ワニと読むミステリ(虎の首)

読むと、演技の中に本気が入ると、筋が狂います。

(ポール・アルテ著)
ツイスト博士のシリーズ、したがって密室殺人です。
ロンドン郊外の小さな村レドンナムでは、以前からの住人と休暇で滞在する人たちと、なごやかな交歓が行われていますが、のどかな表面とは別に奇怪な事件が起こり、住人を悩ませています。
村で、ちょっとしたものが盗まれているのです。犯人は皆目検討もつきません。さらに盗まれるものはエスカレートし、最初はチョコレート程度だったのが、ついには教会の大燭台まで盗まれて。
ツイスト博士は、休暇でリビエラに行っていましたが、ロンドンに戻ると、さっそくはースト警部のお出迎えで、今ロンドン警視庁を悩ませているバラバラ殺人事件の話を聞きます。
女性のバラバラに切断された手足が、置き去りにされたスーツケースからみつかったのです。
さらにまた同じようなバラバラ死体が発見され、ある手紙から、それらの事件がレドンナム村に関係があるらしい。
この村に住む退役軍人のマグレガー少佐は、インドでの体験を語ってみんなを震え上がらせたりしていますが、ある日、なかなかインドでの不思議な出来事を信じようとしない滞在客に、「虎の首」と呼ばれる杖の魔法を実証しようとします。
すべてのドアと窓を閉め切って、各ドアや窓の前には証人を配置して、誰も出入りできないようにします。
中で大きな音がして、そのあと静かになったので、なんとか部屋に入った人たちがみつけたのは、少佐の死体。でもすべての出入り口は鍵がかかり、しかも誰かが見張っていたのです。
みなさん、この密室の謎がとけますか。

3つの事件が入り組んで描写されるので、じっくりと丹念に読む必要があります。
小さな村の社交生活も、いきいきとしているので、イギリスの小村ってこうなのかと、こちらも楽しめます。
こういう本格派のミステリはやっぱりミステリという感じで、大事に読みたいです。

最初の登場人物一覧に間違いがあります。初版だけかな。
少佐の甥は、ジムですね。

■ツイスト博士のシリーズ
 どれも密室ものです。
 第四の扉
 カーテンの陰の死
 死が招く
 赤髯王の呪い
 狂人の部屋
 七番目の仮説
 
主人公: アラン・ツイスト(犯罪学者)  
場所:  イギリス、ロンドンとその郊外
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 中

虎の首〔ハヤカワ・ミステリ1820〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ポール・アルテ
早川書房

密室もののファンに
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ワニと読むミステリ(名犬ランドルフ、スパイになる )

読むと、相続もときには危険。

(J・F・イングラート著)
 黒ラブのランドルフのシリーズ2冊目です。
 今回は、元ご主人のイモージェンがでてきます。前作では、ある日突然ランドルフとハリー(画家)の前から姿を消し、その後なんの手がかりもないままに行方不明となっています。
 ある日、ハリーの友人でもあるニューヨーク市警刑事ピーターから呼ばれてハリーが駆けつけると、そこにはパラシュートを被った男の死体があり、しかもイモージェンらしき女性が現場から走り去るところが目撃されています。
 ランドルフの元ご主人イモージェンは、殺人の容疑者にされてしまいます。
 事件現場は、下宿屋でいろいろな人が住んでいますが、その中には数人外国のスパイがいるらしい。
 そして、イモージェンが相続する予定の鉱山の権利を狙っているらしい。
 ランドルフは、ここに下宿することになった外交官のセラピー犬として事件現場に乗り込み、単身で捜査にあたります。
 でも、ランドルフ、どうも元気がなくて、体の具合が悪そうです。
 チョコレートを食べて、あわや死にそうな目にあい、獣医さんに連れて行かれて、甲状腺障害と診断されました。毎日きちんと薬を飲みます。獣医さんのところに入院するときに、ランドルフは寂しくてとても心細くなりますが、ハリーのTシャツが届けられると、それにくるまってハリーの匂いに包まれてようやく眠りにつくことができます。
 キュンときますね。
 でもランドルフの災難は続きます。珍しい料理の材料が手に入らないシェフが、あせったすえに、ランドルフを料理しようとするのです。
 危機一髪、ランドルフ!
 
