つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

こういうほうが好きかも

2005-12-23 16:00:51 | 時代劇・歴史物
さて、ふと珍しくて買ってみたの第388回は、

タイトル:幽剣抄
著者:菊地秀行
出版社:角川文庫

であります。

伝奇小説では知らない者はいないのではないかと言えるくらいの著者の時代小説。
舞台は江戸時代で、幽霊などと下級武士との関わりや戦いを描いた短編集。

だけど、このひとの伝奇小説によくある派手な戦闘や官能的な描写などはほとんどなく、そう言う意味では地味。
とは言っても、日本的な幽霊の持つ冷たい雰囲気や不気味さは十二分に感じられる作品で、どの短編もけっこうおもしろかった。

各話は、

「影女房」
辻斬りに遭い、殺された小夜と言う女幽霊が伯耆流抜刀術の使い手榊原久馬に、辻斬りを斬ってほしいと依頼され、それを果たす話。

「茂助に関わる談合」
茂助と言う奉公人にまつわる話で、館林甚左衛門の甥の喜三郎のところへ奉公に出し、そこで暇を出されたはずの茂助が何食わぬ顔で、甚左衛門の家にいる、と言う話。
茂助の不気味さが、茂助本人ではなく、甚左衛門や喜三郎と言った者たちの言動によってうまく描かれているショートショート。

「這いずり」
藩の金を横領した罪で殺された地次源兵衛の幽霊を、おなじく地次を討った討手が再び倒しに行く話。
腰を悪くして這いずるようにして剣を振るう地次と、数十石の下級武士が武士階級の底辺で這いずるように生きるしかない現実とを描いている。

いちばん好きな話。

「千鳥足」
何人もの武士が足を滑らせ、溺死する千鳥ヶ淵の怪異譚を藩随一の剣の使い手である大辻玄三郎が確かめる話。
過去の戦乱の話と怨霊の話の使い方、ラストの一文がすっきりとうまくまとめてくれているショートショート。

「帰ってきた十三郎」
宵宮良介の兄の嫁になる世津という女性が、過去に恋仲にあった十三郎という、過去に剣の修行に出て行方不明になった男が、世津のもとへ姿を現したため、良介のもとへ、これを斬ってほしいと頼まれ、対決する話。

「子預け」
突然、ある女が「これはあたなのご主人の子供です」と言って子供を預けていく話。
もちろん、その子供、親ともども化け物だが、預けられたほうの夫婦のやりとりがおもしろいショートショート。

「似た者同士」
愛しさが極まれば斬らずにはいられない性癖を持った二重人格の武士が、そのもうひとつの人格を殺すために雇った浪人、そしてその武士の妻、妾を巻き込んで繰り広げる話。

結局、殺してくれと言うのが、極まった自己愛に起因するものというオチではあるけれど、読むぶんにはいちばん読み応えがある話だったかもしれない。

「稽古相手」
ただひたすらに剣の稽古に明け暮れていた、藩では敵なしの武士が稽古中に出会った好敵手と出会い、互いに討ち果てる話。
なんかショートショートは短いながらもしっかりしたのが多いなぁ、と思う。

「宿場の武士」
ある宿場の前に行き倒れになっていた、修行中の武士が、その宿場で自らが求める剣の道を見つけ、それを修得するまでの話。

短編集なので、話の中には好みとかでどうかと思うのはあるけど、総評としてはけっこうおもしろかった。
伝奇小説のほうは、パターン化されてて、似たようなものが多いのであんまり読む気にはならないけど、これは次を読んでもいいな、とは思う。

それにしても、著者紹介のところで「2004年7月には、著作300冊……」とある。
300冊!? 300作品の間違いじゃないのか!?
と言う気がしないでもない。
と言うか、Wikipediaでは作家になって23年くらいとあったから、年に14、5冊のペースで書いてんのか、このひと……。

やはり、化け物だな。