女の子になる方法、教えます!

性同一性障害になやむ若いMTF当事者に向けてのメッセージです

理想の職場、理想の社会

2022-09-25 00:19:04 | 移行後の情景
 毎週楽しく見ているチェイサーゲーム(テレビ東京系列)で、今週はFTMのインターン生が、職場で受け入れられるまでを描いていました。1人のマイノリティが職場に加わることで周りも成長していく、とてもすてきな描かれ方でした。
 そう!
 これが私の持つダイバーシティへの違和感です。
 マイノリティを、その特性ではなくその人としてみる、その人のありのままを受け入れるという職場ってトランスにとって素敵でしょうか。私が、トランスだとふつうにカミングアウトしみんなが受け入れ、わたしのありのままを見てくれる、私のジェンダーのありようではなく、人間性や仕事の出来不出来で見てくれる、そんな環境って素敵でしょうか。

 わたしは、そんな居心地の悪いところにはいられないです。
 人って、自分のフィルターを通して見えている世界でしか相手を評価できません。だからこそわかり合う努力をするし、自分の狭い視野を広げようと努力し合います。その相互作用が人間関係です。
 わたしは、トランスジェンダーとしてありのままにいきたいからトランスをしたのではありません。「女性」としてみられたいからトランスをしました。そして、わたしと接する人に、わたしに「女性」として接することを強制したくありません。私をそれこそ先入観なく、「みたまま」「感じたまま」受け入れて欲しいのです。それが、ふつうの女性だろうと、「男みたいな女性」だろうと、「ほんとはMTFってばればれだけど義理で女性として扱っている」のだろうと、かまいません。もし、後者だとすれば、私の努力不足、素質不足、運がなかっただけです。誰のせいでもありません。
 実際、社会は理不尽な偏見だらけです。その偏見に苦しんでいる人もたくさんいます。けれども、それが社会です。それを変えていくことは大切ですが、「わたしがトランスだから」旗をあげなくてはいけない義理があるわけではありません。マジョリティもマイノリティも平等に義務を負っているはずです。

 実は、今年4月に転勤した職場は、非常にホワイトで、サービス残業は業界の中ではかなり少ないところだと思います。過去の職場でみてきた精神疾患で休職した人、やすみがちな人はまったくいません。この半年の間に、全職員対象の性の多様性に関する研修もありましたし、ある研修(これも全員参加)はLGBT当事者が講師として招かれて話をしていました。セクシュアルマイノリティだけでなく、他のマイノリティに対しても、敬意をもって、共に働いている理想的な職場でしょう。

 けれど、こんなにすばらしい職場なのに、私はとても居心地が悪いのです。なぜかというと、自分がトランスであることを常に意識しなければいけないからです。私も一緒にみんなが等しく守られる尊重される職場、業務を作っていかなければいけないと常に意識させられるからです。

 今後よりよい職場に、よりよい仕事にしていくためには、ある段階で自分の主張を裏付けるためにカミングアウトしなければいけない場面が出てくるかもしれません。それこそ、前の職場では以前に書いたように、LGBTの研修を受けてきて肯定的な感想を言ってた人が顧客のジェンダーレスな振る舞いを笑いのネタにするくらいの、ジェンダーの尊重とは縁のないところでした。ここでは、多くの職員が意識高く、それこそ顧客の服装やトイレの利用についても微妙な事例は一緒にまじめに相談しています。そんな問題に、「当事者でない人間」としてふるまうことはかなりしんどいです。笑いにされていたほうが「自分とは関係ないこと」と思えたので楽でした。

 わたしは決して、LGBTが社会で受け入れられることがダメだと思いません。すばらしいことです。そして、当事者目線でいえば、今の職場はほぼ完璧です。それなのに、居心地が悪い。前の職場(前の前の職場でも)で私にとって性別は普段意識しなくていい、あるいは時折あるセクハラな言動をかわすくらいの問題なのに、今の職場では、常に意識しなければいけないしんどい問題になっているのです。さもLGBT当事者じゃないようにふるまわなければいけないのです。

