つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

百鬼丸よ、どこへゆく……

2005-12-28 19:27:00 | マンガ(少年漫画)
さて、映画化されるからってわけじゃないけど第393回は、

タイトル:どろろ(全三巻)
著者:手塚治虫
文庫名:秋田文庫

であります。

手塚治虫が描く、異色の時代劇。
百鬼丸とどろろの名コンビが恐るべき四十八匹の妖怪に挑む!



天下統一の野望に燃える男、醍醐影光。
彼は欲望のままに四十八匹の魔神に取引を持ちかける、自分の子の身体と引き替えに、力を貸して欲しいと。
果たして、後日生まれた赤子には眼も鼻も口も耳も四肢もすべてなかった……醍醐は高笑いしつつ、我が子をタライに乗せて川に流した。

十数年後、呪われた赤子は立派な青年に成長していた。
作り物の肉体を備え、百鬼丸と名乗ってまとわりつく死霊の群れと戦っていた。
彼の目的はただ一つ! 憎き四十八匹の魔神を斬り、本当の身体を取り戻す!

ある日、百鬼丸は死霊に襲われていた子供を助ける。
天下の大泥棒どろろと名乗ったその子は百鬼丸の持つ名刀に興味を示した。
そして、人間と妖怪どちらからも毛嫌いされる二人の旅が始まった――。



えげつない話です。(讃辞)
どっかの新造人間の如く、肉親のために強大な敵と過酷な運命を背負わされるヒーローは非常に多いけど、ここまで酷い扱いを受けた主人公となると皆無。
自分が死霊を呼び寄せることを知って育ての親である医師と泣く泣く別れ、安住の地を見つけたと思ったら侍の襲撃で仲間は皆殺し、妖怪と戦っても事が終われば周囲の人達から化物扱いされる……やってられないとはこのことです。

しかしそれ故に、百鬼丸の格好良さは他の追随を許しません。
正義とか悪とか関係なし、生き延びて過去の因縁に決着を付ける、そのためだけに旅を続け、立ち塞がる相手があれば妖怪だろうが人だろうが斬り伏せます。
戦う姿はまさに和風サイボーグ――左腕に仕込み刀、左脚に毒の放射器、感覚器官の代わりにテレパシーを備え、太刀を振るえば魔神すら両断する!

ちなみに、仇の魔神を一匹倒す毎に身体の一部が戻るのですが、これが救いになっているかと言うと実はそうでもありません。
百鬼丸が魔神に対抗できるのはその属性が敵に近いからです、しかし、肉体を取り戻すたびに彼は人側に近づいていく。
そう、百鬼丸は遅かれ早かれ破れる運命にあるのです、それが最後の一匹との戦いでか、残り何匹か残した状態でかは解りませんが。

悲惨すぎるぞ、百鬼丸

反骨精神の塊のようなどろろもいいキャラです。
ただ、百鬼丸の特殊性に比べるとちと弱い、かな。
初版の設定では『奪われた百鬼丸の身体を使って造られた子供』となっていたのですが……それだと殺されちゃうことになるんですよね、百鬼丸に。(爆)

次々と現れる奇妙な妖怪との戦い、人間達との確執、権力の象徴でありすべての元凶でもある醍醐影光との対決など、ドラマも充実――オススメ。
すべての魔神を倒す前に物語が終わっているため、続きが読みたいという意見も聞きますが、私はあのラストだったからこそ素晴らしい作品になったのだと思います。