ハリーのおませな姪ハディ。
ランドルフの耳をおもちゃにしたりして、ランドルフを恐怖に陥れます。

謎解きとしてはまぁまぁですが、ランドルフの活躍で満足しました。
かわいい。 

■ドッグラン
 ニューヨークの街には、あちこちにドッグランがあるようですね。
 たまに乱暴者のイヌに出くわしたり、おしゃれイヌが気取って歩いたり、人間の街と同じですね。
 
主人公: ランドルフ(黒ラブラドール・レトリーバー)  
場所:  USA、ニューヨーク
グルメ: なし
動物:  イヌ:黒ラブラドール・レトリーバー
ユーモア: 中


名犬ランドルフ、スパイになる (ランダムハウス講談社文庫)
J F イングラート
ランダムハウス講談社

黒ラブを愛する人に
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ワニと読むミステリ(迷路)

「秘密の多いコーヒー豆」(クレオ・コイル著)を買ってくださった方、ありがとうございます。コーヒーのウンチクも、楽しんでくださったでしょうか。

読むと、わかってみれば動機は単純。

(フィリップ・マクドナルド著)
 ゲスリン大佐のシリーズです。ワニは、ゲスリン大佐は、2冊目です。1冊目の「鑢」でゲスリン大佐登場。
 「迷路」では、ゲスリン大佐は結婚し子供もできて、今はスペインに旅行中です。
 事件は、ロンドンの高級住宅街ケンジントンのブラントン邸でおきます。実業家の当主が、書斎で殺されているのが発見されます。家の構造や、状況により、外部からの侵入者による犯行とは考えられず、犯人はこのときにブラントン邸に滞在していた10人の男女の中にいると思われます。
 密室に近い状況です。
 ブラントン夫人、娘、息子、友人たち、秘書、執事、家政婦、小間使いなど。
 検死審問の全員の供述からは、犯人を断定することができず、警察は事件を解決することができません。
 そこで、ゲスリン大佐の友人でロンドン警視庁犯罪捜査部副総監ルーカスから、ゲスリン大佐に捜査の助けを依頼する手紙がかかれます。
 事件は、関係者の供述や証言から描かれ、すべてはルーカスからゲスリン大佐への手紙にしたためられています。ゲスリン大佐は、これらの膨大な証言を読み、事件の謎を解いていきます。
 すなわち、安楽椅子探偵ものでもあります。
 このごろは、安楽椅子探偵は、あまりみませんね。
 ゲスリン大佐と同じ犯人に、たどりつくことができますか?

■読者へのフェアプレイ
 事件解決の手がかりは、本の中の探偵と読者に、公平に示されています。
 読者への挑戦ですね。
 エラリー・クイーンのシリーズには、いつも最後に読者への挑戦がありました。
 
■安楽椅子探偵
 バロネス・オルツィの「隅の老人」や、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」のシリーズ、ディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」など、以前はずいぶんありました。
 ミステリの黄金期には、いろんな試みがありましたね。
 また読み返してみたいです。復刻版もたくさん出ているので、ぜひみなさんも読んでください。古いミステリもとても良いです。

主人公: アントニー・ゲスリン大佐(退役軍人)  
場所:  イギリス、ロンドン
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 小



迷路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
フィリップ マクドナルド
早川書房

探偵に挑戦したいかたへ
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ワニと読むミステリ(D・E・ウェストレイクに黙祷)

D・E・ウェストレイク、または、リチャード・スターク、が2008年12月31日に、休暇先のメキシコで亡くなったそうです。心臓発作だそうです。
75歳。
もう泥棒ドートマンダー・シリーズにお目にかかれないと思うと、とても残念です。
周到に練り上げられた計画、いつも起こる予期せぬ出来事、予想もつかない最後。
窮地に陥ったドートマンダーが一番好きです。