 わたしのような当事者にとって、特例法は本当に世界が広がりました。けれども、常に意識を高く持ってどんなマイノリティも受け入れていきましょう、という運動は、決して居心地がいいとは限らないのです。
 わたしは、トランスジェンダーとして受け入れてい欲しいのではなく、ありのままの(あなたの偏見の目を通した)私として受け入れて欲しいのです。それが、男であればしかたないし、リードされるなら仕方ありません。わたしがあなに気に入られるよう努力するか、関係を絶つかどちらかです。

 そういう人も、そういうMTFも、わたし一人じゃないと思います。

近況報告2022 過去の栄光をはぎとって裸でスタートする

2022-09-03 00:05:14 | ブログについて
今年の4月から新しい職場に転勤となりました。本体業務は同じでも、職場によって所属する職員の経験や年齢はばらばらで、それによって求められる仕事は違ってきます。
 関西に来てはじめて配属された前の職場はやや少人数でわたしがほぼ一番年上、また、過去北海道時代の経歴も経験も必要としてくれたし、職場での積み上げもあり、上司も後輩も私を頼りにしてくれていました。
 この春転勤してきた職場はやや大きい職場。私は年長ですが、私より年上の方も何人もおられます。また、私が北海道時代や前の職場で経験を積んできた業務について、今の職場で求められることはほとんどなく、また、やりたい仕事をさせてもらえることもなく、これまでまったく経験してこなかった新しい業務を担当しています。
 新しい業務については、私よりくわしい方が職場に何人もおられ、今のところは少し疑問があってもくわしい方の意見を参考に進めていっています。まだ自分の考えを出すことはありません。
 これまで経験を積んできた業務については、今の職場でもたぶん私が一番くわしい(少なくとも一番経験は積んでいる)のですが、大きな決定にかかわる助言をすれば、職場が混乱してしまうので、今のところは小さな助言くらいしかしていません。
「○○について経験してきた職員がいないので、~」
「新しく○○という制度ができて分からないので」
などの話が管理職から出る度に、(いやいや、経験してきてるけど、それもじっくり。)
と言いたくなるのを我慢しながら、仕事をしています。
 今週も、その新しい制度についてもめたときに、「前の職場と違い」私の説明や意見がまったく伝わらず、上司と後輩が話して落としどころをつくってとりあえずの解決を図っていました。

 今自分の与えられている業務は他の人から聞いてなんとかやっているレベル、役職も特別な資格もない50すぎのおばあちゃんなんて、こんなものです。他の人からしたら、「またうるさい人がなんか言ってる」と思っているでしょう。

 で、ここで愚痴をはきたいのではなく、弱音をはきたいのではなく、今のこの状態から、独身女性で役職もなくみんなが知り得る経歴もなく人脈も資格もなく大きな責任も求められていないこの状態から、また、自分らしさを発揮していく、職場を自分の経験や考えを生かしたものに変えていく、なんの勲章も虚飾もない、むしろ裸な状態から自分の生きた経験を積み重ね、生きた助言をし、人間関係を作っていく、その作業がまたできるなんて素晴らしいと感じています。

 わたし(あなた)に誰も期待していないし、わたし(あなた)が過去どんなにすばらしい業績をあげてきたか、どんな人脈をつくってきたか、どんなやさしい人でたくさんの人を助けてきたかは誰も知りません。

 そう、移行当初とまったく同じです。
 
 移行後は、もし埋没生活をするなら、あなたの過去のがんばりは、周りの人はまったく分かりません。おそらくとてつもない努力の末勝ち取った移行、それも埋没移行であればなおさらです。けれども、スタートすると、周りの人は、移行後の今の素のあなた(わたし)が何をしたか、しか見ることができないのです。

 では、また一から経験や人間関係を積み上げていき、遠いゴールにたどり着かなければ幸せは得られないのでしょうか。

 いいえ。
 一から積み上げていく、自分の過去の栄光をはぎ取って裸からスタートする楽しさを、幸せを、自分の経歴や積み上げた能力・技能ではなく、自分が何をしたか、何をしているかで判断してくれる環境の中で、味わっていくことができるのです。