浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

地獄への道

2016-10-22 09:13:53 | 日記
先日、「働き方について」と書いた。

この中で、話のメインではないけど一つの事例として、「電通の新入社員が過労を苦に自殺した事件」を挙げた。これ自体についてどーこーいうつもりは無かったけど、なんとなく心に引っかかっていて、その後、僕はニュースをよく読んでいる。(テレビを観ないのでだいたいオンライン版の新聞とかその他のネットメデイアということになるけど)

それについて書いておきたい。

まず最初にこの記事。

「電通社員が自殺 大手企業の子息らが優遇され一般家庭の社員にしわ寄せか」

要は、電通にはいわゆるコネ入社の社員がいて、そういう社員にはあまり長時間労働とか無茶なことはやらせないらしい。

論理的に考えればそうだろうね。

コネ入社ってのはクライアントである企業の子息とか親類で、そういう人が電通にいるからその会社は電通に発注するわけで。そういう社員を長時間労働させて万が一辞められたりしたら入社させた意味がない。理屈としては分かる、分かりますよ。

でもさ、

サイッテーだよな!!そういうの!

承太郎の言葉を借りよう。



こんな俺にも、吐き気のする「悪」は分かる!!
「悪」とは!てめー自身のためだけに弱者を利用し踏みつけるやつのことだ!!



自分が儲けるためだけに、クライアントの関係者入社させ、そいつを守るために他の人に無茶な仕事させる。。サイッテーだ!!吐き気のする「悪」だ!!

現場では確かに「あいつに無理な仕事振ったらあいつはコネ入社なんで親にバレるかも知れないから。。じゃ無難なこいつにやらせよう。こいつはコネ入社じゃないんで大丈夫だ」って思うこともあるかも知れない。もちろん僕だって、同じ状況にいたら同じように考えて、同じことをするかも知れない。いや、たぶん僕なら確実にするだろうな。かなり卑怯な人間なので。

でもね、やってる人は「自分が人として最低なことをしてる」ということだけは認識しといた方がいいよ、余計なお世話だろうけど。

ウェザーリポートの言葉を借りよう。






それからこの記事。

「広告業界という無法地帯へ」

筆者は15年間、電通で働いてたらしい。すでに退職しているので、内部の話を赤裸々に書いている。

少し引用させて頂く。

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理由のひとつは、「電通は自社でモノを作って売っている会社ではない」ということだ。自社の工場を動かす会社なら、製造量を制限して「はい、ここまで」と電気を消して、社員を帰らせれば済むかもしれない。しかし、広告業界というのはクライアント企業から仕事を請けて初めて仕事が発生する受注産業である。

僕がいた頃でも、「残業は月○○時間まで」、「夜十時以降の残業をする際は、上長の承認を事前に受けること」などといった非現実的な規則が導入されていった。夜九時に営業から電話があって、「あの件、変更になった! 明日までに代案を出せって!」と言われたりしたなら、「上長の許可が得られませんので対応できません」と答えろとでも言うのだろうか。それを営業はクライアントにどのように伝えるというのか。また、営業は、そう言うコピーライターに次に仕事を頼みたいだろうか。

先人たちの努力により「大抵のことはやり遂げてくれる」との評価を築いた電通は、いつしか「どんな無理を言ってもいい存在」に成り下がってしまった。

日本企業の広告宣伝部、広報といった部署が重要視され肥大化する中で、広告主の発言権が際限なく大きくなってしまい、キーマンをあたかも神のように扱うのが広告業界の悪癖となってしまった。もちろん、靴を舐めるようにして増長を許してきた電通、博報堂を始め、各広告会社の責任も免れないだろう。拝跪して言われたことを聞き、ノタ打ち回って仕事を完遂することが優れたサービスだとして競争してきた結果が、今日の姿だ。
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つまり、電通自体は長時間労働の改善について取り組んできたけども、クライアントの要望を聞きすぎるあまりそれが形骸化してしまった、ということ。

うん、確かにそういう面はあるだろう。

この記事の中に、電通といういわゆる日本の一流企業の社員を、クライアントだから、という理由だけで無理難題を押し付け、それに快感を覚える人もいる、というようなことが書いてある。確かにそういう人もいると思う。それはまぁ最低の人種なのでおいておこう、いい死に方しないと思うからほっとけばいい。

一方で、クライアント側に悪意が無くても仕方の無い事情で急に変更を依頼し、受注側も100%の好意で、「顧客のために」と思ってその変更を受け入れる、ということもあると思う。その変更がどんどん末端社員にしわ寄せが行き、結果として長時間労働につながっていく、というような。

クライアント側(つまり広告を依頼する企業、その担当者)は自社の商品を消費者に届けたくて、100%の善意で、良い広告を作って欲しいと電通に依頼している。電通側もクライアントに貢献したいと思い、本来であれば不可能な依頼を「なんとかしてあげたい」と思い受入れ、知恵を絞る。その仕事に携わる社員は「顧客のため、会社のため、自分自身の成長のため」と思い、その無理難題を個人として引き受ける。結果として終電に間に合わず、土日の休みも潰れる。。

この連鎖というものが実は根が深い。

なぜならそこに一片の悪意も無いから。悪意があればそれは取り上げて取り除けばいい。だけど、誰も悪意を持っていない。100%の善意。

こんな言葉がある。

"The road to Hell is paved with good intentions."
「地獄への道は善意で舗装されている」

これは、とにかくひとりひとりが道の先にあるものをしっかり見るしか無い。


今回、自ら死を選ばれた新入社員の方は東大を出て、電通に入社したとのこと。東大から電通入るなんて普通に考えれば人も羨むようなエリートコースだろう。しかしその結果がこれだ。親御さん、お知り合いの悲しみを想像するととても悲しくなってくる。これをどうにかしなければこの世界、夢も希望も無いだろう。

ちょっと考えたほうがいいと思うよ。僕も考えるので。



最後に、亡くなられた方のご冥福を心よりお祈りする。