ドナルド・エドウィン・ウェストレイク
1933年7月12日 ~ 2008年12月31日 (75歳)
ペンネーム:
     リチャード・スターク   (悪党パーカー・シリーズ)
     タッカー・コウ
     サミュエル・ホルト
     カート・クラーク
     ティモシー・J・カルヴァー

映画化された作品も多数あります。
「ホット・ロック」は、忘れられません。
主演したロバート・レッドフォードがほんとに素敵だった。
1972年の映画なので、ちょっと古いですが、ぜひ見て欲しいです。

ご冥福をお祈りします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ワニと読むミステリ(神の家の災い)

読むと、修道士も他の人と同じ。

(ポール・ドハティ著)
 アセルスタン托鉢修道士が探偵役のシリーズです。
 1379年6月のロンドンを舞台にしたミステリです。どうもこのごろ昔を舞台にしたミステリを読むことが多いです。
 アセルスタン托鉢修道士は、ロンドンのシティ検死官ジョン・クランストン卿の助手をしています。2人のコンビで、殺人事件を解決するためにロンドンのいろいろなところを歩き回りますが、その中にはいかがわしいところもあり、このころのロンドンの様子が目に見えるようです。それにしても、すさまじい街の様子です。
 今回の謎は3つもあります。同時に3つの謎を2人は解かなければならず、そのうちの1つはジョン卿の人生がかかっているので、読んでいるこちらも緊張してしまいます。
 1つは、アセルスタンの教会での工事中に敷石をはがしたらその下から白骨が発見され、殉教者かもしれないと、教区民が大騒ぎ。みんなそれぞれにこれで一儲けしようとあの手この手の儲けの手口を考え出します。根は良い人間ばかりですが、欲がからむとこれは大変。
 2つ目は、アセルスタンが修練のときに所属していた修道院の院長から調査依頼があり、どうも修道士に対する連続殺人事件らしい。
 3つ目は、ジョン卿がまんまとはめられて、国王リチャード二世とその摂政ジョン・オブ・ゴーントの宴の最中に、客人のクレモナの領主から提出された「緋色の部屋」の謎を解いてみせると酔った勢いで自信満々に言ってしまいます。千クラウンの賭け。負ければジョン卿はとても払いきれるものではありません。この賭けのことを聞いたモード夫人に、ジョン卿はこっぴどくやっつけられます。大食漢で、大酒飲みで、いばりちらして、太鼓腹のシティでは恐れられているジョン卿も、モード夫人の前では、まるで赤ちゃんのようになってしまいます。このあたりが憎めない。
 この3つの謎、みなさんは解けますか?
 ワニは、1つは解けました。

 ■アセルスタンのシリーズ
 このほかに、もう2冊出ています。
 毒杯の囀り
 赤き死の訪れ
 すでに、このシリーズは10冊出ているようなので、早く残りの翻訳がでるのを期待します。
 
 ドハティには、その他、密偵や王座裁判所書記が探偵役のミステリもあります。
 
主人公: アセルスタン修道士(托鉢修道士・ジョン卿の書記)  
     ジョン・クランストン卿(シティの検死官)  
場所:  イギリス、ロンドン
グルメ: なし
動物:  ネコ:ボナベンチャー
ユーモア: 中


神の家の災い (創元推理文庫 M ト 7-3)
ポール・ドハティー
東京創元社

やたらとワインが飲みたい方に
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ワニと読むミステリ(ヴェルサイユの影)

