの聖地アレシアを背に、どのような会話が交わされたのかは想像するしかありません。このローマ人列伝はほとんど僕の想像みたいなものですからここでも想像しましょう。
カエサルはまず若きガリア王の健闘を称えます。カエサルはもしかすると伝説に残るカルタゴ軍の天才、ハンニバルと自国の英雄スキピオにお互いを重ねていたのかもしれません。
神将の思わぬ言葉を聞いたヴェルチンジェトリックス。ひとまず感謝の気持ちを伝えます。良かれ悪かれ彼と戦うことにより自分の愛した部族は部族を超え、曲がりなりにも「国」の形を取りつつありました。戦いに負けはしましたが心から望んだ「団結」の結果です。何を恥じることがあるでしょう。
また戦乱の中でカエサルの戦略に触れることは武に生きる自分にとって何よりも興奮することでもありました。もし違う形でカエサルに会っていれば。二人は年齢を越えてよき友人になったかも知れません。あるいは「血統」に何一つこだわらなかったカエサルのこと、30歳下のこの若将を自分の後継者にすらしたかも知れません。
しかし今は勝者と敗者。敗者には何も残りません。戦争において勝利なき健闘に何の意味もないのです。カエサルは自分を奴隷にするか、それともこの場で首をはねるか。敗者はただ勝者の意志に従うだけです。若きガリア人はカエサルの目を見据えたまま、言葉を待ちました。
カエサルの言葉は、
「部下になれ」
でした。
カエサルはそもそも敵武将を殺さないことで有名でした。「自分は好きなようにやる、お前も好きなようにやれ」が口癖の男です。理由があって自分の敵になろうともそれは好きなようにやった結果です。怨みなど一切ありません。決着が着いてしまえばみんな友達。友達の輪。
ヴェルチンジェトリックスは驚きました。そして心が揺れました。
しかし、すべてを捨ててカエサルの部下になるには彼は若すぎました。もう少し年を取っていれば、残り少ない人生を惜しんで降ったかも知れません。若き彼が惜しむものは部族の誇りのみ。まっすぐさだけが若さのとりえ。彼の答えは「Non」(フランス人だからね)。
そのまっすぐな一言だけでカエサルは彼の思いを理解しました。そして二人の会話は終わりました。
ヴェルチンジェトリックスは捕縛。ガリア連合軍は後に遺恨を残さぬよう一部は解放、一部をローマ軍に併合。これによりカエサルの私軍は更に強固になります。
※私軍強化及びガリアからの税収による自身の財力強化がカエサルがガリアを攻めた目的ではあります。が、強大になったカエサルを元老院が恐れ、結果、軋轢を生むことになりますがそれはまた別の話。
カエサルは捕縛したヴェルチンジェトリックスと強大になった私軍を従えローマに凱旋します。
凱旋式の先頭を行くのは鎖につながれたガリアの若将。ガリア人を話では聞いても見たことは無いローマ市民は好奇の目で彼を見ます。そして最後尾のカエサルに最大の賞賛を与えます。
僕の勝手な想像ではカエサルはヴェルチンジェトリックスをローマ市民の目にさらしたかったわけではないと思っています。むしろ、自分の愛した敵将に自らの愛するローマを見せたかったのではないか。さすがに最後尾、カエサルの隣に敵将を座らせるわけには行きません。ならばせめて、一番良く見える最前列に。ルールに従い鎖に繋がれているとしてもそんなことでは傷つかない高い誇りをその若者は持っているはずです。
その後のヴェルチンジェトリックスを多くの歴史家はこう伝えます。
「6年間ローマの牢につながれた後、処刑された。敵将を処刑しないことで有名だったカエサルにとってですら、ヴェルチンジェトリックスは生かしておくには脅威だったに違いない。」
さてそうだったのでしょうか?
