ワニと読むミステリ（ミス・マープル最初の事件）

読むと、隠してもはしばしに現れます。
　
（アガサ・クリスティ著）
　ミス・マープル再読。
　1930年に発表されたミス・マープルのシリーズ最初の作品です。ここからミス・マープルものが始まったのかと思うと感慨深いものがあります。
　ロンドン近郊のセント・メアリ・ミード村は人口も少なく静かで平和で家に鍵もかけないようなおよそ犯罪とは縁がなさそうなところです。目下の村の話題といえば、考古学者による村の遺跡の調査くらいです。
　そんなおだやかな村でも、レナード牧師には悩みがあります。何かとうるさい治安判事のプロズロー大佐が今日は訪ねてくるのです。問題を携えてくるのは必至。憂鬱な気分のところで急な用事ができて呼ばれて、約束の時間に少し遅れて帰ってきたら、牧師館の書斎で当のプロズロー大佐が射殺されているのを発見します。
　いいですね、こういうミステリの始まり方は。実に無駄がないし、最初に村の出来事の状況をしっかり説明しています。
　最初は、牧師館の人の出入りから犯人は容易に見つけられると思われましたが、なかなかどうして手段と機会がそろわずに容疑者を特定することができません。
　事件を解決するのは、しっかりとご近所の動きを観察し、人間の心理にも通じた村の有閑婦人ミス・マープルです。ほんとにあらゆることを良く観察していますね。見たことに対して、どうしてそうなっているのか、深く考えているところがポイントです。ミス・マープルの技法はどこでも活用できそうです。
　最初から最後まで、読者を飽きさせることなく、少しずつ人間関係や動機につながるものを明らかにしていくところはさすがにクリスティです。直接事件には関係ないサイド・ストーリーも副菜として添えられていて村の出来事を生き生きと語っています。
　ミス・マープルの観察眼から逃れられるものはありませんね。
　やっぱりクリスティはいいなぁとあらためて思いました。これを読まなければミス・マープルは語れません。
　
■牧師館のミステリ
　ジル・マゴーンの「牧師館の死」。みんながウソをつき、少しずつ真実を語る。そしてそのウソがだんだん明らかになっていく、そのあたりの語りが絶妙です。
　牧師館で殺人が起こるというのが、特殊なシチュエイションで、ミステリ・ファンとしては見逃せません。

主人公：　ミス・ジェーン・マープル（村の有閑婦人）
場所： 　イギリス、セント・メアリ・ミード
グルメ：　なし
動物：　　なし
ユーモア：　小

	ミス・マープル最初の事件 (創元推理文庫)
	アガサ クリスティ
	東京創元社