読むと、歴史の中に入ってしまいそう。

(クリステル・モーラン著)
 フランスのミステリは、ちょっと独特の雰囲気があります。ヨーロッパ的陰影があるというか。
 ヴェルサイユ宮殿内での殺人事件です。しかも連続殺人事件。
 夜間は閉まっていて観光客が入れないはずの庭園で、早朝女性の他殺体が発見されました。夜間の見回りの時にはなかったので、その後にここで殺されたのか、または死体が持ち込まれたのか。
 事件を担当するのは、パリ司法警察のボーモン警視です、当年42歳、背が高く、灰色がかったブルーの目をしたちょっとロマンスグレーになりかけの魅力的な中年男性です。
 事件現場がヴェルサイユ宮殿なので、観光案内が満載です。宮殿、礼拝堂、庭園など捜査とともに歩き回り、その美しさと荘厳さを楽しみましょう。噴水もきれいそうです。
 それとともに、宮殿の歴史も語られるので、それも勉強になります。パリに旅行に行く前にこのミステリを読んでおくと、大変役に立ちそうです。
 ボーモン警視は、事件の捜査中に知り合った宮殿関係者の若い女性と恋をしてしまいますが、このあたりはフランスのミステリらしいですね。
 フランスだからと、グルメを期待したのですが、おいしそうなレストランに行く場面はあっても、特に料理に触れるところはないので、こちらの楽しみはなし。

■パリ警視庁賞
 この本は、2006年度のパリ警視庁賞受賞作品です。
 他には、ジュール・グラッセの
 悪魔のヴァイオリン
 があります。
 こちらは、サン・ルイ島が、事件の舞台です。

主人公: アクセル・ボーモン(ヴェルサイユ司法警察の警視)  
場所:  フランス、パリ
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 小


ヴェルサイユの影〔ハヤカワ・ミステリ 1796〕 (ハヤカワ・ミステリ 1796)
クリステル・モーラン
早川書房

パリに行く予定のある方に
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ワニと読むミステリ(ベベ・ベネット、死体を発見)

読むと、出世の階段は穴だらけ。

(ローズマリー・マーティン著)
 1964年4月のニューヨークという設定のミステリ。
 ベベ(エリザベス)・ベネットは、ヴァージニア州リッチモンドの出身。ニューヨークに出てきて、リップ=シティ・レコード社の芸能部部長の新米秘書として勤務することになりました。ベベのルームメイトは、スチュワーデスのダーリーン。
 ダーリーンに誘われてダブル・デートのはずが、なかなか現れないデート相手を訪ねてホテルの部屋を調べに行き、そこに死体を発見。バスタブの中でギターを抱いて事切れていたのです。
 ダーリーンは、容疑者にされてしまい、街を離れないように警察に言われるのでスチュワーデスの仕事ができなくなってしまいます。気管支炎とこわーい上司を偽って、ベベとともに捜査に乗り出します。
 1964年という設定なので、全体的にのんびりしてホームレスもちゃんと活躍の場があります。このころのニューヨークの感じが良いですね。
 ベベの会社から売り出そうというグループは、イギリスの歌謡界で地位を築いているグループで、アメリカでのさらなる発展を狙っていますが、これがビートルズと同じやり方をしようとしているのが、なんだかそんな時代だったのかなと思わせます。
 リッチモンド出身のベベは、まだとっても純なお嬢さんで、もう今では見ることができないタイプですね。
 レコード会社の厳しい収益性の追及や、グループ内の確執や、メンバーの恋人なのか元恋人なのかの女性やら、はでな記事を書く強引な女性レポーターなど、歌謡界のいろんな面が楽しく描かれていて、こっちの方面も楽しめます。
 ベベの周りの人たちも、とても良い人たちで個性的で、少しも退屈することなく読めます。
 ベベの片思いは、これからどうなっていくのでしょう。
 すでに3冊が出版されているそうですので、これから翻訳が出るのがとても待ち遠しいです。

■高慢と偏見
 ジェイン・オースティンの作品を映画化した同名のDVDを見ました。
 ベベの名前は、母がジェイン・オースティンの大ファンだったところからつけられました。
 日本では公開されなかったそうです。
 グリア・ガースンがとってもきれいでごうじょっぱりで、ローレンス・オリビエが、ほんとに素敵。500円でDVDが買えるので、ぜひみなさん見てください。
 
主人公: ベベ(エリザベス)・ベネット(リップ=シティ・レコード社の秘書)  
場所:  USA、ニューヨーク
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 中

ベベ・ベネット、死体を発見 (創元推理文庫)
ローズマリー マーティン
東京創元社

1960年代を懐かしむ方に
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
     
 
 
<script async src="//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js"></script> <script> (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({}); </script>