僕が想像するのは恐れ多いですがおそらくカエサルは6年間、事あるごとに牢に出向き、ヴェルチンジェトリックスの翻意を待ったのではないでしょうか。部類の人好き、人たらしで知られたカエサル。何度も何度も話をすればヴェルチンジェトリックスも考えを変えてくれるかもしれない、そう思って6年間待ったのではないでしょうか。
しかし思いというものは硬ければ硬いほど、年月が和らげるものではありません。逆に頑なになっていくものです。
6年目、「部下になれ」と言うカエサルの言葉にやはりヴェルチンジェトリックスの答えは「Non」(フランス人だからね)。そしてヴェルチンジェトリックスは続けたのでしょう。「獄に繋がれ恥の人生を送るのであればカエサル最大の敵として殺してくれ」。敵ながら愛した人の願いをかなえることはその人の死。カエサルは万感の思いを胸に処刑執行書にサインしたに違いありません。
こうしてガリア戦争は終わりました。
ガリアの獅子の死から2000年、かのアレシアの地にはフランス史上初の英雄、自由と解放、そしてガリア民族「団結」のシンボルとして彼の像が建てられています。
今もなお、ガリアの地に響くカエサル軍の蹄の音を聞くかのように。
<ヴェルチンジェトリックス伝 完>
「この戦いは己の栄誉のためではなく、自由のための戦いだった。運命が私に敗北を与えたのならば、それに従うことにしよう。私を殺すか、あるいは生きたままローマ軍へ引き渡すか、諸君らが選択したまえ」
ガリア連合軍は彼をカエサルに引き渡すことに決め、彼を先頭にカエサルの元に出向きます。負けたとはいえガリア王、全裸で、いや全裸じゃないけど馬に乗ったままカエサルの前に立ちます。
ガリアの若き獅子対ローマの昇竜、初の対面。
この絵はヴェルチンジェトリックスがカエサルの前で武器を捨てたシーン。この瞬間、若きガリア王は単なる若きガリア人となりました。
まだ戦火の消えきらぬガリアの聖地アレシアを背に、どのような会話が交わされたのかは想像するしかありません。このローマ人列伝はほとんど僕の想像みたいなものですからここでも想像しましょう。
カエサルはまず若きガリア王の健闘を称えます。カエサルはもしかすると伝説に残るカルタゴ軍の天才、ハンニバルと自国の英雄スキピオにお互いを重ねていたのかもしれません。
神将の思わぬ言葉を聞いたヴェルチンジェトリックス。ひとまず感謝の気持ちを伝えます。良かれ悪かれ彼と戦うことにより自分の愛した部族は部族を超え、曲がりなりにも「国」の形を取りつつありました。戦いに負けはしましたが心から望んだ「団結」の結果です。何を恥じることがあるでしょう。
また戦乱の中でカエサルの戦略に触れることは武に生きる自分にとって何よりも興奮することでもありました。もし違う形でカエサルに会っていれば。二人は年齢を越えてよき友人になったかも知れません。あるいは「血統」に何一つこだわらなかったカエサルのこと、30歳下のこの若将を自分の後継者にすらしたかも知れません。
しかし今は勝者と敗者。敗者には何も残りません。戦争において勝利なき健闘に何の意味もないのです。カエサルは自分を奴隷にするか、それともこの場で首をはねるか。敗者はただ勝者の意志に従うだけです。若きガリア人はカエサルの目を見据えたまま、言葉を待ちました。
カエサルの言葉は、
「部下になれ」
でした。
カエサルはそもそも敵武将を殺さないことで有名でした。「自分は好きなようにやる、お前も好きなようにやれ」が口癖の男です。理由があって自分の敵になろうともそれは好きなようにやった結果です。怨みなど一切ありません。決着が着いてしまえばみんな友達。友達の輪。
ヴェルチンジェトリックスは驚きました。そして心が揺れました。
しかし、すべてを捨ててカエサルの部下になるには彼は若すぎました。もう少し年を取っていれば、残り少ない人生を惜しんで降ったかも知れません。若き彼が惜しむものは部族の誇りのみ。まっすぐさだけが若さのとりえ。彼の答えは「Non」(フランス人だからね)。
そのまっすぐな一言だけでカエサルは彼の思いを理解しました。そして二人の会話は終わりました。
ヴェルチンジェトリックスは捕縛。ガリア連合軍は後に遺恨を残さぬよう一部は解放、一部をローマ軍に併合。これによりカエサルの私軍は更に強固になります。
※私軍強化及びガリアからの税収による自身の財力強化がカエサルがガリアを攻めた目的ではあります。が、強大になったカエサルを元老院が恐れ、結果、軋轢を生むことになりますがそれはまた別の話。
カエサルは捕縛したヴェルチンジェトリックスと強大になった私軍を従えローマに凱旋します。
凱旋式の先頭を行くのは鎖につながれたガリアの若将。ガリア人を話では聞いても見たことは無いローマ市民は好奇の目で彼を見ます。そして最後尾のカエサルに最大の賞賛を与えます。
僕の勝手な想像ではカエサルはヴェルチンジェトリックスをローマ市民の目にさらしたかったわけではないと思っています。むしろ、自分の愛した敵将に自らの愛するローマを見せたかったのではないか。さすがに最後尾、カエサルの隣に敵将を座らせるわけには行きません。ならばせめて、一番良く見える最前列に。ルールに従い鎖に繋がれているとしてもそんなことでは傷つかない高い誇りをその若者は持っているはずです。
その後のヴェルチンジェトリックスを多くの歴史家はこう伝えます。
「6年間ローマの牢につながれた後、処刑された。敵将を処刑しないことで有名だったカエサルにとってですら、ヴェルチンジェトリックスは生かしておくには脅威だったに違いない。」
さてそうだったのでしょうか?
僕が想像するのは恐れ多いですがおそらくカエサルは6年間、事あるごとに牢に出向き、ヴェルチンジェトリックスの翻意を待ったのではないでしょうか。部類の人好き、人たらしで知られたカエサル。何度も何度も話をすればヴェルチンジェトリックスも考えを変えてくれるかもしれない、そう思って6年間待ったのではないでしょうか。
しかし思いというものは硬ければ硬いほど、年月が和らげるものではありません。逆に頑なになっていくものです。
6年目、「部下になれ」と言うカエサルの言葉にやはりヴェルチンジェトリックスの答えは「Non」(フランス人だからね)。そしてヴェルチンジェトリックスは続けたのでしょう。「獄に繋がれ恥の人生を送るのであればカエサル最大の敵として殺してくれ」。敵ながら愛した人の願いをかなえることはその人の死。カエサルは万感の思いを胸に処刑執行書にサインしたに違いありません。
こうしてガリア戦争は終わりました。
ガリアの獅子の死から2000年、かのアレシアの地にはフランス史上初の英雄、自由と解放、そしてガリア民族「団結」のシンボルとして彼の像が建てられています。
今もなお、ガリアの地に響くカエサル軍の蹄の音を聞くかのように。
<ヴェルチンジェトリックス伝 完>
ヴェルチンジェトリックスとカエサルの真・友情パワーってカンジで。
まるでロビンマスク対マンモスマンの試合を観ているように面白かったです。
いやー面白かったー。
思ったけどさ、カエサルと曹操って通じるものがあるな。
戦った相手であっても有能なら仲間にしたいって部分。
携帯で。
世界史が苦手な僕ですが、これは面白いですね。
アントキノイノキウスでしたっけ?
今度はキン肉マンですか。マンモスマンね~、覚えてないわ~。フェニックスチーム?
>マドモアゼル
似てるよね。大帝国の末期に活躍した、というところも。ただ「俺が天に背いても、天が俺に背くことは許さん」と言ってた曹操が畳の上で死んで、人を許しまくったカエサルが暗殺されたのはどうにも皮肉だけど。
>シジマ
僕も全部、携帯で書きました。ええ、もちろん嘘ですが。